第2話 谷底の荷
包帯の下で、掌の傷が開きかけていた。
夜明け前、八歳の風切疾風は家の土間で長い縄を選んでいた。昨日、見返り橋から落とした木箱を拾うためだ。父の源次には、まだ何も話していない。
仕事用の太い縄は重すぎる。細いものは谷へ下りるには心もとない。何本も引き比べた末、荷車の引き上げに使う縄を一本選んだ。
端に輪を作ろうとして、右手の親指がうまく曲がらなかった。
「いてっ……」
声を出してから、慌てて口を閉じる。
奥の部屋では家族が眠っていた。昨日は橋の通行止めや荷の確認で手間取り、家へ帰ったころにはすっかり暗くなっていた。父も母も、まだ起きてこないはずだ。
縄を肩にかけ、腰の小刀を確かめる。
土間の戸を開けようとしたところで、床板が小さく鳴った。
「兄ちゃん?」
四歳のこよりが、寝間着のまま立っていた。片手で目をこすり、もう片方には小さな布切れを握っている。
「どこ行くの?」
「ちょっと外」
「まだ朝じゃないよ」
「朝になる前に戻るんだよ」
こよりは窓の外を見た。暗い庭に目を向けたまま、首をかしげる。
「お山?」
「違うって」
「じゃあ、こよりも行く」
「駄目だ。母ちゃんが起きたら怒られるぞ」
口にした途端、自分も同じことをしていると気づいた。
こよりはしばらく兄の顔を見上げていたが、持っていた布切れを差し出してきた。
「これ、あげる」
昨日の包帯を見て、自分でも真似して巻こうとしていた布だ。端がでこぼこで、結び目もひどく大きい。
「いらねえよ。手はもう巻いてある」
「またいたくなったら、つかうの」
受け取らないままでいると、こよりは布を縄の間へ押し込んだ。それから何事もなかったように寝床へ戻っていく。
疾風は布を取り出しかけ、やめた。
縄から落ちないよう、布を帯の内側へ押し込む。
土間の戸を静かに閉めると、山の向こうが薄く白み始めていた。
*
橋の近くまで来ると、昨日の事故の跡がそのまま残っていた。
入口には通行止めの縄が張られ、割れた橋板が端へ寄せられている。欄干の片側は谷へ垂れ下がり、木の吊り橋は風が吹くたびに揺れていた。
疾風は橋を渡らず、手前の山道へ入った。
昨日、橋の手前から見つけた木箱は川沿いの岩に引っ掛かっていた。橋のすぐ下は切り立った崖だが、少し下流には昔から使われている細い道がある。父に連れられて薪を拾いに来たこともあった。
そこから谷へ下りれば、あの岩まで近づける。
問題は縄の長さだった。
道の途中にある松の木を探し、根元から谷を見下ろす。下の岩場までは四間ほど。その先は斜めに下る土の坂になっていて、川の近くまで続いている。
持ってきた縄を伸ばしてみると、何とか届きそうだった。
「よし」
幹へ二重に回し、父から教わった結び方で固定する。引いて確かめると、縄の輪が幹を少し滑った。
疾風は眉を上げた。
これでは駄目だ。
縄をほどき、太い根が地面へ張り出している根元で掛け直す。今度は体重をかけてもずれなかった。
結び直すだけで、両手がじんじん痛んだ。布の内側に湿ったものが広がっている。昨日の傷が開いたらしい。
それでも縄を持ち、斜面へ足を下ろした。
最初の二間は楽だった。土から突き出した石に足をかけ、松の根へ体を寄せながら下りる。だが、その先は足場が急に細くなる。
左足を置いた石が動いた。
小石が谷へ転がり、下の岩へ当たる。疾風は縄を握り直したが、痛みで指が緩んだ。体が横へ振れ、肩から土の斜面にぶつかる。
「くそっ!」
足元を確かめる。右足の下には、指が三本入るほどの出っ張りがあった。そこへ爪先を押しつけ、体を戻す。
