第14話 扉の奥、そして同行者
玉座のオルブライトが、身を乗り出した。
その目はずっとエリシアに向いていた。値踏みしている目とは、どこか違った。
「お前。こっちへ来い」
低い声が飛び、オルブライトは顎で玉座の背後の扉を示した。
広間がどっと沸いた。
「ずいぶん気に入られたな」
「命拾いしたじゃねえか、嬢ちゃん」
下卑た笑いが広がった。
「待て」
俺はエリシアの前に出ようとした。
「いい。少し話してくる」
エリシアが先に言った。
「一人でか」
「そうよ」
「あいつが何なのか分かってるのか?」
「大体は……ね」
「だったら――」
「ガルフォード」
名前を呼ばれて、口が止まった。
「大丈夫よ。邪魔しないで」
エリシアはそのまま玉座の脇を抜け、扉の向こうへ入っていった。
扉が閉まった。
*
残された俺は、その場から動けなかった。周りから、下世話な言葉が飛んでくる。相手にはしなかったが、握った拳は緩まなかった。
どれくらい経ったのか、分からない。
扉は閉まったまま、物音一つ漏れてこない。何かが起きているのか、何も起きていないのか、見当もつかなかった。
「行かねえのか」
声に振り返ると、スレンがいた。
「行くなと言われた」
「へえ」
スレンが片方の眉を上げた。
「素直なんだな」
「……うるさい」
スレンはそれ以上何も言わず、扉へ目をやった。
俺も、同じ方向を見ていた。
*
部屋の中は暗く、灯りは壁際に一つあるだけだった。
扉が閉まると、エリシアはすぐに口を開いた。
「随分と、悪趣味ね」
「……何のことだ」
玉座で聞いたのと同じ声だったが、どこか響きが違った。
「その体」
エリシアは男を見た。
「持ち主の魂は、もう残ってないでしょう?」
男の動きが止まった。
やがて聞こえてきた笑い声は、男の喉から出たものではなかった。もっと低く、遠くから響いてくる。部屋の奥で、影が揺れた。
「いつから気づいていた」
「入ってすぐ」
「……面白い女だ」
影が輪郭を持ち始めたが、人の形にはならなかった。男よりはるかに大きく、端は形を定めないまま滲んでいる。
「美しい。それに、妙な気配がする。ただの人間ではないな」
エリシアは答えなかった。
「俺と組まないか。この国程度なら、お前と俺で取れる。いや――帝国だ。お前なら、隣に置いてやってもいい」
「いらない」
間を置かずに返した。
「力も、国も、永遠も欲しくないのか」
「興味ないわ」
エリシアは部屋の中を見回した。
「本当に、悪趣味ね。これ」
「何がだ」
「人の体を使って、王様ごっこ」
影がわずかに揺れた。
「永遠の命も、お前なら――」
「いらない」
言い終わる前に、また切られた。影はしばらく黙っていた。
「……お前、何者だ?」
エリシアは答えず、話を変えた。
「化身のこと、知ってるでしょう」
「……なぜそう思う」
「地下を通ってる。あなたの箱庭のすぐそばを」
影の揺れが止まった。
「情報をちょうだい」
「断ればどうする」
「別に」
エリシアは影の奥を見た。
「先にあなたを片づけて、自分で探すだけ」
しばらくして、影が大きく波打った。
「……惜しいな」
それから、知っていることを話し始めた。
*
扉が開いた。
真っ先に目を向けると、エリシアが、服も髪も何一つ乱さないまま歩いて出てくる。
その後ろからオルブライトも出てきたが、玉座にいたときの威圧するような態度は消えていた。
「好きにしろ」
そう言い残して、男は玉座へ戻っていく。広間から声が消えた。
エリシアがこちらへ歩いてくる。誰もその前を塞がない。あれだけ図太かった男たちが、一人、また一人と体をずらしていく。
「ガルフォード、俺も行く」
「なんでだ」
スレンは、近づいてくるエリシアを見ている。
「おまえらに、興味が湧いてな」
扉の向こうで何があったのか、俺には分からない。好き勝手なことを言っていた男たちが、今は黙ってその背中を見送っていた。




