3・愚者たちの余裕
8月11日15時、議員会館
「これより、野党共同声明を発表させていただきます」
そう声をあげたのは、野党第一党、正道憲政党代表御庭純也だった。
「報道を見る限り、強引に発議し、半ば扇動のような形で自衛隊明記を成立させてしまった結果、最悪の事態に至っていると思われます。とうとう、時計は100年巻き戻り、今まさに民主主義は危機に瀕している!」
そう宣言する御庭の姿に、記者会見に集まったカメラマンが一斉にフラッシュを炊く。
「我々野党は、断固として竪壱政権の横暴に抗議します!」
次に協參党委員長、川村知子が立ち上がる。
「皆さん、テレビで見たように、自衛隊は新聞社に押し入りました。勇敢な記者が隠し撮りした映像を東京へ送りましたが、その後連絡はありません。稚内市長とも連絡が取れない状況です。これは言語道断のクーデターです!竪壱政権がクーデター隠滅を図る前に、行動を起こさなければなりません!」
川村がそう叫べば、さらにフラッシュが焚かれる。
「毎朝新聞社の木頭磯子です。野党の皆さんが決死の覚悟で事態に臨む姿、稚内支社が襲撃された私も賛同を禁じ得ません。それでですね、竪壱政権は今後、事態収拾のために自衛隊を動かすと思いますが、野党の皆さんはどの様にお考えでしょうか」
さっそく、記者からその様な質問が飛んだ。
この記者会見は一部放送局を除き、テレビ、ラジオでも生中継が行われていた。
「そんな事は許されません!自衛隊が起こした暴挙に自衛隊を差し向けるなど、証拠隠滅にほかならない行為です!自衛隊や米軍に頼らない、公正な第三者による事態収拾と証拠保全を図る必要があります!」
川村は、木頭に合いの手を打つ様にそう応える。
「第三者となると、政権の介入が起こり得る警察も無理だと思いますが、国連に依頼するという事でしょうか?」
図った様に、木頭もそう質問する。
「はい、竪壱政権の介入が起こり得ない国際社会への要請が必要になります。日本やアメリカに任せては、軍国主義の継続を優先して事実が隠蔽されてしまいます!」
川村がそのように呼応する。
「ありがとうございます。私もそれが良いと思います」
そう言って、木頭は質問を終える。
「経産新聞社の阿多琉玲央です。稚内市や猿払村では行政が麻痺して消防も動けず、電話も無線も通じないんですが、御庭代表、川村委員長、国連や国際社会が即応出来るんですか?直ぐに事態収拾に入らないと、映像にあった襲われた人たちは助けられませんよ。まさか、宗谷岬の対岸に居るロシア軍に介入を頼むとでも言うんですか?」
改憲を問うた衆参ダブル選挙において、経産新聞社は改憲賛成の論調で報じていた。
阿多琉はその中でも、急先鋒と有名な記者だ。
御庭は一瞬顔が強張るが、川村はまったく意に介さずその質問を受ける。
「直ぐに動ける国について、私は特定の国を名指しはしませんが、自衛隊や米軍による証拠隠滅には断固反対です!」
阿多琉の質問に対してそう表明し、明確な言質を与えない。
「名指しはしなくても、稚内の対岸はサハリンですよ。中国や韓国が向うにも、ロシア軍との協力が必要になるじゃないですか、それは名指ししているのと変わりませんよ!」
阿多琉も応戦する。
「特定の国がどうではなく、PKOの様な形で、中立公正な立場から自衛隊の暴挙を鎮圧し、捜査に当たってもらうんです!」
御庭が割って入り、阿多琉へそう述べる。
「だから!それじゃ、クリミアの二の舞じゃないか!!稚内市民は生贄か!?」
阿多琉も吠える。
その叫びに御庭が声を詰まらせてしまった。
「すでに、自衛隊が市民を殺してるじゃないですか。生贄にしているのは堅壱政権ですよ!!」
言葉に詰まる御庭を余所に、川村は平然とそう言ってのける。
「救助が遅れるのは、堅壱政権が憲法改悪を強行からです。市民を見殺しにしている堅壱政権を擁護するんですか?あなたは!」
川村は、さらにそう切り返した。
「どことも言えない。そんな組織や機構に頼っている暇があるなら、今すぐ自衛隊が動くべきなんですよ。話をすり替えないでいただきたい!」
川村に対し、阿多琉も負けずに叫び返すが、川村は一切動じなかった。
会場は堅壱政権への批判に賛同するような声が他の記者たちからも上がり、阿多琉を置き去りに、異様な盛り上がりの中で質疑応答が進んでいった。
会見場は何か熱のこもる雰囲気を放っており、阿多琉には居心地が悪すぎた。
(何だ、この学生運動ばりの異様な熱気は・・・・・・)
阿多琉はその異様さに気圧され、会場の隅へと退いた。
「阿多琉さん、まさか、ウチの支局が送って来た今際のメッセージを疑うんですか?」
すると、ニヤニヤした木頭が現れ、阿多琉へそう問うてきた。
「今際のメッセージだと?迷彩服など簡単に手に入る。東京のミリタリーショップにだって売っているじゃないか」
「そんな苦し紛れのすり替えなんて、阿多琉さんらしくありませんね。あの映像は、伴田さんも『自衛隊だ』って認めてるんですよ。テレビ見ました?」
木頭は嫌らしく阿多琉へそう語りかける。伴田繁は有名な軍事ジャーナリストであり、テレビでよく解説をしている。その人物が映像の解説において、襲撃犯を自衛隊であると断定的に解説が行われていたのが、会見の30分ほど前の事だった。
「あんたこそ、ネットの動画を観ていないのか。稚内分屯地内のレーダードームが煙を噴いていたじゃないか。撮影者はロシア語で威嚇され、銃撃まで受けていた」
阿多琉は、ネットに流れる東吾の動画を根拠に木頭に抗議する。
「ネットの動画なんて、簡単にAIで偽造出来ますよね?その動画こそ、自衛隊が捏造したんじゃないんですか?自衛隊施設の火災だって、自作自演か仲間割れですよ」
阿多琉は、木頭の言葉を否定するほどの材料を持ち合わせていない。
未だ、政府からは報道以上の具体的な発表は為されていなかったのだから。本当に稚内分屯地が何者かに破壊されているのかという情報は、どこのメディアも手にしていなかった。その情報は、東吾の動画以外、今のところ確たる映像を誰も持ち得ていなかった。
「あんたらの想像が違っていたら、破滅だぞ!!」
「あら、それは竪壱政権に加担する、阿多琉さんのほうでしょう?事件から3時間にもなるのに、なぜぶら下がりひとつしないんですかねぇ」
木頭の余裕な返しに、二の句が継げない阿多琉であった。




