第107話:強力な協力者
振り返る。
ギルドの入口から、三人組の冒険者がこちらへ歩いてくるところだった。
金髪ツインテール。背の小ささに似合わないゴツい黒鉄の重装鎧。
その後ろに、鎧を着た戦士と、魔法使いらしき女。
見覚えがある。
ありすぎる。
「げっ……テメェ……」
チビ女は、俺の顔を見るなり、少しだけ得意げに笑った。
「久しぶりね、〈ババ抜き〉のアリア」
〈星砕〉のフィリス。
かつて、ガロードのお守りを俺に押し付けやがった銀等級冒険者。
パーティ〈暁の剣〉のリーダーだ。
(……なんでここにいやがる)
「相変わらず、顔を見るなり失礼ね」
「こっちの台詞だ。それから、その名前で呼ぶんじゃねぇ!」
「あら、立派な二つ名じゃない。今では金等級パーティのリーダー様なんでしょう?」
「その言い方、絶対に褒めてねぇだろ」
「半分は褒めているわ」
「残り半分はなんなんだよ」
「確認かしら」
フィリスは、俺の後ろにいる面々へ視線を向けた。
ガロード。
エステル。
ジーン。
ニーコ。
その視線は、露骨な侮蔑ではないものの、素直な祝福にも見えない。
まるで、本当に大丈夫なのかと見定めるような目だった。
「おや、アリアちゃんこのキュートなお嬢さんは?」
ジーンがフィリスを見てそう囁く。
「……はぁ? キュート? アンタ、今……私のことチビって言った?」
表情が一変して殺気が漏れる。
「やめろ、フィリス。彼はそんなこと言ってない」
「退きなさい、ランサ! こいつ、私と目線が合うまでベコベコに叩き潰してやるわ!」
「おっと……どうやら禁忌に触れてしまったようだね……もちろん、大人の魅力に溢れた素敵な女性という意味さ!」
ジーンに食って掛かろうとするフィリスの前に割って入る戦士風の男。ランサ。
「わたくしよりも、ちっちゃくてかわいいですわ……んぐ!?」
「ちょ、エ、エステルさん……! しーっ!」
ニーコは慌ててエステルの口と鼻を押さえて静かにさせる。
「小さいけど、その分、器が大きいんだよー。ウチのリーダーは」
「ぐっ、リンベルまで……」
それを横目に同調する魔法使いの女。リンベル。
「ふん、まあいいわ!」
一触即発の雰囲気を振り払うように吐き捨てると、ちらりと目を奥に向ける。
視線の先には、騒ぎに対して無視を決め込み、パンを齧りながらギルドの掲示板に貼られた食堂の広告を眺めているガロードがいた。
フィリスは、ガロードを一瞥してからこちらへ向き直る。
「……本当に、金等級になったのね。こんな爆弾を連れて」
「押し付けた本人が言う台詞かよ」
「押し付けたつもりは……」
フィリスはそこで言葉を切った。
少しだけ気まずそうに視線を逸らす。
「……なくも、ないけど」
「ほら見ろ! やっぱり自覚あるじゃねぇか!」
「仕方ないでしょ!? あの時は、あれが一番丸く収まると思ったのよ! でも、結果的には上手くやっているじゃない」
「上手く? はんっ! ストレスと飯代が十倍に膨れ上がった以外はな!」
「しょうがないじゃない、立場には相応の責任が伴うものなのよ」
フィリスは涼しい顔で言う。
(このクソチビ女……!)
