第四十三章 四つの答え合わせ
猪飼は、最終開催に向けての準備を進める中で、これまで曖昧なままだった「四つの買い物」の全貌を、一人一人に確認していく決意をした。
まず、香蓮に会った。
「懸野さんの死について、あなたが『誰が死ぬか』を買ったんですか」
香蓮は、もう隠すことをしなかった。静かに頷いた。
「そうです。わたしが、懸野さんを対象として指定しました」
「復讐のためですか」
「――それだけでは、なかったかもしれません」
香蓮は、手袋をはめた両手を、じっと見つめながら続けた。
「懸野さんが生きている限り、五年前の真実を知る人間が、この世に残り続けます。彼を消すことは、わたし自身の過去を、消すことでもありました」
猪飼は、その言葉の中にある、正義と自己保身の、分かちがたい絡み合いを、はっきりと感じ取った。香蓮を単純に断罪することも、単純に同情することも、猪飼にはできなかった。
次に、猪飼は稲本に会った。
「あなたは、『いつ』を買ったんですか」
「そうです」稲本は、静かに認めた。「政治的なタイミングを見計らって、懸野さんの死のタイミングを、わたしが調整しました。それによって、いくつかの案件が、都合よく動くように」
「利益のためですか」
「システムの均衡を保つための、いわば調整業務です」
その言い方に、猪飼は薄い怒りを覚えたが、それ以上、追及しても無駄だとわかっていた。
最後に、猪飼は、これまで正体を知らなかった、証拠を組み上げた技術者に会うことになった。稲本の仲介で、猪飼はようやく、その人物と対面した。
若い女性だった。名は、眞弓茜と名乗った。
「あなたが――」
「はい。証拠の再構成を担当していました」
眞弓の表情には、これまで猪飼が想像していたような冷淡さはなかった。むしろ、どこか怯えたような、追い詰められた表情をしていた。
「わたしは、対象が誰で、何に使われるか、詳しくは知らされていませんでした。ただ、依頼された通りに、素材を組み上げていただけです」
「それが、人の運命を左右するとわかっていましたか」
眞弓は、視線を落とした。
「――薄々は、感じていました。ただ、深く考えないようにしていました。考えてしまえば、この仕事を続けられなくなるから」
猪飼は、その告白に、これまでのどの容疑者とも違う、複雑な感情を抱いた。眞弓は、悪意を持って人を陥れたわけではない。ただ、システムの歯車として、与えられた仕事を、機械的にこなしていただけだった。
こうして猪飼は、四つの答えを、すべて揃えた。
誰が死ぬかを決めたのは、香蓮。復讐と、自己保身のために。
いつ死ぬかを決めたのは、稲本。政治的な均衡のために。
どんな証拠が残るかを組み上げたのは、眞弓。仕事として、深く考えないまま。
そして、誰が疑われるかを仕込んだのは、懸野将基、本人。自らの死を予感した、末期の自己保身として。
四人の、まったく別々の思惑が、たった一つの死へと、静かに収斂していった。
猪飼は、この構造の全貌を前に、深い疲労と、それ以上に深い虚しさを感じていた。
一人の悪人を見つけ出し、それを裁けば済む話ではなかった。この事件には、断罪すべき「犯人」が、あまりにも多く、そして、あまりにも人間的な理由を、それぞれが抱えていた。
猪飼は、この事実を、いったいどう扱えばいいのか、まだ答えを出せずにいた。
だが、少なくとも一つだけ、確かなことがあった。
この構造そのものを生み出した「地下オークション」というシステムを、これ以上放置しておくことはできない。
猪飼は、最後のオークション――Lot 0への到達に向けて、改めて覚悟を固めた。




