EP.039
その日の夜のことだった。
昼間の出来事がどうしても頭をかけ巡り、なかなか眠れずに居た。
ただ、このまま起きていても仕方がない。
目を閉じてじっとしていよう、そう思ったとき。
かすかに、ベットから離れた位置にある部屋の扉の開閉音が聞こえた。
アルバートもアンも、こんな深夜に入ってくることはないだろう。
お兄様も…仮に入ってくるにしてもノックをしてくれるはず。
音の主は誰なのか確認したいが、体思うように動かない。下手に起き上がるのは、危ないかもしれない。
じっと身動きをせず、どうにか寝たふりをしてやり過ごそうと、震える手で固く布団を握りしめていると、段々と足音が近づき、ベッドの横あたりだろうか。
ピタッと止まった足音の代わりに聞こえてきたのは、あの低い彼の声だった。
「…ロゼリア」
「え!?」
思わず反射的に声を上げ、体を起こす。
目を開けた先には、私と同じように少し驚いた顔をしたレオン様が立っていた。
「…びっくりした、起きてたのか」
「それはこちらの台詞です!ノックくらいしてください…!」
「寝ているかと思って、起こしたら悪いから…」
「だとしてもです!」
(この人、たまに抜けてるのはなんでなの…?)
どう考えても驚くのは私だろう。
レオン様の服装をちらりと見ると、夜着には着替えておらず、少し着崩したいつもの服装のままだった。
「こんな時間まで、まだお仕事ですか?」
「…早めに片をつけたいからな。きりのいいところまでやろうと思ったらこんな時間だったんだ」
「それで、少しだけ息抜きに…ロゼリアに会いたくなったから、来た」
「会い…いえ、だからといって女性の寝室に忍び込むのはやめてください」
…それに、勘違いさせるような発言も。
それを口に出すことは、流石に憚られたが。
少しの沈黙が落ちたあと、レオン様が先に口を開いた。
「昨日は悪かった」
「え?」
「怒鳴って悪かった。…情けなくて。守るって言ったのに、あんな目に合わせた自分が、情けなくて、つい」
その声は、昨日よりもずっと静かに重たい声だった。
「それでロゼリアに当たって、最低だな。いつもそうなんだ。ロゼリアのことになると…うまくいかない」
「…そんなの、私だってそうですよ」
私だって。
レオン様のことになったら、途端に臆病で、どうしていいのかわからなくなってしまうのだから。
「レオン様は、いつだって…大切にしてくれてますよ。昨日だって、誰よりもはやく来てくれました。…すごく、安心したんですよ」
そう伝えるのが早かったか、レオン様の動きの方が早かったか。
言い終わるやいなや、ふわりと抱きしめられる。
「レ、」
「本当に、無事でよかった」
彼の声が、普段より何倍も近い距離で、思わず体が熱くなる。
「あ、あの、」
「次は絶対にあんなことは起こさせない。必ず守るから」
その言葉に、恐る恐る私も腕を回す。
あの頃よりも広く大きな背中は、とても頼もしく温かかった。
それから、どのくらいが経ったのだろう。
自然と二人の体が離れ
「…まだいくつか業務が残ってるんだ。また来るよ」
そう言い残したレオン様が、部屋を立ち去ろうとしたその時だった。
抱きしめられた反動として、許してほしい。
私もそれなりに気が動転していたのだ。
その瞬間、余計な一言が口からこぼれ落ちたしまった。




