第15話 決意
王都へ戻るまで、六日かかった。
山間の町で調査隊と合流し、そこからは街道を使った。スレンは当たり前のような顔でついてきたが、道中、何を考えているのかは最後まで読めなかった。
王都に入ると、人が多く、道は広く、行き交う人々の腰に武器はない――五年ぶりに地上へ戻ったときも、こんなふうに見えた。
エリシアは寄り道もせず、魔法研究所へ向かった。
*
研究所の一室には、エリシアとシルフィ、それにメルキテウスの三人がいた。
メルキテウスは地図に書き込みながら、ロスト・ヴァンドラから持ち帰った情報と、これまでの記録を突き合わせていた。
やがて、その手が止まる。
「このあたりじゃな」
地図の一点に印をつける。
「北西の山系の、さらに下じゃ。旧坑道を辿れば、入口までは行ける」
「うん」
エリシアは地図を覗き込んだまま、しばらくその場所を見ていた。
「五年で出てきたわりに、広がるのが遅い。……回復しきる前に、起きてきたのかもしれんな」
「次で、最後にしたい」
シルフィが顔を上げる。メルキテウスも地図から目を離した。
「……今、何と言った」
「次で、最後にする」
エリシアは地図から目を離さなかった。
「今度は、力を全部使う」
「エリシア」
メルキテウスの声が低くなる。
「それがどういうことか、分かって言うておるな」
エリシアは小さく頷いた。
「全部使えば倒せるという保証はないぞ」
「分かってる」
そこでようやく、エリシアは顔を上げた。
「でも、次に持ち越したくない」
メルキテウスは、それ以上何も言わなかった。
エリシアがシルフィのほうを向く。
「シルフィ。力を解放する術式を、あなたにお願いしたい」
「……私が、やるの?」
「うん。化身のところまで、一緒に来てほしい」
シルフィは返事をしなかった。少しして、メルキテウスを見る。
「師匠じゃ、だめなの?」
「シルフィがいい」
迷いのない返事に、シルフィはエリシアを見た。
「……なんで?」
「シルフィは、頼んだことを勝手に話したりしないでしょう」
エリシアは少し考えてから続けた。
「それに、お願いしたら、きっとやってくれるから」
シルフィは黙っている。
「信頼してるよ」
シルフィの目が見開かれた。何か言おうとしたが声が出ず、唇を結んで一度俯く。
「……そんなことで」
ようやく出た声が、少し震えた。
「そんなことで、初めて信頼してるなんて言わないでください」
エリシアが首を傾げる。
「だめだった?」
「だめじゃないです」
シルフィはすぐに答えた。
「だめじゃ、ないですけど」
エリシアは困ったようにシルフィを見ている。
「……泣かないでよ」
「泣いてません」
シルフィは目元を拭った。
メルキテウスが、地図の上に置いていた手を引いた。
「エリシア」
「なに?」
「わしではなく、シルフィなのじゃな」
「……うん」
メルキテウスはエリシアを見て、それからシルフィへ目を向けた。シルフィは赤くなった目のまま、頷いた。
「……分かった。準備しよう」
メルキテウスは地図を畳み、ゆっくりと立ち上がった。
「最深部には、大人数では行かない。来たい人だけにする」
エリシアの言葉に、メルキテウスが頷く。それだけ決めて、話は終わった。
*
しばらくして、部屋の扉が開いた。
廊下の壁にもたれていたスレンが、先に身を起こす。エリシアは俺たちを見ると、いつもと変わらない顔でこちらへ来た。
「終わった」
「どうだった」
「場所は分かった。あとは行くだけ」
少し遅れて、シルフィが部屋から出てくる。目が赤い。俺が見ていることに気づくと、顔を背け、そのまま足早に廊下の向こうへ行ってしまった。
「シルフィ、どうかしたのか」
「さあ」
スレンは何も言わず、シルフィが行った廊下の先を目で追っていた。




