第25話
「確かにな、でもたまには――」
「ごめん。誘ってくれて本当にありがたいけど、やめておくよ。ごめん。」
誘ってくれたのは本当にうれしい。しかし、これでは自分が一方的に助けられてしまうことになる。いい人だからこそ迷惑をかけたり、足を引っ張ったりすることは決してしたくない。
「ああ、そうか。わかった。」
「せっかく誘ってくれたのにごめんな。」
他人のお誘いを断ることに少しうしろめたさはあるが、ここははっきりと断っておくべきだ。
「恒一、今大事な時期なんだろ。」
「ん、まあな。」
「俺のことはいいから自分のことを頑張ってほしい。むしろ恒一のことを手伝えなくてちょっと悔しい。もっと俺に力があればな。」
「ああ、その気持ちはうれしいが、でも……。ああ、まあ確かにそうだな。」
恒一は一瞬何かを考え込む様子を見せたが、すぐに表情を戻した。
「俺は恒一を応援してる。だからこそ、ちょっとでも負担になりたくない。俺のことは気にしないでいいから、恒一は恒一のやることをやってくれ。むしろ、手伝えることがあったら言ってくれ。」
「ん、わかった。お互い頑張ろうな。」
「あとこれ御礼だ。誘ってくれて嬉しかった。」
朝に買ってまだ飲んでいなかった未開封ブラック缶コーヒーを差し出す。
「だから、ブラックは飲めねえっていってんじゃねえかぁ!」
あ、ごめん素で忘れてた。
***
「学食、いかないか?結人。」
これは少し前の、2年生のときの話だ。自分は基本的には学園では単独行動を取ってはいたが、恒一とはこのころからも会えば話すような仲だった。ただ言い方をかえれば、会えば話すだけで、昼食を一緒に食べないかと誘ってくるのはかなり珍しいことだった。
「ああ、いいよ。いこう。」
少し戸惑ったが、自分の用事もなかったし、普通に一緒の昼食はウェルカムだったのですぐに快諾した。あと、いつもより恒一の顔に元気がないように見えたのも気になったのかもしれない。
「お前、何も持ってこないの?」
「ああ、いつもはゼリー飲料で済ませてる。荷物見てるから取ってきていいよ。」
「んでは、お言葉に甘えて。」
学生食堂は自分たちが2年生になる春にリニューアルオープンした。一年たって自分たちが3年生になったいまでも綺麗だが、このころはもはや新築の香りがするほどだった。
「お、ラーメンか、いいね。」
恒一が持ってきたトレイには新メニューの辛味噌ラーメンがのっていた。辛さ調節が可能なように辛みそは別皿に分かれている。学食なのに至れり尽くせりだ。
「これうまいよ。おすすめ。」
それだけ言うと恒一は黙ってラーメンをすすり始めた。でも自分でうまいと思っているものを食べているはずなのにどこか表情が暗い。
「今日は、珍しいね。昼食誘ってくれるなんて。」
「ああ。」
どこか歯切れの悪そうに返事をする恒一。
「なんか今日ちょっと疲れてない?体調とかは大丈夫か?」
「いや、別に。」
「辛みそ入れないの?」
恒一はそこではっとしたようだった。恒一は辛いものが好きだと以前言っていたので行った何気ない指摘だったのだが、予想以上に動揺していた。
「俺としたことが!」
自分も辛いものは割と好きなので、好きなはずの辛みそを入れずにそのままラーメンを食べてしまうことの重大さは共感できた。
「何かあったでしょ?流石に。」
「ああ、すまん。そもそも話したくて誘ったのに、うだうだしてごめんな。」
「ああ、全然いいよ。というか、恒一の話し相手になれるならうれしいよ。」
少しの間をはさんで恒一が口を開く。
「前から思ってたけど、ほんとお前優しいな。ありがと。」
恒一は話すこと自体は決心したようだが、どう話そうか決めあぐねている様子だった。
「せかさないから、ゆっくりでいいよ。」
しばらくして、恒一は静かに口を開いた。
「俺さ、ドラッグストアの息子なんだ。」
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