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占いババアの算段/The Old Fortune Teller of Uchisaiwaicho is Way Too Sharp-Tongued! (内幸町の占いババア、毒舌すぎる件!)  作者: 八卦六十四郎(はっけ・ろくじゅうしろう)


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第二話 恋愛相談

【クソばば占い師の武器】


この、占いババア、ただ口が悪いだけではありません。


人間観察が得意で、相手のしぐさや反応から、本人も隠していることを推測する占い師なんです。


たとえば、

・髪を触る、

・足先を出口に向ける。


そうした動作を手がかりに仮説を立て、相手の反応を見ながら話を進めていく。


心理学的な仕掛けも使います。


◾️バーナム効果

 誰にでも当てはまりそうな言葉を、本人だけに当てはまると感じさせる。



◾️確証バイアス

 自分が信じたい情報を重視する心理。



◾️損失回避

 得をする喜びより、損をする痛みを強く感じやすい心理。



◾️希少性の効果

 手に入りにくいものほど価値があると感じる心理。



つまり、占いの神秘的な力というより、

人間の心理を利用して「当たった!」と思わせる技術が、このババアの武器なんです。

第二話 恋愛相談



「先生、恋愛運を占ってください」


男は、開口一番そう言った。


占いババアは、男の顔を見た。


三十代半ば。紺色のスーツ。磨かれた革靴。髪はきちんと整えられ、腕時計も安物ではない。


そのくせ、椅子に座るなり、スマートフォンを裏返して机に置いた。


「恋愛運ねえ」


ババアは、鼻を鳴らした。


「彼女がほしいのかい?」


「いえ、います」


「じゃあ、何を占うんだよ」


男は一瞬、口をつぐんだ。


「結婚できるかどうかです」


「本人に聞きゃいいじゃないか」


「それが、聞けないから来たんです」


「ふうん」


ババアは、机の上の水晶玉を手のひらで拭いた。


水晶玉は、何も映さなかった。


もちろん、男の未来も映さない。


「彼女とは、どれくらい付き合ってるんだい?」


「三年です」


「長いねえ。で、何が問題なんだよ」


男は、裏返したスマートフォンをちらりと見た。


「最近、彼女の様子がおかしいんです」


「浮気かい?」


「いえ、そういうわけでは……」


「じゃあ、金かい?」


「違います!」


男が思わず声を張り上げた。


ババアは、眉ひとつ動かさなかった。


「声がでかいよ。耳が遠くなるだろ」


「すみません」


「謝るくらいなら、最初から大声を出すんじゃないよ」


男は、うつむいた。


ババアは、その様子を見ながら、机の端に置いてあった鉛筆を転がした。


「それで?」


「彼女が、結婚の話をしなくなったんです」


「お前さんは、したのかい?」


「……しました」


「いつ?」


「半年前です」


「なんて言ったんだい?」


男は、少し考えた。


「そろそろ結婚してもいいんじゃないか、って」


ババアの手が止まった。


「そろそろ?」


「はい」


「お前さん、自分の結婚を、電球の交換か何かだと思ってるのかい?」


「え?」


「切れたから、そろそろ替えるか。古くなったから、そろそろ買い替えるか。そういう話じゃないんだよ」


「いや、そんなつもりでは……」


「じゃあ、どんなつもりだい?」


男は答えられなかった。


ババアは、椅子の背もたれに体を預けた。


「占いってのはね、未来を教えるもんじゃないんだよ」


「では、何をするんですか?」


「金を払った客に、少しは考えさせるんだよ」


「……」


「で、お前さん。彼女と結婚したいのかい?」


「もちろんです!」


即答だった。


ババアは、にやりと笑った。


「じゃあ、どうして結婚したいんだい?」


男は、今度こそ黙り込んだ。


