第五章 春織、ファーストキスを捧げよ。
…現在進行形で、私春月春織は、本当の本当の本当に、気が乗らないけれど、焔って小僧に……ファーストキスをささげなければならなくなり、すごく、ごぉぉぉぉぉく、不満に思いながらも、護衛達に無理やり連れられている春織です。
まぁ、まぁぁ、まあまあまあまあ。愛する雪乃がかわいいかわいい、氷で作ったブライダルベールのネックレスをくれたので。それに免じて。そう。しかたなく、しかたなくよ!!雪乃がネックレスをくれて、頼んできたから!すべては雪乃のため!そう、雪乃の……
「やっぱり嫌ーーーーっっっ!!こんなことになるなら雪乃にファーストキスもらってもらえばよかったわぁぁぁぁぁぁぁーっっ」
わあぎゃあみっともなく暴れる私ですが、あっけなく護衛官にとらえられ、焔小僧…いえ、焔の居る炎城の部屋へと連れられた。
「うぅっ…ねぇ、あなた方…後でおいしいお菓子をあげますから、私をここから逃がしてくださらない?」
「申し訳ございませんが、我々は旦那様にあなた様をぜっっっったいに焔様と契約させてついでに婚約届も出してこいと言われておりますので」
…さすがは我が姉雛菊の子孫…!なかなかやるわね…ん?婚約届?
「ねぇ、その婚約届って、あの子が勝手に言っているだけで、焔様は承認していらっしゃらないのよ…ね?」
「いえ。もうすでに炎の依代様と旦那様からは許可を頂いております。署名も済んでおられますゆえ、あなた様が署名をすれば晴れてあなた方は婚約者ということになります」
…は?絶対いやよ!!尚更いやになってきたじゃないの!無理無理無理、まだ、まだまだまだファーストキス上げるくらいならましだったわ!!婚約者なんてめんどくさいし…ずっと一緒に居るなんて、私にはとても耐えられない。
「イヤーーーーー!!!!!」
ぐいぐいと無理やりドアを開けて中にぽいっと放り入れられ、そのまま鍵を閉められて終始苛立った私は、ベッドに横たわって眠る焔野郎にも構わずドアに手を付けて無理やり春の精霊の魔法でこじ開けようとしたのだが、ここには眠っている焔野郎と私しかいないはずなのになぜか後ろからくすくすという笑い声が聞こえてきて、ドアに流していた魔力を止め、ばっと後ろを振り返る。
「なに!?誰かいるの!?ひっ…」
後ろを振り返ってみると、青白い顔で壁にもたれかかりながらベッドの上に座る薄い赤の髪に桜色の瞳の男が居た。
「…お、おばけ…?やだ、数百万年生きてきたけど初めてみた…じゃない!あけてぇぇ!!お化け、お化け居るからっ!」
そうドアの向こうに言っても彼らはなにも聞こえないふりをしているらしい。本当に怖いのだけれどぉぉぉ!?おば、おばけっ…
「はははっ。お化けなんて。これでも結構強いんだけどなぁ、俺」
ずざざざざぁぁぁと急に声を発したから、私は部屋の隅っこへと淑女ならぬふるまいで移動した。それはそれは早いスピードで。
「お、おぉぉおばけはっ、喋れるのかしらっ…」
自分自身を腕で抱き込むようにして震えをどうにか抑えるように奮闘する私に、お化け?はまたも笑った。…おばけにしては見た目が、…なんだっけ?ヤクザっぽいなぁ。声かわいいわね、うらやましいわぁ。
きらきらした目でお化けを見つめていると、彼はきょとんとした顔になり、またも噴き出し笑った。
「君、本当に面白いよね。おばけお化け言ってるけど、俺は炎の依代の炎城焔だ。」
「…は?」
思わぬ事実に腑抜けた声を発した私に、彼はよろよろと立ち上がり、魔力で自身を運ぶ。私に向かって。
「ちょ、待ったっ、なんで私の方に来てるの!?っていうか私帰りたいのよ!雪…んん゛っ、家に」
彼はまた笑いながら私に近づいてくる。
「…春の精霊の春織さんだよね?外で話していたことが聞こえていたんだけど、そんなに俺と結婚したくない?」
「ええ、それはもちろんっ!!いえそれ以前にあなたにファーストキスを捧げること自体いやですわっっっ!!!!」
思わぬ答えが返ってきたことに驚いたのか、魔力を流すのを切ってしまった。そのせいで焔野郎の浮いていた体がすっと落っこちる。
「—っ」
急いで私は魔力を体中に回して、焔野郎のところまで走る。
間に合え間に合え間に合えーっっ!!
