第6話
「それでは、そろそろ黙祷の時間となりますので、所定の位置にお戻りください。」
休憩時間は短く、すぐにそのときはやってきた。
「9年前の大侵食では多くの犠牲者が出ました。約1万人の方が亡くなり、その半数以上がここ守矢市で亡くなったとされています。」
「本校の前身、守矢市立第二高等学校の卒業生の白鷺誠一氏、白鷺澪氏は大きなご活躍をされ、英雄とも呼ばれています。」
白鷺誠一。白鷺澪。その名が呼ばれた時、一段と鼓動が早くなるのを感じた。
「しかし、そのご両名も大侵食第五波の戦いの最中、誠に残念ながら、殉職されました。痛惜の念に堪えません。」
呼吸が苦しくなる。
「大丈夫ですか?」ふいに声をかけられた。白石さんの心配そうな顔が。
そこでやっと全身が震えていることに気づく。
「すみません。大丈夫です。ありがとうございます。」
深呼吸。深呼吸。ちょっと落ち着いた。これで大丈夫なはず。
「黙祷。」
祈りをささげる。心から。真っすぐに。
***
「先ほどはすみませんでした。ありがとうございます。」
「いえ、それより大丈夫ですか。去年保健委員でしたし、私もついていくので、保健室に行ったほうが――」
「大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」
先ほど声をかけてくれた白石さんに礼を言い、職員室へと向かう。
「避難経路はこうで、マニュアルはこれね。去年からの変更はなし。一応、もう一回確認してね。」
30分くらいかかるものかと思われたが、例のあれ、守護係の指導は15分もかからなかった。基本的にはいつものメンバーだ。だって誕生日順だしね。
ちなみに、学年で一番誕生日が早い人は、守護係のリーダーとなり、全体を統括する立場となる。毎年同じ人である。頭が上がらない。
そういえば4人しかきてないな。5-4は1。一人はもう帰ってしまったようだ。
これで今日の学園での用事はすべて終わりだ。さっき入ったのは正門だが今度は南側の道路に面する門を出る。こちら側には学園に併設された寮なんかもある。
門を出て、右手に向かう。用事があるのは目の前の橋の先だ。
橋を歩く。風が気持ちいい。ここまでくるとだいぶ人が少なくなる。
川を隔てて奥は、9年前の大侵食で大きな被害が出た地域である。結界内とは言え、人が寄り付きにくい場所だ。数軒の貸家を除き、ほとんど人が住んでいない。
結界というのは人々を守るフィルターみたいなもので、行政が管理している。正式名称は守護結界だ。この結界があるから、安全に人々は暮らせるのである。基本的に侵食体には物理的な防壁は機能しない。だから魔法の力で守るしかないのだ。
さらに進む。用があるのはこの先だ。時刻は13時を回った。そういえば、昼食を食べるのを忘れてた。いつもバッグに忍ばせているゼリー飲料を取り出す。近くにあったベンチに座っていただくことにする。グラグラ。少し不安定だが、まあ大丈夫だろう。
いま向かっているのは町はずれにある墓地だ。何をしに行くかというと、白鷺誠一氏、白鷺澪氏のお墓参りだ。ここでは誠一お兄さんとみおねえさんといったほうがいいかもしれない。市立学園と中央守護学園の間にある公園にも英雄を悼む石碑があるが、自分が行くのは白鷺夫婦の個人としてのお墓だ。
すぐ前に誰かが来ていたのかと思うほど、お墓は綺麗な状態で保たれていた。辺りを見渡しても人はいない。お墓の中央には綺麗な桜が。
しづ心なく、花の散るらむ。
何事もずっとあるわけではないらしい。理由もなく、大切なものが散っていくことだってありえてしまう。
手を合わせる。ここへ来るのは何度目だろうか。その度に何も成長できていない自分が恨めしくなる。これでは在りし日の約束を守れない。
強くならなくては。
その場を後にする。次に向かうは結界の外だ。
お読みくださりありがとうございます。
後書きを追加いたしました。(2026年4月25日)




