7・信じたもの、求めるもの
8月12日9時、正道憲政党本部
御庭純也は、目の下に隈を作りながらテレビに齧りついていた。
昨日は、15時には国家権力と闘う英雄だった。
しかし、21時には売国奴へと成り果てていた。
20時から始まった竪壱総理の会見を、高みの見物と洒落込んでいたのだが、暫くするとロシア大統領との電話会談と言う話が飛び出し、反大統領派に与する軍の一部が暴走し、稚内へと攻撃を仕掛けた事を確認したと言ったのだ。
御庭のまったく預かり知らない所で事態は急展開を迎え、梯子を外された格好だった。
すぐさま共闘していた野党幹部と連絡を取り合ったのだが、少数政党は軒並み逃げ出し、協参党に至っては、まるで取り合おうとすらしなかった。
すぐさま協參党ホームページを見れば、コメント欄は閉じられていた。
幹部の個人アカウントも同様であり、何処にも取り付く島も無かったのである。
もし、正道憲政党が民主集中制であったなら、後援会や地方議連、各所属議員を容易に統制出来たのかも知れない。
だが、リベラルを自認はしても、協參党の様な鉄の結束や統制は敷かれていない。
後援会からの説明を求める電話が夜通し鳴りやまず、中には個人アカウントによって党の姿勢や御庭の会見を批判、叱責する議員まで現れていた。
それらへの対応を夜通し行い、今まさに稚内へと向うテレビ中継が始まったので、テレビに齧りついている最中であった。
「ご覧ください。今、自衛隊の車列と共に稚内へと向かっています」
そんな、昨日の共同声明で賛同を示し、総理の会見において罵声を浴びせていたキー局に連なる系列局のアナウンサーが、まるで昨日の騒ぎなど無かったかの様に、自衛隊と共に稚内へ向かっている。
御庭からしても、それはあまりに天の邪鬼過ぎる対応に思えた。
「ご覧ください、稚内から南下してくる車は救急車や負傷者の所在を示す赤十字の貼られたパトカーや自衛隊車両ばかりです」
鎮痛そうな中にも、どこか浮かれた声音で喋り続けるアナウンサー。
暫くすればカメラがターンし、山の頂を映し出した。
「あれです。あそこには自衛隊のレーダードームがあったのですが、半分以上崩れ落ちています!」
緊迫感を無理に出した様な声音のアナウンサーがそう説明する映像には、半壊した稚内レーダーサイトが映し出されている。
「何で、何で昨日、こんなハッキリ見える映像を送らなかったんだ!」
それを見た御庭は、そう叫ばずにはいられなかった。
さすがにこの映像に接していれば、協參党の口車に乗せられ、あんな共同声明など出していなかったのに、そんな想いが込み上げて来たのである。
だが、立ち止まる機会が無かった訳では無い。
御庭もまた、東吾の上げた動画の事は知っていた。
知っていて、それでも個人アカウントよりもメディアの報道を信じたのは、御庭自身である。
稚内から送られたメディアの情報には、レーダーサイト破壊の話は含まれていなかった。
だから、自衛隊の反乱という話に乗り、竪壱政権批判の為に協參党の手を取ったのである。
「どうして・・・・・・、どうしてこんな事になったんだ!」
昨日の共同声明は、もはや失策を超えた汚点でしかなく、党内で沸き上がる代表交代論に抗う術を、御庭は持ち合わせていなかった。
8月12日正午 稚内空港付近
田貫東吾は、昨日のショート動画の再生数が有名人並に伸びているのを見て、さらなる映像を欲していた。
天塩で足止めを食らったが、テレビでは、数日中には事態が鎮静化するとの見通しが語られていた。
だが、そんなものは待っていられなかった。
朝早くに起き出した東吾は、地図アプリを頼りに、自衛隊や警察が封鎖していなさそうな農道や林道を探しながら北上していた。
もはや再生乞食と化した東吾は、映える映像を欲して稚内空港を目指していたのである。
そこは、昨日の会見でも空爆映像が流された場所で、さぞかしすごい映像が撮れるだろうと期待していた。
上手く規制を掻い潜り、正午頃には空港の南方へ辿り着いたのだが、集落を抜けた先には焼け焦げた乗用車らしきものが道を塞いでいた。
喜び勇みバイクを停める東吾。
しかし、足をつくとブーツが滑った。
何とか転倒は免れたが、危ない所であった。
「あっぶね。何だ?金?」
滑った原因は、黄色味がかった黄金の小さな筒であった。
「何だ?コレ」
バイクのスタンドを立て、辺りを探せば、道脇の草むらにさらにふたつを見つけ出した。
「お!これって弾丸じゃね?銃撃戦でもあったのか?」
改めて乗用車を見れば、いくつもの穴がある事に気付く。
「間違いない、銃撃戦だ。映えるんじゃね?コレ!」
東吾はさらに乗用車へと近づいていく。
「おーい、そこのアンタ、止まれ!」
そんな声に跳び上がる東吾。
声のした方を見れば、警官が駆けてきていた。
昨日の光景がフラッシュバックし、固まる事しか出来なかった。
「どこから来たの?危ないよ。もしかしたら、この車には爆弾が仕掛けられてるかもしれないんだ。ん?それ、ここで拾ったの?」
駆けてきていたのは、白髪の混ざる年嵩の制服警官で、東吾には酷く場違いに見えた。
その警官の問いに、手を差し出す。
「こんな至近距離から撃ったんかね。そりゃ助からない訳だ」
警官は事情を知っていそうなつぶやきを漏らしながら、ビニール袋を取り出した。
「はい、それも証拠品だから」
東吾は言われるがまま、ビニール袋へと黄金の筒を転がした。
「えっと、5.45✕39が3発、と」
警官が何かを取り出し、筒を測ってメモ書きをする。
「どしたの、こんなところに来たら危ないよ」
さらに声がしたので顔をあげれば、小銃を持った迷彩服姿のふたり組が居た。
「まだ山狩してっから、こっちに近づかない方が良いよ」
ふたり組はサングラスを掛けている。
警官に二言三言語りかけると、手を挙げて去っていく。
ふたり組の百メートルほど後方には、東吾に狙いを定めた射手が居たのだが、その事に気付かなかったのは幸いだっただろう。
「まだ市街地から出ちゃダメだよ。どの車に爆弾や地雷があるから分からないんだから。え?道外からのツーリング?撃たれなくて良かったねぇ、え?昨日撃たれたの?ホント良かった。上手く逃げたんだねぇ」
警官は話術巧みに東吾から事情を聞き出し、近くの避難所で待機する様に告げた。
その際、さらりと道を塞ぐ乗用車が客を乗せたタクシーで、乗務員共々助からなかった事を教えられた。
それを聞いた東吾は足が竦みながら、警官の案内する避難所へと素直に向うのだった。
もはや、これ以上映えを求めて稚内周辺を探索する気持ちは萎えていた。




