11/19
3-4
私がそのブラックな職場で働き始めて三年、弟が引きこもりを再開して半年余り、コロナ禍が始まる直前の真冬の朝だった。
いつも通り出社して会社のビルのエントランスに入った私は、そこで足を止めてしまった。そのまま足が動かず、社の人たちがどんどん後ろから私を追い抜いてエレベーターに乗っていくのをただ眺めていた。私は立ちすくみ、悪寒でガタガタ震えていた。
「一ノ瀬さん?」
声を掛けられて振り向くと、そこに転職時私をスカウトしてくれた長窪さんという人事担当者がいた。
長窪さんは私の様子がおかしいことにすぐ気づいた。彼女に背をさすられると、私は力が抜けてその場にしゃがみこんでしまった。
そのままオフィスではなく近くのカフェに連れて行かれた。
長窪さんは私の勤務状況、体調などを尋ねてきた。私はもうそのころには一日の睡眠時間が四時間を切り、シリアルで朝晩の食事を済ませていた。そう話すと、彼女は私に最寄りの診療内科を教えてくれ、今日は出社しないでいいからその病院にすぐかかるように、と言った。
適応障害、と診断が出た。「三カ月間の治療を要する」私はそう書かれた診断書をもらった。長窪さんに電話すると、休職の手続きをすぐしましょう、気づけなかったのは会社の落ち度です、本当にごめんなさい、と言われた。




