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3-6

(なんで美洋が)


 駅までの線路脇の道を歩きながらここまで弟のことを回想した私は、神を呪った。そして頬に伝った一筋の涙を拭った。メイクが落ちるのでこれ以上泣くのはなんとか止めるべきだった。左を銀の車体に緑色のラインを引かれた列車がやかましく通り過ぎて行った。


 私は再び心の中で毒づいた。


 弟は確かに童貞で友達も少ないし、かなりの期間ニートだったしコミュ障気味だし社員として働いたこともない。なんだか生意気なところもあるし話は長くてつまらないしオタクでちょっと腹も出てきているしファッションセンス皆無だしいつまでもアルバイトで満足して向上心も計画性もまるでない。でも――でも、少なくとも悪い人間ではない。いい奴なのだ。


 私は子供のころいじめもしたし万引きもしたし髪も染めたし制服のスカートは短かったし、大学では遊び呆けて試験はカンニングを常習、悪い店に出入りしてマリファナと覚せい剤に手を出し、男遊びが激しくて二股、不倫は当たり前、興味本位でレズも試し個人的に男に体を売ったこともあり、よくまあ四年で卒業して就職できたもんだという感じで、社会人になってもマリファナと男漁りは収まらず、精神病になってからようやく男が近寄ってこなくなってまずまず落ち着いてきた、ろくでなしの小悪党だ。


 でも弟はそんな私に似ず、本人に改めて聞いたことはないが多分刑事罰になるようなことはこれまで一度もした試しがない。誠実で謙虚でめったに嘘を吐かず他人に優しく情が深く、いじめられたことはあるがいじめる側には加担せず、人の悪口はほとんど言わず、愚痴も漏らさずに黙々と働き続け、同僚が退職する際には必ずお菓子を贈り、できる限りで病気持ちの私を五年近く支えてくれている。確かに怠惰だった時期はあるかも知れないが、間違いなく弟は善人なのだ。私は兄弟が美洋という人間であってくれたことに感謝している。


(なのになんで)


 美洋がゾンビなんかに。本当ならなるべきは私みたいな人間じゃないのか。神とか運命とか、本当にあるんかよ。いやないからこうなったのか。とにかく美洋は何も悪いことはしていない。


(なのになんで……)


 思いながら、私は二粒目の涙を拭った。


 左手前に駅のホームの長い屋根が見えてきた。私は足を早めた。道は右に折れた。折れるとそこは駅前ロータリーで、長方形のロータリーの周りをぐるりと商店が建ち並んでいた。ロータリーの左側に、東新宮駅の駅舎があった。


 私は駅内のセブンイレブンでウィダーインゼリーとお茶を買うと、古びた駅の階段を、カツカツとパンプスを鳴らして登った。

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