ぎりぎり間に合って焔野郎をお姫様抱っこする。異常な位な身長差も、今やこの異常事態に全く気にならないくらいだった。
「…あのさ?焔やろ…んん゛っ。魔力操作くらい自分でできるようになってよね?」
間に合ってよかったわーっ、と深く息を吐いて、ベッドへ直行すると、なぜか耳まで真っ赤な焔野郎が、私のドレスを軽くつかんでいた。
「…顔赤いけれど?無理したから罰でもあったんじゃないの?」
そういうと焔野郎の肩がびくっと揺れて、ゆっくりと、焔野郎の顔が上がる。その真っ赤かの顔に私はつい笑った。
「ぷっ…真っ赤すぎない!?あなた、案外初心なのね。…かわいい系の子のを方が好きだから別に良いけど」
思い切り笑われたから怒ったのか、ぷーっとほっぺたを膨らませている。あなた、身長170くらいよね?…かわいいからよし。
「…まさか初めてのお姫様抱っこが春の精霊…身長差が10㎝もある女の子だとは思ってなかったんだってばぁっ」
「あらぁ。よかったわね、初めてお姫様抱っこされて。女でもなかなかされないものよ?」
そーいう問題じゃないっ、と私の腕の中でかわい…抗議している焔野郎を連れて私はベッドまで行き、そっと焔野郎を寝かせた。
…私が雪乃襲撃に加担したと知ったらどうなるのかしら…かと言って私を殺せばこの世界から春が消えるわけだから恨まれるだけかしらねぇ。
「はいはい。ファーストキスという単語を出しただけで魔力操作を誤る御坊っちゃんはゆっくり休むべきヨーー」
「途中棒読みだよ!?」
ツッコミが入るが、知らないふりをして、毛布をぼふっと焔野郎にかける。
無理をしていたんだろう。ふぅと息を吐いて、毛布に顔をうずめた。
「ねぇ。春織もキスしないとここから出れないんじゃないの?あと婚約届にサインも」
「………思い出したくなかったもの思い出させてくれるわね」
うーーっと唸なりながら考え、体調が悪化してできそうもないと言ったらいいんじゃないかと思いつき、さっそく私はドアに向かって走ろうとするも、焔野郎に腕を掴まれ、ドアに行って抗議することもできなくなってしまった。
「なにかしら?体調が悪化しているからできそうもないって抗議しに行こうと思っていたのだけれど?」
「キ、ききキスくらいできる!大丈夫!」
あわあわと慌てながら相変わらず真っ赤な顔で言う焔野郎に私はじゃあやってみなよと発破をかけると、本当に彼は魔力を使って私をゆっくりと引き寄せた。
「…へ?いや、うそうそうそ!嘘だってっば!」
そう言っても魔力を使う手は止めてもらえず、結局は自業自得で本当にファーストキスを捧げてしまった春織だった。
「ーーっ!」
「まさか本当にされるとは思ってなかったのよぉぉぉっ!!あぁっ、本当に契約してしまった…」
ずぅぅぅぅぅんとしながら婚約届にもしぶしぶサインをする春織であった。
春織が帰る時にはなぜか春織ではないかわいらしい男の雄たけびが、炎城に響いていたとかないとか。
その後婚約届を提出した春織たちは晴れて婚約者同士になり、春織が焔の炎城に住むことになったのだった。
今はお互い警戒芯があるこの二人の婚約者が、近い未来で、二人して溺愛されるかわいい夫婦になる事も知らずに。
け:春織~幸せにな…(涙)
春:いやなに勝手に予言してくれてるのよ!?どうせ予言するなら私と雪乃の幸せな結婚生活の予言して閉じてよね!!
け:いやそれはちょっと…
春:なんなのよぉぉぉっ!!いやよ、あんな奴と一緒に暮らすなんてぇぇ!どうにかしてよぉぉぉ、作者でしょう!?
け:まあ、こんな風に言ってますけど、これでもツンデレなんで。いやーっ、まったく、かわいい登場人物作ったもんだわ。褒めていいっすよー
春:絶対褒めて差し上げないわよ!!!!
ということで。第五章 春織、ファーストキスを捧げよ。を最後までお読みいただいて、ありがとうございました。そしてこの漫才みたいな登場人物とのお話もありがとうございました。これからも後書きに出てくることがあると思うので、あたたかい目で読んでいただけると幸いです。(⌒∇⌒)