少し下りてから、もう一度縄を引いて確かめた。
上の松は動いていない。
息を整え、残りの斜面を慎重に下りた。
川辺まで着くと、岩場には昨日の橋板が何枚も流れ着いていた。折れた綱や木片が水に洗われ、岩の間で引っ掛かっている。
見つけた箱は、もう少し上流だ。
川の音に混じって、別の音がした。
「おうい。誰かおらんか」
疾風は足を止めた。
「おうい!」
声は下流の岩陰から聞こえてくる。昨日の事故で誰かが落ちたのかと思い、急いでそちらへ向かった。
大きな岩の向こうに、老人が座り込んでいた。
旅装の上着を着て、横には薬箱が置かれている。右足を前へ伸ばし、石の間に杖を立てかけていた。
「じいさん、大丈夫か!」
「見ての通り、あまり大丈夫ではないのう」
「何やってんだよ、こんな所で」
「橋が通れんと聞いてな。下の道なら行けると思ったんじゃが、石を踏み外した」
老人は右足を動かそうとして、顔をしかめた。
「足首をひねった。立てんことはないが、登り道は無理じゃ」
疾風は老人の足元を見た。草鞋の紐が緩み、右足首が左より太くなっている。
自分の腰から縄を外しかけて、止まった。
箱を拾うために持ってきた縄だ。
これを老人の引き上げに使えば、箱を探している間に上の道へ戻らなければならない。父が起きるまでに帰るつもりだったのに、もう日が高くなり始めている。
「坊主、お前一人か」
「そうだよ」
「親はどうした」
「家にいる」
「なら、呼んでこい。無理に引っ張らんでよい」
疾風は老人の足首をもう一度見た。少し下流の岩場には、水の流れが寄っている。さっきまで老人が座っていたらしい場所は湿っていた。
「雨が降ったら、ここまで水が来るぞ」
「今すぐには降らんだろう」
「分かんねえだろ。山の上は見えねえし」
老人は空を見上げ、何も言わなくなった。
疾風は縄を握り直した。
「じいさん、立てるか。俺、引っ張るから」
「お前の細腕では、わし一人も持ち上がらんぞ」
「持ち上げねえよ。足で登るんだ」
老人は目を細め、少し笑った。
「なるほど。ならば手伝ってもらおうか」
*
最初の登り口は、岩に苔が付いて滑りやすかった。
疾風は老人の杖を借り、先に足を置ける場所を確かめた。左足なら体重をかけられる。右足は地面に触れるだけでも痛むらしく、老人は一歩ごとに動きを止めた。
薬箱は肩紐を使って老人の背中へ回した。両手を空けておかなければ、木の根も縄もつかめない。
急な斜面へ着いたところで、疾風は松から下げてきた縄の端を老人に渡した。
「これ、腰に回してくれ」
「お前は?」
「俺は横を登る。じいさんは縄を持って、左足で上がれ」
「手が痛そうじゃが」
「昨日、ちょっと擦っただけだ」
老人は疾風の包帯に目を向けた。
「ちょっと、か。ずいぶん立派な包帯じゃのう」
「母ちゃんが巻いたんじゃねえよ。親父だ」
「そうか。では丈夫じゃろうな」
老人は縄を腰へ回し、緩まないよう結んだ。疾風はその結び目を確かめてから、斜面の横へ移った。
先に登り、老人の足が置ける場所を探す。
左足が上がったら、縄を引いてたるみを取る。右足を引きずる間は、体が後ろへ倒れないよう支える。
ひとりを丸ごと持ち上げる必要はない。
老人が自分で動ける分だけ、道を作ればよかった。
「次、左の石。そこなら乗れる」
「その上は?」
「木の根がある。つかめるか?」
「届く。じゃが右足が動かん」
「待って。縄を張る」
