第4話
「キーンコーンカーンコーン」
女性の先生が入ってくる。
「では私ちょっと行きますね。最初に紹介の場を設けていただけるとのことだったので。」隣の少女が席をたった。
「おはようございます!」
「おはようございます!」
クラス別オリエンテーションが始まった。今日はオリエンテーションのみだが、クラス別のものと学年別のものの二段構えである。
「まずは新しい仲間の紹介からしますね~。では白石さん軽く自己紹介をお願いします。あ、黒板に漢字書いていいからね。」
「はい。では失礼します。おはようございます。白石結衣と言います。漢字はええと。少々お待ちください。」
チョークの音が響く。決して爪できぃぃーってやる音ではない。短い間のやり取りだが、あの子はそんなことをしないと確信できた。
「こんな感じです。」
達筆だ。緊張もあるだろうに一発書きであのクオリティはすごい。
(すっげえかわいい。てか飛び級か凄いな。)
(かわいい。スタイルもよくてうらやましー。)
(2年下にあんな子いたんだね。校舎違うからきづかなかった。)
(身長は150㎝くらいか。俺のストライクゾーンだ。)
先ほどから教室がざわついている。しかし、少女、いや白石さんか、は淡々と滞りなく自己紹介をすませた。自己紹介における一発ギャグの割合ってどのぐらいなのだろうか。今度統計をとってみたいな。それにしても字が綺麗だった。
「綺麗だったよ。」
席に戻ってきた白石さんに声をかける。流石にあの字のクオリティを見せられては、こちらも何か一言言いたくなった。
「へ、え、え?……。あ、そっか。ありがとうございます。」
白石さんは何故か戸惑うような素振りを見せた後に、何かに得心した様子で言葉を返した。
「主語は明確にしましょうね。」
するとちょっと不満そうな様子でそんなことを口に出した。
意外だった。朝の様子を見ても、かなりまわりに気を遣って相手に合わせるように振舞っていた白石さんがそんなことを言うとは。
ただ、発言の内容には納得だ。日本人は主語を省略する癖がある。やっぱheとかsheとかいちいち明示するべきなのかもしれない。古典の授業で散々思い知らされた。
「あ、すみませんでした。」
でもよかった。気を遣いすぎて疲れてそうだったから、ちょっとでも自分を出してくれたのを嬉しく思う。少し安心である。
その後は先生も含めての軽い自己紹介、今後の動き、配布物の説明などがあった。担任の先生は烏丸先生という名前らしい。今年赴任してきたばかりでわからないことが多いから、学生からも色々教えてほしいと仰っていた。
年齢が絶対視される魔法系の学園の教師にしては珍しく、生徒との目線が近い親しみを感じさせる先生だった。
「柊くんは学年別オリエンテーション後に職員室に来てね。悪いけど決まりだからごめんね~。」
「はい、わかりました。」
普通は学年別オリエンテーションで解散だが、自分は職員室に行かなくてはならない。用件は見当がついている。
唐突だが、柊結人の誕生日は4月3日である。そう、これはクラスで一番早いのだ。これはすなわちクラスで一番年上ということであり、有事の際に殿を務める役割を与えられる。
<年上は年下を守り、年下は年上に守られる。>という理念のもと、クラスのみんなを守る立場となる。とはいってもここ数年そんな緊急事態は起きたことがなく、ほとんど形骸化している。
ちなみに自分は今回が初めてではない。4月2日が誕生日の方と同じクラスになった二年の時は違かったが、一年の時も同様の役割を与えられた。一応、守護係という名前があるが、響きが微妙であまり声に出す人は少ない。
殿を務める他にも、避難経路、避難マニュアルなども定期的に先生から指導される。避難経路やマニュアル自体は全生徒に与えられるが、特に入念に指導されるのが守護係というわけである。
一年のときに入念に確認したし、二年のときも定期的にマニュアルをみているので、基本的にはすべて頭に入っているとは思う。しかし、こういったものは最新情報が重要だ。何か更新があるかもしれないので、注意して聞かなくては。
「結人のやつ、呼び出されてやんの~。お前なにやらかしたのー。」
「恒一も知ってるでしょ。あれだよ、あれ、例のあれですよ。」
「あれか、例のあれね。」
だいぶセキュリティ性の高い会話をしてしまった。
とりあえず今は、学年別オリエンテーションの会場へ向かうとするか。
お読みくださりありがとうございます。
後書きを追加いたしました。(2026年4月25日)