「好きだからです」


「そりゃ、いいねえ。じゃあ、彼女のどこが好きなんだい?」


「優しいところです」


「ほかには?」


「料理がうまいところ」


「ほかには?」


「一緒にいて、落ち着くところです」


「ほう。ずいぶん便利な女だねえ」


「便利って……」


「優しくて、飯を作ってくれて、そばにいると落ち着く。お前さんにとっては、ずいぶん都合がいいじゃないか」


男の顔が赤くなった。


「そんな言い方はないでしょう!」


「あるよ。ここは占いの館だ。気に入らないことを言われたくなきゃ、鏡でも見てな」


「……先生は、ひどい人ですね」


「今ごろ気づいたのかい?」


ババアは、けらけら笑った。


男は、帰ろうとした。


椅子から腰を浮かせ、机の上のスマートフォンに手を伸ばす。


そのときだった。


「お前さん、彼女に嫌われるのが怖いんだろ」


男の手が止まった。


「……どうして、そう思うんですか」


「さあねえ」


ババアは、水晶玉をのぞき込んだ。


「水晶玉がそう言ってるよ」


「本当ですか?」


「嘘に決まってるだろ。そんなもんで人の心がわかってたまるか」


男は、ぽかんと口を開けた。


「じゃあ、どうして……」


「結婚したいと言いながら、彼女に本当のことを聞けない。嫌われたくないから、相手の返事を聞くのが怖い。違うかい?」


男は、何も言わなかった。


「お前さん、結婚できるかどうかを知りたいんじゃないんだよ」


「……」


「結婚したいと言って、断られるのが怖いんだ」


男は、ゆっくりと椅子に座り直した。


しばらくして、ぽつりと言った。


「彼女に、結婚する気がないと言われたら、どうすればいいんでしょう」


「そりゃ、悲しめばいいじゃないか」


「え?」


「好きな女に断られたら、悲しいだろ。泣きたきゃ泣けばいい。酒を飲みたきゃ飲め。ただし、やけ酒で店のガラスを割るんじゃないよ。弁償する金がもったいない」


男は、思わず吹き出した。


「……先生、占い師ですよね?」


「見りゃわかるだろ」


「いや、そうじゃなくて」


「うるさいねえ。お前さん、さっきから質問ばっかりだね」


ババアは、手を差し出した。


「はい、鑑定料」


「えっ、もう終わりですか?」


「終わりだよ。未来は自分で聞いてきな」


男は、財布を取り出した。


料金を支払い、立ち上がる。


出口に向かいかけたところで、振り返った。


「先生。結婚できると思いますか?」


ババアは、男をじっと見た。


「知らないよ」


「……」


「ただね」


男が立ち止まった。


「彼女が結婚したいかどうかを聞く前に、お前さんが結婚したい理由を、もう少し考えてみな」


男は、黙ってうなずいた。


「それから、彼女にも聞くんだよ。お前さんの都合じゃなく、彼女はどうしたいのかってね」


「はい」


「返事が気に入らなくても、怒るんじゃないよ」


「はい」


「あと、結婚したら家事は半分だよ」


「……はい?」


「なんだい。そこだけ返事が遅いねえ」


男は、苦笑した。


「先生、最後のは占いと関係ないでしょう」


「当たり前だよ。そんなことまで占いに頼るんじゃない!」


男は、今度こそ笑いながら、店を出ていった。


扉が閉まる。


ババアは、机の上の札を数えた。


「まったく、近ごろの男は……」


そして、水晶玉を指でつついた。


「結婚できるかどうかなんて、こっちが知りたいよ。あの顔じゃ、まだまだ修行が足りないねえ」


そのとき、電話が鳴った。


「はい、占いの館だよ」


受話器の向こうから、女の声がした。


「先生、夫が浮気しているか、占っていただきたいんです」


ババアは、にやりと笑った。


「そりゃ、いいねえ」


声が、急に弾んだ。


「浮気の相談は、料金を倍にしようかね!」


――このクソババア、今日も絶好調である。


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