疾風は松から伸びる縄をつかみ、体を後ろへ倒して引いた。老人の腰が少し上がる。その間に老人が左足を押し込み、木の根へ手を伸ばした。
あと少し。
縄が強く張った瞬間、包帯の下で傷が裂けた。
「痛っ!」
右手から力が抜ける。
老人の体が半歩下がり、草鞋が石をこすった。疾風は左手だけで縄を押さえようとしたが、重さに引かれて足が滑る。
「坊主、離せ!」
「離したら落ちるだろ!」
「木に回せ! 縄を直接持つな!」
声に従い、すぐ横の太い根へ縄を回した。張った縄が根に食い込み、手にかかる重さが軽くなる。
老人の足が止まった。
「それでいい。わしが登る。お前は縄が緩まんようにしてくれ」
疾風は両手を重ね、根に回した縄を押さえた。
老人が少しずつ登る。左足で地面を押し、杖を上へ突く。右足は引きずったままだが、腰の縄が後ろへ倒れるのを防いでいた。
最後の段差で、老人が松の根元へ手をかけた。
地面に腹ばいになり、息を吐く。
「やれやれ。薬を売りに来て、薬が要る羽目になるとはのう」
疾風も斜面を登り切った。
縄を外そうとすると、包帯の端から血がにじんでいた。昨日より傷が深くなっている。指を開くだけで痛みが走った。
「見せてみい」
「いいよ。じいさんの足の方がひどいだろ」
「薬売りに手を見せんとは、商売妨害じゃな」
老人は背負った薬箱を下ろし、中から清潔な布を取り出した。汚れた包帯をほどき、傷を見て眉を寄せる。
「これは洗って巻き直さねばならん。家では誰が手当てをした?」
「親父」
「なら、帰ってもう一度やってもらえ。今日はもう縄を握るな」
疾風は返事をしなかった。
谷底を見下ろしたからだ。
流木の間に、昨日の木箱が見えている。鉄帯の付いた角が、岩に乗ったままだ。ここまで下りてきたのに、まだ触ってもいない。
「じいさん。ちょっとだけ待っててくれ」
「まだ何かあるのか」
「あそこに箱がある。昨日、俺が落としたやつだ」
老人は崖の下へ目を向けた。
「なるほど。あれを拾いに来たのか」
「二つ落ちたんだ。一つだけでも持って帰りたい」
「お前一人で運べる大きさには見えんが」
「運べなくても、どこにあるか分かれば親父に言える」
老人はしばらく考え、杖を地面へ突いた。
「そういうことなら、見るだけにしておけ。わしはここで待つ」
疾風は頷き、もう一度岩場へ下りた。
箱は流木と岩の間に挟まっていた。片側の鉄帯が曲がり、蓋の角が少し割れている。すぐ横で川の水が流れていたが、箱の底までは届いていない。
手をかけてみる。
動かない。
足で押しても、ほんの少し向きが変わるだけだった。大人が二人で持ち上げるような箱を、八歳の子ども一人で運べるはずがない。
「くそっ」
割れた角から中をのぞく。
大きさの違う歯車が何枚も重なっていた。昨日、荷場で聞いた中身と同じだ。その横には、何に使うのか分からない金具が並んでいる。
曲がった板を少し持ち上げると、奥に見慣れない形の金具もあった。輪の片側が細くなり、反対側には小さな突起が並んでいる。
家の荷車には、こんな部品は付いていない。
箱を閉め、近くの岩へ縄の切れ端を結びつけた。道から見つけやすくするためだ。もう一つの箱は川を見渡しても見当たらなかった。
引き返そうとして、足元の石が崩れた。
体が川の方へ傾く。
疾風は近くの岩に左手を突いた。掌へ鋭い痛みが走り、包帯に赤いものが広がる。
「っ……!」
石に膝を押しつけ、姿勢を戻す。
もしあのまま落ちていたら、川まで止まれなかった。
少し離れた高台から、老人が杖を振っていた。
「もう戻れ! 箱は逃げんぞ!」
「分かってる!」
