エピローグ
「……で、いつまで皇宮にいなきゃなんねえわけ」
皇宮の一室、上質なソファの上でテオドールはため息をついた。
セシリアの復活のため家の魔力を使い切ってしまった結果、問題となったのはライフラインだった。水も明かりも使えなくなってしまった家ではさすがに生活できない。テオドールたちは家の工事……新文明の水道や電気を利用できるようにするための工事が終わるまで、一時的に皇宮で過ごすことになったのだ。
「エドゥアルトさんはかなりかかるって言ってましたよ。まあ、皆と美味しいものが食べられるなら皇宮も悪くないです」
「はは、皇宮を『悪くない』とはな。そなたらくらいだ、そんなことを言うのは」
アーサーが楽しそうに笑う。
「…………オレに、オレに料理をさせてください殿下。掃除と、料理を」
「あきらめろザフィ……ハイド。ここは皇宮でおれたちはケーシキジョー客人だ。おれたちもおまえのメシが恋しくなってきたがな」
ふん、とアドムが笑う横でハイドはそわそわと落ち着かない様子だった。客人扱いされるのに慣れていないのか、家事をしていないと生きていけないのか。ヴァイスヴァルトに帰ってからも定期的に休ませてやるようにしようとテオドールは思った。
そこにぱたぱたと足音が聞こえてくる。
「春介! 一応ここは皇宮だよ!」
「あははっ、兄ちゃんこわーい! あ、テオお兄さんこんにちは!」
キョースケとその弟の春介が楽しそうに走ってくる。春介はテオドールを見つけて元気よくお辞儀した。
「よお、元気か?」
「元気だよ! 父上も僕も元気!」
にぱっと笑う春介。以前会ったのはヒノモトの病室の中だったが、今はこうして元気に走り回っている。それがテオドールは嬉しかった。
「テオドール、皆でダンゴ食べない?父上が差し入れって」
「ダンゴ!」
キョースケが持ってきた包の中にはふっくらとした大量のダンゴ。早速アリリオの顔が輝く。向こうの部屋からジェンティアもやって来た。
「ジェンティアさんの分も、はい」
「ありがとうキョースケ君、とっても美味しそう!皆さん、またチェーロにも来てくださいね。ヒノモト料理も挑戦してみますから」
「本当⁉ 楽しみ!」
やった、とキョースケはそのまま嬉しそうに奥へと向かった。エドゥアルトとジキル、ムハンマド、それからキョースケの父親……博俊が談笑している。何やらこちらを見ながら微笑ましく話しているようだ。テオドールは少し気恥ずかしいような気がする。
「テオ! 聞いて、ニコラにお花をもらったの! 私に似合うんですって。ねえ、似合う?」
後ろからひょっこり現れたのは姉セシリアだった。ニコラウスにもらったというゲルベラの花束を抱きしめて、彼女は可憐に微笑む。テオドールはこの上なく幸せそうにそれを見て、微笑みを返す。
「おう、似合う似合う。姉さんは何でも似合うよ。午後から俺と服選びに行くか?この眼鏡は置いてさ」
「酷い! お姉さんを俺にくださいテオ!」
「ええい、お前は殿下の手伝いしろ! まだ俺は姉さんをやる気はねえよ!」
ニコラウスが大げさに嘆く声、セシリアの笑い声。
アリリオの、ハイドの、アドムの、キョースケの、ジェンティアの、春介の、エドゥアルトの、ジキルの、ムハンマドの、博俊の、楽しそうな話し声。
ヴァイスヴァルトの家の工事はまだ終わらないが、またあの家に戻ったら皆を呼ぼう。いつでも来てもらえて、いつでも笑ってもらえるような、そんな温かい家。セオドアの魔法がなくても、あの家を守っていこう。
テオドールは、小さいような大きいような決意をそっと固めたのだった。
読んでいただきありがとうございます!
これにて『Juwel Hexe』完結です!
最後までお読みいただき本当にありがとうございます。初めての投稿で不安だらけでしたが、温かな応援のおかげでやりきることができました!
この物語を楽しんでいただけましたら、それ以上に嬉しいことはありません。
読んでくださったすべての人の「生」が幸せなものでありますように。
お付き合いいただき、本当にありがとうございました!
タラノリオ(2026.8.29)




