表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『星砂の降る船で』 桜井ジン  作者: 如月あげは


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/12

第十話:ちいさなおなか

ちいさなおなか


 宝船の真ん中にある長い階段を、神さまたちは一歩ずつ登っていた。星砂がヒラヒラとまい、上の方は、まだよく見えない。

「ねえ、まだ着かないの?」

 ほていは、大きなお腹を揺らして、ゼーゼーと肩を上下させた。びしゃんは、一番前で、重たい槍を杖にして、トントンとリズムを刻む。

「だまって登れ。ここは修行の坂なんだよ」

 そのとき、足元を小さなネズミがチョロリと横切った。ネズミは、だいちゃんが落とした大切なお供えの、だんごを、一生懸命に運んでいる。だいちゃんは、すすけたこづちを振り上げて止まった。

「こら、それはわしの……」

 えびやんが、こづちをそっとおさえる。

「ねえ、どうする? 怒る? 許す? それとも、いっしょに食べる?」

 神さまたちは、長い坂の途中で、ピタリと足を止めた。足元の星砂が、ユラユラと、迷うように揺れていた。

 ネズミは、だんごを引きずって、コトコトと進む。白い粉が、ポロポロ落ちた。だいちゃんの眉が、ギュッとよる。こづちの角で、階段をトン、とたたいた。

「きまりは、きまりだ。お供えは、勝手に持っていってはならん」

 ほていは、膝に手をつき、ハァハァと息をした。

「まあまあ、小さい口だし、ちょっとくらい……」

 びしゃんは、槍の先で、ネズミの行く手をそっとさえぎる。ネズミは、ピタリと止まった。

「おまえ、腹減ってるのか」

 ネズミの髭が、プルプルと揺れる。べにたんは、びわを背中からおろす。ジャラン、と一音鳴らした。

「誰のだんごかで、こんなに空気がギシギシするの?」

 ロクさんは、長い頭をポリポリかく。

「いつか、だんごも、わしらも、なくなるんじゃよ」

 星砂が、ふわりと上に登った。坂の上は、まだ見えない。

 だいちゃんは、しゃがんだ。ネズミと目を合わせた。こづちは、まだ上がったままだ。

「もし、ここで見逃せば、次も、また持っていく」

 トン、とこづちが空を切った。でも、振り下ろさなかった。えびやんは、階段に腰をおろした。

「ねえ、だいちゃん。きまりって、誰のため?」

 だいちゃんは答えない。ただ、だんごの粉を、指で少しこすった。ほていは、ポン、とお腹をたたく。

「腹がグゥってなると、きまりもグラグラするのです」

 そのとき、ネズミが、だんごを落とした。ころり、と転がって、階段の真ん中で止まった。だんごは、少しつぶれていた。

 びしゃんが、しゃがんだ。槍を脇に置く。

「俺はな、泣き声を聞くと、足が勝手に動く」

 ネズミは、チョロ、とあとずさった。べにたんが、ぽろん、とやわらかい音を鳴らす。音は、星砂の中をスルスルと進んだ。おじいは、ずっと黙っていた。坂の上を見上げて、それから、だんごを見た。ゆっくり、ひとつ、うなずいた。

「……半分」

 それだけだった。

 だいちゃんは、目を閉じた。こづちを、ゆっくり下ろした。だんごを、パキ、とふたつに割った。ひとつを、ネズミの前に置き、もうひとつを自分の手に乗せた。

「きまりは、守る。だが、腹も、守る」

 えびやんは、だまって立っていた。鬼の面が、わずかに星砂を弾く。面の内側が、温かい。えびやんは、ひとつ息をついた。カチリ。面は、膝の上に落ちた。笑いは、まだ戻らない。

 ネズミは、そっと近づいた。クンクン。それから、かじった。ほていが、にっこりした。

「まあまあ、丸くおさまったのです」

 べにたんが、トントンと軽くリズムを刻む。びしゃんも、槍の柄で、コツンと合わせた。トン。ポロン。コツン。坂の上から、光がキラリと落ちた。

 えびやんは立ち上がった。ふにゃりと笑った。

「ねえ、だいちゃん。きまりって、かたち、変わるね」

 だいちゃんは、半分のだんごを口に入れた。ゆっくり、もぐもぐした。

「順序は、登るものだ」

 星砂が、少しだけ薄くなる。坂の上が、ぼんやりと見えた。神さまたちは、また一歩、登った。ネズミは、もう半分をくわえて、チョロリと坂を下りていった。

 トン。トン。トン。びしゃんの槍が、リズムを刻む。おじいは最後尾で、静かに坂を見上げた。

「……まだ、続く」

 星砂は、ヒラヒラと舞いながら、坂の上へゆっくり流れていった。宝船は、止まっていなかった。ほんの一段分だけ、ちゃんと、登っていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