EP.042
あの後、彼から改めてはっきりと"ノー"を突きつけられた私は、再び安静にする日々を過ごしていた。
レオン様も、あの後も何度か部屋を訪ねてくれたが、あの日以来事件の話をすることはなかった。
…もちろん、婚約の話もであるが。
(まぁ、忙しい今そんな話をしてる場合じゃないからね)
そんなこんなで、私はまるで、はじめから何もなかったかのような日々を過ごしていた。
そのまま更にしばらくし、体もほとんど完治して元気になってきた頃。
また、何があるわけでもなかったが、なんだか眠りにつくことができず、こっそりと部屋を抜け出すことにした。
とは言ってたものの、別に特段外出を禁止にされているという訳ではないので問題はない。
なので、少し外の空気を吸って気分を変えようと部屋を出て、廊下の角を曲がったその時だった。
どこからか、誰かの会話の声が聞こえてきた。
(こんな深夜まで仕事…しかもこの声は、レオン様と…お兄様?ちょっとだけ顔を出してみようかしら…)
少しだけ声をかけて、すぐに部屋に戻ろう。
本当にそのくらい軽い気持ちだった。
「……はわかっていますよ。だからどうするのかということを言ってます」
「…のか?じゃあ俺が…るよ、本人がそう言ってる。だったら俺は…その…を汲みたい」
「反対です!妹をそんなことに……ないでください、ましてや両親の話もまだしていないのに…!」
"両親"──その言葉が聞こえた瞬間、気づけば扉を開けていた。
勢い良く開いた扉の中では、予想通りレオン様とお兄様が勢い良くこちらを振り返っていた。
「ロゼリア!?」
「起きてたのか」
「眠れなくて、少し散歩しようかと。…あの、声が聞こえてしまったんですが…お父様とお母様の話って、なんのことですか?まだ何か…私に隠しているんですか?」
兄は、聞かれたくなかったのだろう。
教える気はないというように、軽くあしらわれる。
「別に何もないよ、早く寝なさい」
「お兄様!」
「もう言っていいんじゃないのか?」
「は!?…いえ、失礼いたしました。いいわけがないでしょう。ロゼリア、早く部屋に戻りなさい」
「いや、いいよ。…ロゼリアに話そう」
「レオナルド殿下!」
「聞かれてるんだろ、だったらロゼリアにも話したほうがいい。…どうせ、いつかはする予定の話だ」
張り詰めた空気が満ちる。
お兄様も、悩むところがあったのか、レオン様には逆らえないのか。
しばらく黙り込んだあと、何か飲み物を持ってくるから座って待っててと言い残し、部屋を出た。
そしてすぐに、三人分の温かい紅茶を持って戻ってきた。
「俺の分まで淹れてくれたのか」
「ちょうど息が詰まっていたところでしたしね」
ゆらりと湯気の立つ紅茶とは対象的に、部屋の空気は少し冷たかった。
レオン様が、真っ直ぐと私を見る。
「ロゼリア。今からの話、少し…いや、ロゼリアにとってはかなり嫌な話になる。ただ、いつかは伝えるつもりだったから…タイミングが早まったとして、覚悟して聞いてほしい」
「辛くなったら、殿下のことを静止していいから」
「レオン様もお兄様も、ありがとうございます。私は…大丈夫です。…教えてください」
少し震えた手をしっかりと握り、固く拳を作った。