疾風は岩を確かめながら登った。
谷から上がるころには、両手の指を伸ばすのも難しくなっていた。
*
老人を連れて峠見宿へ戻ったとき、太陽はもう屋根の上にあった。
薬売りは杖を突き、途中で何度も休んだ。右足を動かすたびに顔をしかめるものの、平らな道なら一人で歩けるようになっていた。
石の多い場所では、疾風が薬箱を抱えて運んだ。包帯に触れないよう腕で支えていても、重さがかかるたびに手が痛んだ。
町へ入る手前で、老人は薬箱を下ろした。
「坊主、名前は?」
「風切疾風」
「風切か。よく働いたのう」
老人は財布から硬貨を一枚取り出した。
「ほれ。駄賃じゃ」
「いらねえよ。助けただけだし」
「その後、わしの薬箱も運んだじゃろ。あれは仕事じゃ」
疾風は手の中に置かれた硬貨を見た。薬箱は老人の肩に戻っている。重い物を持ちたいわけではなかったが、働いたと言われると返す理由も見つからない。
「じゃあ、もらう」
硬貨を帯の内側へ差し込む。
「うむ。今度は親父さんに言ってから出かけるんじゃぞ」
「じいさんまでそれ言うのかよ」
「わしが親なら、まず一発どやすところじゃ」
老人は杖を突いて歩き出した。疾風はその背中を見送り、家の方へ足を向けた。
門の前には、父の荷車が止まっていた。
その横で源次が腕を組んでいる。
「おかえり」
短い一言だった。
疾風は立ち止まった。
「……ただいま」
「どこへ行ってた」
「橋の下。箱を拾おうと思って」
「一人でか」
「うん」
源次は息子の肩に掛かった縄を見た。次に両手の包帯へ目を落とす。
「その手で何をした」
「谷に下りたら、薬売りのじいさんがいた。足をくじいててさ。縄で登るのを手伝った」
「それで?」
「箱、一つ見つけた。まだ下だけど、目印を付けてきた。親父なら引き上げられると思う」
答えても、父は動かなかった。
「疾風。お前、今朝どこへ行くか誰かに言ったか」
「言ってねえ」
「帰る時刻は」
「朝には帰るつもりだった」
「帰らなかったら、どこを探せばいいんだ」
疾風は口を開いたまま、言葉を探した。
父なら谷へ来ると思っていた。自分が箱を拾ったと知らせれば、すぐ分かってくれるはずだった。
けれど父がどこから探し始めるかまでは、考えていなかった。
「橋の下……」
「橋の下にも道は何本もある。川に落ちたのか、山へ迷ったのか、それすら分からねえ」
源次は荷車の引き棒から手を離した。
「箱がいくつ見つかろうが、お前が帰ってこなきゃ勘定が合わねえ」
疾風は包帯を巻いた手を見た。
「でも、じいさんは助かった」
「それはよかった。お前が戻ったのもな」
源次が家の戸を開けようとしたとき、疾風の帯から硬貨が転がり落ちた。
「何の銭だ」
「じいさんがくれた。薬箱を運んだ駄賃だって」
源次は硬貨を拾い、息子の帯へ戻した。
「働いた分なら、お前の稼ぎだ。なくすなよ」
それだけ言って、家の戸を開ける。
「入れ。まず、その手を母ちゃんに見せろ」
奥から母のしのが出てきた。両手の包帯を見るなり、疾風を座らせる。母の手元には新しい布と水が用意されていた。
「一晩で傷を二倍にしてどうするんだい」
「二倍じゃねえよ」
「じゃあ、見せてごらん」
包帯をほどくと、昨日できた傷が開いていた。親指の付け根は赤く腫れ、左手にも細い傷が増えている。
しのは水で汚れを洗い流した。疾風が痛みに顔をしかめると、手を止めてしばらく待つ。
「次は言ってから行きな。朝起きたら布団が空で、心臓が止まるかと思ったよ」
「……うん」
「返事だけはいいんだから」
