第十三章 出所
数日後、二人は再び同じ喫茶店で顔を合わせた。多湖は今回、資料のコピーを一部持参していた。正規の手続きを踏んだものではないと、彼女自身が前置きした上で。
「見せていいものかどうか、正直迷いました。ですが、あなたの話を聞いて、確かめたいことがあります」
猪飼はテーブルに並べられた資料に、一枚ずつ目を通していった。防犯カメラの映像記録、指紋の照合結果、メールの写し、目撃証言、口座の動き――多湖が洗い出した五つの証拠が、そこにあった。
「これ、すべて日付を見てもらえますか」
多湖に促され、猪飼は各資料の作成日と、記載されている出来事の日付を確認した。映像は事件当夜のもの。だが指紋の付着推定時期は三週間前。メールは半年以上前。目撃証言は事件当夜だが、内容の解釈には揺らぎがある。口座の動きは、別件の投資トラブルに関するものだった。
「バラバラですね」
「そうなんです。一つ一つは本物なのに、まるで違う時期の、違う文脈のものを、無理やり一つの事件に縫い合わせたみたいで」
猪飼は資料を見つめながら、脳裏にホールでの記憶を蘇らせた。稲本の言葉、値段のついた秘密、そして懸野が落札した「ある人物の身辺調査記録」。
「多湖さん、進士柊真という人物について、これまでにどんな情報が集まっているんですか」
多湖は手元のノートを開いた。
「懸野との金銭トラブル、過去の訴訟に近いやり取り、それから――離婚訴訟の記録もありました。時期は三年前です」
「離婚訴訟?」
「はい。今回の事件とは、直接関係なさそうですが」
猪飼はその一言に、引っかかりを覚えた。
「その離婚訴訟の記録は、誰が入手したものですか」
「捜査資料として、通常の手続きで開示請求したものです。ただ――」多湖は少し言葉を濁した。「開示請求をかける前に、すでに何者かが同じ記録に触れていた形跡がありました。閲覧履歴に、身に覚えのないアクセスが残っていたんです」
猪飼の中で、点と点が繋がりかけていた。
進士に関する過去の記録――金銭トラブル、離婚訴訟、その他の個人情報――が、事件よりも前の段階で、すでに何者かによって収集され、整理されていたのではないか。そしてそれが、事件発生後、まるで最初からこの事件の証拠であったかのように、絶妙なタイミングで捜査線上に浮上してきた。
「多湖さん。もし――誰かが、進士さんに関するあらゆる過去の記録を、あらかじめ買い集めていたとしたら」
多湖は眉をひそめた。
「買い集める、というのは」
猪飼は一瞬、迷った。ここで地下オークションの詳細を明かせば、多湖がこの話をどう受け止めるか、予測がつかなかった。だが、これ以上手札を隠したままでは、この違和感の正体には到達できないと感じた。
「実は、お話ししていないことがあります」
猪飼は覚悟を決め、地下オークションの存在について、ようやく詳しく語り始めた。




