↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地下オークション  作者: キロヒカ.オツマ―


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/50

第四十二章 最後の出品物

懸野の死を巡る真相がほぼ解明されたあとも、猪飼の調査は終わらなかった。むしろ、ここからが本番だった。


猪飼のもとに、次回オークションの正式な招待状が届いた。これまでとは、明らかに紙質も、文面の重みも違っていた。


次回をもちまして、当面の開催を終了いたします。


最後の出品物として、Lot 0を予定しております。


猪飼は、その文面を見て、違和感を覚えた。


「Lot 0というのは――前に見せていただいた、懸野さんの一件とは、別のものなんですか」


稲本に確認すると、彼は静かに頷いた。


「Lot 0という番号は、固定された一つの出品物を指すものではありません。それぞれの開催サイクルにおいて、その回の最も核心的な出品物に、便宜上、その番号が与えられます」


猪飼は、その説明に、どこか腑に落ちるものを感じた。


固定された一人物ではなかった「N」のように。誰も設計していなかった、このシステムの起源のように。「Lot 0」もまた、特定の何かを指す固有の名前ではなく、その時々で意味を変える、匿名の器に過ぎなかったのだ。


「今回のLot 0には、何が出品されるんですか」


稲本は、これまでのどんな時よりも、重々しい声で答えた。


「地下オークションそのものの秘密です」


猪飼は、息を呑んだ。


「具体的には」


「過去数十年間にわたる、このシステムのすべての記録です。出品者、落札者、取引された秘密、消された事件、関わった政治家、企業、犯罪者――その全貌が、一つのデータとして保管されています」


「それを、落札した者が、すべて手に入れられるということですか」


「そうです」


猪飼の中で、様々な感情が渦巻いた。もしその全記録を手に入れることができれば、これまで猪飼が積み上げてきた、断片的な真相のすべてが、一つに繋がる。懸野の死の全貌。葉山蓮の失踪の真相。そして、猪飼自身の五年前の一件の、本当の意味。


「猪飼さん」稲本が、静かに言った。「一つ、お伝えしておきます」


「なんですか」


「最終開催の日程と場所は、これまでとは異なる方法で通知されます。招待状ではなく、あなた自身が、これまでの調査の中で辿り着いた場所に、自然と導かれる形になるでしょう」


その言葉の意味を、猪飼はすぐには理解できなかった。だが、稲本の表情には、これまでにない、ある種の諦観に似た色が浮かんでいた。


「稲本さん。あなたは、この最終開催を、望んでいるんですか」


稲本は、しばらく沈黙したあと、静かに答えた。


「望む、望まないという次元の話ではないのかもしれません。このシステムは、もう長く続きすぎました。誰かが、どこかで、区切りをつけなければならない時期に来ていた。ただそれだけのことです」


猪飼は、その言葉の中に、稲本自身の、長年抱えてきた疲労のようなものを感じ取った。


「これが、最後になるんですね」


「猪飼さんにとっても、わたしにとっても」


その夜を境に、猪飼は、これまでの調査のすべてを、最後の一つの目的――Lot 0への到達――に向けて、収斂させていくことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。