母は傷をきれいな布で覆い、もう一度包帯を巻き直した。
「お母ちゃん、こよりもやる!」
妹が小さな布を持って走ってきた。朝、疾風に渡したのと同じような布だ。
「こより、今はお母ちゃんがやるからね」
「こよりも、兄ちゃんのおてて、なおす」
しのが使い終えた布の切れ端を渡すと、こよりは疾風の手に巻きつけ始めた。包帯の上からさらにぐるぐる巻きにする。
「おい、そんなに巻いたら手がなくなるだろ!」
「うごかないほうが、なおるもん」
こよりは得意そうに結び目を作った。
指が全部隠れてしまった。
疾風が助けを求めて母を見ると、しのは笑いをこらえながら布をほどいた。今度は小さな手を借りて、包帯の端だけを結ばせる。
「ほら。これでいいよ」
「兄ちゃん、もういたくない?」
「痛えよ。さっきより動かねえし」
「じゃあ、なおるまで、こよりがごはん食べさせてあげる」
「自分で食えるって!」
土間から父の笑う声が聞こえた。
疾風は顔をそちらへ向けたが、源次はすでに荷車の支度を始めている。谷に残した箱を引き上げに行くつもりらしい。
慌てて立ち上がろうとすると、母に肩を押さえられた。
「あんたは家にいな」
「道なら俺が分かるぞ」
「もう聞いた。親父さんに目印の場所を教えたんだろ」
「でも、箱は岩に引っ掛かってて……」
「なら、なおさら大人の仕事だよ」
しのは新しい布を片づけ、疾風の前へ飯の入った椀を置いた。
包帯を巻かれた手では、箸がうまく持てない。
向かいでこよりが得意そうに椀を抱えた。
「こよりがやってあげる」
「いいって!」
「はい、あーん」
「やめろって!」
母は止めなかった。
結局、疾風は最初の一口だけ妹に食べさせてもらうことになった。
*
父が箱を持ち帰ったのは、日が傾き始めたころだった。
家の土間に置かれた木箱は、昨日よりひどい姿になっている。角の鉄帯が曲がり、蓋の片側も割れていた。源次は縄を外し、重そうに腰を伸ばした。
「一箱だけだ。もう一つは見つからなかった」
「探したのか?」
「川の下まで見たが、見当たらねえ。流されたなら、もう少し下だな」
疾風は木箱の前にしゃがんだ。
「中身、壊れてるかな」
「見てみるか」
父は小刀で蓋の釘を抜いた。割れた板をゆっくり持ち上げると、中には大小の歯車が重なって入っていた。
いくつかは泥で汚れ、歯が欠けている。見慣れない金具も混じっていて、どこに取り付ける物なのか疾風には分からなかった。
源次は一つずつ取り出し、床の布へ並べていく。
「これなら、少しは戻せるかもしれねえな」
「全部じゃないのか」
「落ちた衝撃で欠けてる。金具も足りねえ。あとで数え直す」
疾風は布の上を見回した。
丸い歯車に、細長い鉄の棒。輪の片側が細くなった金具もある。箱の底には金具がずれて残したような跡があり、何が足りないのかは数えてみなければ分からなかった。
「親父、箱の底も見ていいか」
「ああ。ただし金具の端で手を切るなよ」
源次が箱を傾けると、底板の隙間から小さな紙片が滑り出た。
荷札だった。
泥が付いているものの、紙は破れていない。疾風は包帯の端で泥を払おうとして、父に止められた。
「そのまま置け。乾かしてからにしろ」
「でも、これ……」
疾風は自分の腰にある荷札を一枚取り出した。
父の荷札には穴が一つある。右下の角を少し削ってあるのが風切家の印だ。
箱から出てきた札は、形こそよく似ていたが違っていた。
上の方に、小さな穴が二つ並んでいる。
疾風は二枚を床に並べ、穴の数をもう一度確かめた。




