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地下オークション  作者: キロヒカ.オツマ―


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第二十六章 二つの回線

眞弓は、いつものように、届いた指示ファイルを開いた。


対象:進士柊真


用途:報道向け。週刊誌記者への提供を想定。


テーマ:金銭トラブル、私生活の乱れ。ただし証拠能力は問わない。読み物として成立する構成にすること。


眞弓は、その文面に、これまでとは違う違和感を覚えた。


いつもの依頼は、「証拠として成立すること」が絶対条件だった。捜査機関や、しかるべき筋に渡ることを前提に、事実関係の裏取りが可能な形で、素材を組み上げる。それが眞弓の仕事の基本だった。


だが今回の依頼は、違った。「証拠能力は問わない」「読み物として成立する構成」という言葉が、これまでとは明らかに異質だった。


眞弓は、指示された素材のリストに目を通した。以前、警察向けに組み上げたものとほとんど同じ対象――進士柊真――についての情報だったが、素材の選び方が違っていた。感情的な部分、下世話な部分、読者の興味を煽るような部分が、意図的に多く選ばれている。


眞弓は、これまで自分が二種類の仕事を、無意識のうちに使い分けていたことに、初めて気づいた。


一つは、証拠として機能する、事実に基づいた再構成。


もう一つは、世論や印象を動かすことを目的とした、感情に訴えかける再構成。


これまで、眞弓はその違いを、単なる「依頼内容の違い」としか認識していなかった。だが、今回のように、同じ対象について、ほぼ同時期に二つの異なる依頼が届いたことで、眞弓の中に、ある可能性が浮かび上がった。


――これは、別々の依頼者からの、別々の仕事ではないのかもしれない。


眞弓は、これまで自分が使ってきたシステムのログを、こっそりと確認してみることにした。表向きは禁止されている行為だったが、好奇心には勝てなかった。


ログを辿ると、眞弓が使っているアクセス経路が、実は二つの異なる回線に分かれていることがわかった。一つは、稲本から直接指示が届く、いわば「本流」の回線。もう一つは、その本流とは別に、時折使われる、もう一つの回線だった。


その二つ目の回線の管理者情報を、眞弓はさらに追ってみた。だが、そこに表示された名前は、眞弓が見たこともない、聞いたこともない文字列だった。


眞弓は、その文字列を、しばらく画面上で見つめていた。


まるで、二つの異なるシステムが、同じ人間――同じ稲本という管理者――を経由して、それぞれ別々に動いているように見えた。


一つは、真実を、証拠として世に出すためのシステム。


もう一つは、真実であるかどうかに関係なく、人々の印象を操作するためのシステム。


そして、その両方を、眞弓という一人の技術者が、それぞれ別の仕事だと信じ込まされたまま、同時に支えていた。


眞弓は、その夜、初めて、自分の仕事の意味を、深く考えてしまった。


――わたしは、何を作っているんだろう。


その問いに、答えは出なかった。ただ、これまで意識的に避けてきた思考の扉が、静かに開き始めていることだけは、眞弓自身、はっきりと自覚していた。

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