↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/55

第25話 マナ補給

 さっきまで泣いていたのが嘘のように、シルフィは研究の話をするときの顔つきになった。


「エリシアの身体から、マナが流れ続けてるの」


 すぐには、意味が飲み込めなかった。


「化身が消えたことで、エリシアを不老不死にしていた術そのものが崩れたんだと思う。師匠も、そう考えてる」


 エリシアは驚いた様子もなく聞いていた。メルキテウスから、いくらか聞いていたのかもしれない。


「じゃあ、今は」


「うん。不死の状態には、戻ってない」


 エリシアは少し黙って、自分の左手を見た。


「……だから、あの傷、すぐに消えなかったのね」


「マナを外から入れても、全部は留まらなくて、少しずつ外へ流れていくの。根本から止める方法は、まだ分かってない」


「……治らないのか?」


「今のところは。だから当面は、流れていく分を外から補給しながら暮らしていくことになります。補給すれば一時的には楽になりますが、やめればまた減っていきます」


 補給、という言葉が耳に残った。マナなら、俺の中にも流れている。剣を振る瞬間に巡らせ、刃に乗せてきた。


 あれを、外へ出せるなら。


「なら、俺のマナを渡せばいいのか」


 口に出すと、シルフィがこちらを見た。


「……できるんですか、ガルフォードさん」


「分からない。人に渡したことはない」


 壁にもたれていたスレンが、横から口を挟んだ。


「巡らせ方なら仕込んだ」


「でも」


 シルフィが、少し言いにくそうに続けた。


「人のマナは、身体の外に出すとすぐに散るんです。手で触れるくらいだと、渡すそばから逃げていって、たぶん足りません」


「なら、どうする」


 シルフィは一度口を閉じてから、言った。


「……いちばん効率がいいのは、粘膜を介した接触です。要するに――口から、直接」


 部屋が、しんとした。


「……口移し、ということか」


「それで、補給できるの?」


 エリシアが、いつもと変わらない顔で聞いた。


「う、うん。理屈のうえでは、いちばん効率がいいはず」


「なら、いいけれど」


 エリシアはそれきり何も言わず、代わりにスレンがちらりと俺を見た。


 シルフィが話を先へ進める。


「私のマナなら、瓶に詰めて置いていけるよ」


「でも、それはいざというときのために取っておいたほうがいいかな。普段の補給は、ガルフォードさんから」


「……ああ」


「じゃ、私は瓶に詰めてくる。スレン、荷物持ってきて」


「あの重いの、全部瓶か」


「そうだよ」


「何本持ってきたんだよ……」


 スレンがぼやきながら、シルフィのあとについていく。扉のところで、シルフィが振り返った。


「とりあえず、朝と昼と、寝る前。一日三回くらいから、様子を見ましょう」


 そう言い置いて、二人は部屋を出ていった。


*


 部屋に、俺とエリシアだけが残った。


 何を話すでもなく、間があく。俺は水差しの水を替えるふりをして、窓のほうを向いていた。


 しばらくして、椅子が小さく鳴った。振り返ると、エリシアが肘掛けに手をついて立ち上がろうとしている。


「少し、休む」


 寝台へ向かいかけたところで、身体が傾いた。


「エリシア!」


 水差しを置いて、とっさに腕を伸ばす。腕の中で、呼吸が浅くなっていた。


「……大丈夫」


「大丈夫じゃないだろ」


 そのまま抱き上げて寝台まで運び、横抱きにしたまま縁に腰を下ろした。


 さっきのシルフィの話が、頭をよぎった。今が、そのときなのだろう。


 少しためらってから、顔を寄せる。


 唇が触れた。


 身体の奥でマナを巡らせ、剣に乗せるときと同じ要領で、触れたところへ集めて送り込む。温かいものが、エリシアの内側へ流れ込んでいく。そのいくらかが留まりきらず、外へ逃げていくのも分かった。


 治療だ、と自分に言い聞かせる。それでも、心臓がやけに速く打っていた。


 もう十分だろうというところで顔を離すと、エリシアの頬に少し赤みが戻っていた。呼吸も、落ち着いている。


「……どうだ」


「さっきより、楽かも」


 腕の中から、エリシアがこちらを見上げた。


「ガルフォード、ありがとう」


 返事が、一拍遅れた。


「……ああ」


 目を逸らして、エリシアを寝台に横たえた。


 エリシアは枕に頭を預ける。


 俺は水差しのそばへ戻り、まだ半分残っていた水を、意味もなく替えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。