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地下オークション  作者: キロヒカ.オツマ―


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第三十七章 裏付け

多湖は、これまで非公式に進めてきた調査を、ようやく正式な捜査ルートに乗せる決断をした。


上司を説得するのは、簡単ではなかった。だが、猪飼と共に積み上げてきた証拠の矛盾――指紋の付着時期、メールの実際の文脈、目撃証言の揺らぎ、口座記録の誤認――を一つ一つ提示し、多湖は正式な鑑識チームによる再調査を、なんとか実現させた。


一週間後、鑑識チームから、詳細な報告書が届いた。


「結論から申し上げます」鑑識課長は、多湖と、渋々同席を許された上司の前で、淡々と報告した。「進士柊真氏に不利とされてきた証拠群は、いずれも、事件とは無関係な過去の記録から、意図的に抽出・再配置されたものであると、科学的に断定できます」


報告書には、指紋の付着時期の矛盾、映像記録の生成経緯、メールのやり取りの本来の文脈、そして、それらすべてが同一の技術的環境で加工されたことを示す、メタデータの一致が、詳細に記載されていた。


「つまり――」上司が、渋い顔で口を開いた。「進士は、はめられた、ということか」


「その可能性が、極めて高いと考えられます」


「誰が、こんなことを」


その問いに、鑑識課長は答えられなかった。答えられる立場にないのは、当然のことだった。


多湖は、この報告書を手に、深い安堵と、同時に、新たな重圧を感じていた。


安堵は、無実の人間を、これ以上不当な立場に置かずに済むという点においてだった。だが重圧は、この事件の真の構造――一人の犯人ではなく、複数の思惑が絡み合って組み上がった殺人――を、正式な捜査資料として、どう扱えばいいのかという点にあった。


「猪飼さんの言っていた、地下オークションの件は」上司が、探るように尋ねた。「本気で信じているのか」


多湖は、しばらく考えたあと、静かに答えた。


「信じるか信じないかではなく――この報告書が示している事実と、彼の話には、あまりにも符合する点が多すぎます」


上司は、それ以上何も言わなかった。ただ、報告書を見つめる目に、これまでとは違う、重い緊張の色が浮かんでいた。


その夜、多湖は猪飼に連絡を取り、正式な鑑識結果が出たことを伝えた。


「これで、進士さんの無実は、法的にも証明できる材料が揃いました」


「よかった」猪飼の声には、心からの安堵が滲んでいた。


「ですが」多湖は続けた。「これは、終わりではありません。証拠の捏造――いえ、再構成が意図的だったと証明されたことで、次は、それを行った人間、あるいはシステムそのものを、追及する段階に入ります」


猪飼は、電話越しに、しばらく沈黙していた。


「多湖さん。正直に言うと、俺は――このシステムそのものを追い詰めることが、正義なのかどうか、まだわからなくなることがあります」


「それは、どういう意味ですか」


「もし、このシステムを支えている人間たちの中に、それぞれ、やむにやまれぬ事情を抱えている人がいるとしたら」


猪飼の言葉の裏に、香蓮の存在があることを、多湖はなんとなく察していた。だが、それについて深くは尋ねなかった。


「猪飼さん。わたしは刑事です。個人の事情がどうであれ、法を犯した人間には、然るべき責任があります」


「わかっています」


「ただ――」多湖の声が、わずかに和らいだ。「あなたが、その人たちの事情を無視できないという気持ちも、理解できないわけではありません」


その夜の会話を最後に、二人の関係は、単なる情報交換の協力関係から、もう少し複雑な、互いの立場の違いを認め合った上での連携へと、静かに変化していった。

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