EP.036
どうやって眠ったのかは覚えていない。
次の日の朝、いつも通りアンが起こしに来てくれて、ようやく自分が眠っていたのだと実感した。
「お嬢様…お体、痛むところはありませんか?お食事は食べられますか?」
昨日の件を受けて、アンはもちろんのこと、普段はレオン様の護衛として右腕的存在のアルバートも、可能な範囲で私の護衛に回されたそうだった。
きっと、レオン様の指示だろう。
「ねぇアルバート…私、護衛なんていなくても大丈夫って、レオン様に伝えてくれない?」
「そんなこと俺が言えるわけ無いだろ…それに"いなくて大丈夫"は嘘。昨日のこともう忘れたのか?」
「そういう訳じゃないんだけど…」
それでも、立場だけで考えれば危険が伴うのはレオン様のほうに決まっている。
私は所詮、ただの公爵家の令嬢なのだ。
そんなことを考えていたのが、顔に出ていたのだろう。私は本当にわかりやすいのかもしれない。
アルバートがわざとらしく肩をすくめた。
「ロゼリアとあいつなら、どう考えても守るべきはロゼリアだよ。レオンは確かに王子だし危険も付き物だからな、護衛も当然必要だけど…正直、あいつより剣の腕が立つやつなんてほとんどいないし。それに、一応文官だがアーサーだっているし、ロゼリアがそこまで気にしなくて大丈夫だよ」
俺ですら本気になったレオンには剣で勝てるわけ無いからな、と、私が気を使わないようにおどけた様子で話してくれた。
薬の効果もあってか、午後になる頃には痛みも少しずつに引いてある程度回復し、午後には、様子を見にお兄様が部屋にやってきた。
レオン様は来なかった。
昨日の話を私が聞こうとしたところ、聞いてもいいことはないと断られたが、なんだかんだ妹に弱い兄である。
渋々と話をしてくれた。
「聞きたくなかったら言って?すぐにやめるから」
「いえ、大丈夫です。私も当事者ですから、ちゃんと聞いておきたいです」
少し考え込んだお兄様だったが、観念したように口を開いた。
「…難しい話は、今は必要がないから省略する。それに、前に、アルバートを詰めて色々話させたんだろ?全く…」
「あ、お兄様もその話聞いてたんですね…」
「まぁ流石にな。…その話を踏まえてになるけど、やはり、フラテリーニ侯爵家が義父母と共謀していたとわかった」
やはりそうだったのか、そう思いが胸をよぎる。
共謀とは言うものの、実際の立場的には義父母はフラテリーニ侯爵家の駒だったのだろう。
「昨日、あの二人が城に乗り込んできたのは、公爵家の業務の大半が彼らで動かせなくなったからだろう。こちらで業務を横流しして取り上げ、色々動いていた結果ではあるが…」
「──加えて、ロゼリアを…資金源として金持ちの後妻として売ろうとしていた計画も頓挫し、資金繰りが立ちいかなくなり、半ば自暴自棄にお前をどうにかしようと城に乗り込んできたんだろうな」
その言葉の直前、あのお兄様から、小さく舌打ちが聞こえた気がした。兄が、私の前でそのように感情を出すことは珍しかった。
というか、初めて見た気がする。
どうやら昨日は相当大変だったらしい。
「ロゼリアを呼びに来たあの騎士も、フラテリーニ侯爵家周辺の貴族らしい。大方、金で動いたんだろうな」
部屋に静寂が落ちる。
計画に杜撰な部分は残っているものの、完全に仕組まれたものだったらしい。




