EP.038
「お嬢様、お疲れではないですか?」
「えぇ、大丈夫よ。アンもごめんね?変な話ばかり…」
「いえ!そんなことありません。私も、お嬢様をお守りする立場ですので」
立場だけで考えると、ただの侍女であるアンには少し重い話だったかもしれない。
けれどアンは、どこまでも優しく私を気遣ってくれた。
「お嬢様、喉は乾いていませんか?お持ちするので、少しお待ちください」
気分転換に提案してくれたのだろう。
そう言って準備をしに行ったアンを見届け、行儀が悪いことは飲み込んで、私はそのままベッドに勢い良く倒れ込んだ。
(一気に色んなことが動きすぎて、頭が追いつかないわ)
そんな私を嘲笑うかのように。
更に私を混乱させる…複雑な気持ちになる、あまり聞きたくない声が窓の外から聞こえてきてしまった。
「…なんです!レオナルド様はどう思われますか?」
「……で、…かな」
高く、楽しそうな女性の声と。
聞き慣れた男性の声。
思わず起き上がった体が少し痛かった。
ベッド脇の大きな窓からバレないように下を覗くと──そこには想像通りサラ様とレオン様の姿があった。
しばらく窓の下で会話をしている二人の声が聞こえ、会話が止まったと思ったのも束の間。
より一層聞かなければよかったと思う声が聞こえてしまった。
「……で、……だから、やっぱり私、…レオナルド様の事が好きなんです…!だから…、」
途切れ途切れの言葉。
はっきりと聞こえないはずなのに、聞きたくない部分だけが、妙にはっきりと聞こえる人間の体は、すごい作りだな、と思ってしまう。
私な思わず再びベッドへ倒れ込み、布団を頭からかぶった。
レオン様は、サラ様のことをなんとも思っていないと言っていた。
今日も忙しいから顔を出していないだけだと。
きっと、昨日のことがあったから、侯爵が城に登城し、サラ様はそれについてきたのだろう。
レオン様のことは誰よりも信じている。
信頼もしていて、誰よりも大切な人だ。
ただ、私と彼はただの友人以外に他がない。
他の人よりも、兄の繋がりがあって少し親しいだけ。
「好き」と言われたことももちろんない。
…今も昔も。
本当は──サラ様のことを好きになっていたら?
人の感情は、意外と簡単に動くと思う。
うちとフラテリーニ侯爵家のことはことで、サラ様のことは人として本当に好きになっていたら?
どうしてこんなにマイナスなことばかり考えてしまうのだろう。そんなことはないと思いたいのに、言い切ることはできない。
布団の中で目を閉じ、外の音を遮断するように。
アンから声をかけられるまで、私はずっとそうしていた。




