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2 ゾンビ、生ハムをいただく

 夜明けの涼しさの残る住宅街を、最寄りのローソンへと向かう。いちおう外着に着替え、ミニショルダーバッグを肩から掛けた。ぼさぼさの髪はアップにまとめた。


 駅徒歩十五分の私たちのアパートは、さえない住宅地の中にある。くねくね曲がる十分弱の道のりを、途中寂しい踏切を渡って行くと、少し車通りの多い道に出て、その向こうにローソンはある。


 道中、東の空の端にはもう八月の太陽が出ていて、それは家々の屋根に隠れて見えはしなかったが、私にじりじりと暑気を投げかけてきていた。どうしても子孫を残したいらしいアブラゼミが一匹、早くも虚しく鳴いていた。私はアルコールの残る火照った四肢を無理して動かし、額に汗を浮かべながらローソンまで歩いた。ローソンの駐車場には灰色のミニバンが一台だけぽつんと停まっていた。


 店内はエアコンが良く効いて気持ちよかった。


(女性、三十一、二歳、未婚)


 私はほとんど記憶にない、これから自分がプレゼントを選ぶ相手のわずかな情報を思い起こしながら、とりあえず店内を左回りに一周した。そうしてやはり、がっかりしてしまった。コンビニに置いてあるものは安く日用的なものがほとんどで、プレゼントにできる豪華さが欠けていた。


(もう、むしろ下手に買わない方がいいんじゃないか)


 そう思いながら一周の最後、店に入って右手前の棚に行きついた時、アニメキャラクターのグッズが置いてある一角が目に飛び込んできた。


 私はそれまでこのローソンにそんな類のものが売っていることを知らなかった。この店は確かに私のアパートの最寄りのコンビニだが、私は基本的に駅前のセブンイレブンで用を済ますので、ほとんどここは利用しないのだ。こんなものを置いているなんて、オーナーか店長がよほどこだわりの強い人なのだろうか。


 私はその棚をじっと眺めた。


 ワンピース、プリキュア、春風ドレミ、東海オンエア、などのフィギュアやぬいぐるみ、キーホルダー、タオル、コースター、アクリルスタンド、などなどが置いてあった。


(春風ドレミ? 東海オンエア?)


 さすがにワンピースとプリキュアは知っていたが、アラフォーで若者文化に対し感度の低い私にはよくわからないキャラクターが多かった。


(フィギュア……)


 私はワンピ―スのナミのフィギュアの前で固まった。弟はアニメオタクである。その弟からのプレゼントということにすれば、アニメキャラクターのフィギュアはちょっとアリなのではないか?


(――いやいや)


 私は軽く頭を振って思い直した。アニメが好きかどうか分からない女性に、フィギュアをプレゼントにするのは当たり外れが大きすぎる。しかし他にこれと言ってプレゼントに適当なものも……。


 私は途方に暮れながら店内をもう一度探索することにした。先ほどは外側の通路をぐるりと回っただけだったが、今度は内側の棚も一つ一つ縫うように回ることにした。


 すると、無印良品の品が売っている棚があって、そこは先ほど眺めた外側からは食べ物や事務用品くらいしか見当たらなかったのだが、良く見てみると化粧品が置いてあったのである。洗顔フォーム、ボディミルク、乳液、化粧水……。


(無印良品、の化粧品。――これはアリか?)


 そのまま私は二、三分間化粧品の前にたたずんでいた。そうして半ばやけくそになって乳液と化粧水を一つずつ手に取り、持っていた買い物カゴに入れた。


 それから更に棚を回り、菓子コーナーを丁寧に見ると、一袋七百円ほどするちょっと高級なチョコレートが棚の下の方にひっそりと置いてあったのである。


(しゃあっ!)


 私は心の中で歓喜の雄たけびをあげた。一粒ずつカラフルな銀紙で包まれたそのチョコレートたちが、輝いて見えた。


 ガサガサッと一袋掴んで、これも買い物カゴに放り込んだ。


 そうしてレジに行こうとして、途中総菜コーナーに生ハムが置いてあるのに気づいた。弟は帰ってきてから結局豚バラ肉しか食べていない。そして肉しか食べる気が起きないらしい。生肉が良いと言っていたけど、生ハムなら食べるかも知れない。二パック生ハムをカゴに入れ、レジに向かった。


 おずおず「化粧品とチョコレートを包装してもらえませんか? 無理だったら全然、全然いいんですけど」とレジの店員に尋ねると、なんとレジ奥に無地の茶色い紙袋が用意してあって、そこに入れてくれた。


 必要以上に店員さんに頭を下げて店を出た。


(チョコレートは良かった、チョコレートにどうにか救われた。袋にも入れてもらえたし)


 私は良い原稿を一本仕上げた後くらい高揚して帰り道を歩いた。


 しかし途中から自分の買ったものがやはり的外れな気がしてきて、これでよかったのだろうか、自分は何か大きな間違いを犯したのではないか、と後悔の念が襲いかかってきた。でもとにかくベストは尽くした、コンビニで若い女性へのプレゼントを選ぶという難題に対して、私はベストを尽くしたのだから、と思い直してその後悔の念を振り払い振り払い、歩いた。

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