……言い返す言葉を探して、ふと気づく。
(いや、待てよ……目の前に、丁度いいのがいるじゃねぇか)
人手が欲しい。できれば、腕の立つ冒険者が。
ついさっき、俺はそう考えていたはずだ。
銀等級パーティ〈暁の剣〉。
腕は確からしいと聞き及んでいる。性格はムカつくが、仕事は堅い。
何より俺たちと違って、まともに統率が取れている。
「……おい、フィリス。お前ら、暇か?」
「は? なによ、いきなり。暇な冒険者なんていないわ……お茶にでも誘ってくれるのかしら?」
「ちげぇよ、仕事の話だ」
俺はマハレに目配せして、カウンターから離れた隅のテーブルへ連中を追い立てた。
ジーンが「おや、密談かい?」と余計な茶々を入れるのを肘で黙らせる。
声を落として、要点だけを話す。
魔族グァマの追跡。ガリア山脈麓の調査。暫定許可。
「――魔族、ね」
フィリスは驚かなかった。それどころか、心当たりがあるという顔で顎を引いた。
「ファルメルでも噂になっていたわよ。〈ジョーカー〉が皇族直々の勅命で、魔族を追って国外へ向かったって」
(……どこまで漏れてんだよ、あの街は)
まぁ、あれだけ派手に軍が動けば、口さがない冒険者どもが放っておくわけもねぇか。
あの腹黒皇子のことだ。箝口令を敷いていないってことは、この情報の漏れは意図的だろう。
情報を完全に封じ込める代わりに『魔族追跡』というわかりやすい噂を広げることで、両国を繋ぐ抜け穴と、魔族をガルドアへ取り逃がした経緯という核心部分は伏せる。
ついでに『美談』の効力を最大限に活用できるってわけだ。
「それで? その追跡とやらに、私たちを雇いたいわけ?」
「雇う……」
言葉に詰まった。
依頼という形を取るなら、当然、報酬が要る。
銀等級パーティを数日拘束するとなれば、相場は――考えたくもねぇ。昨日、フレイムワイバーン一頭分をまるごとフイにした俺の懐には重いことだけは確かだ。
「……あら?」
フィリスの目が、すっと細くなった。まるで獲物を見つけた猫だ。
「あらあら。あらあらあらあら。ひょっとして〈ジョーカー〉さん、お金がないの? 金等級様ともあろうお方が?」
「う、うるせぇ! 諸事情だ、諸事情!」
「ふぅん? 街を救った英雄様なのに?」
くっくっと喉を鳴らして笑いやがる。
ランサが「フィリス、その辺で」と苦い顔で窘めた。
(……いい。方針変更だ)
「雇うんじゃねぇ。協力要請だ。一枚噛ませてやるって言ってんだよ」
「ふん、協力?」
「手伝いなら下請けだが、協力なら対等だ。報酬は払わねぇが、指図もしねぇ。情報の手柄は折半だ。その代わり、調査中の獲物と素材はそっちの取り分……それで貸しも借りもなし」
「都合のいいこと言ってくれるじゃない。こっちは今朝エルピノに着いたばかりなのよ? そっちの都合で、タダ働きを頼もうなんて――」
「そうかよ」
俺は地図を畳んで、わざとらしく肩をすくめてみせた。
「悪かったな、引き止めて。国家間の安全保障に関わる仕事。成功すればギルドからの評価も高いだろうと思ったんだが……目先の小銭を拾いたい銀等級には荷が重い話だったな、忘れてくれ」
コイツの自尊心を抉る形で安い挑発をする。
乗りはしないだろうが、話を聞かせる土台をまずは作らないとな。
「……くわよ」
「え?」
「行くって言ってんの!!」
即答だった。
乗るのかよ。
アホで助かった。
「…………おい、フィリス」
ランサが呆れたように額を押さえる。
「うわぁ……リーダー、ちょろ~い」
「うぐっ……」
リンベルが、けらけらと笑う。ランサは天を仰いで、これ見よがしにため息をついた。慣れた様子だ。苦労してんだな、お前も。
「……ごほん」
フィリスは咳払いを一つして、真っ赤な顔のまま腕を組み直した。
「ただし!」
フィリスがビシッと指を突きつけてきた。
「勘違いしないで。ただ手伝ってあげるんじゃないわ。勝負よ」
「……あ?」
「調査して、どちらが先に有力な痕跡を掴むか。道中の功績勝負でもいいわ! 〈暁の剣〉と〈ジョーカー〉、どちらのパーティが上か、白黒つけてあげる」
(め、めんどくせ~っ! どんだけ負けず嫌いなんだよ、コイツ……)
……まぁいい。手分けすること自体は、こっちの望むところだ。範囲が広すぎるんだからな。
競うって建前で張り切ってくれるなら、むしろ好都合――。
「負けた方が、祝賀会の食事代持ちでどう?」
「……ッ!?」
「あら? 金等級ともあろう方々が怖じ気づいたかしら?」
「いいぜ……」
俺は真剣に頷いた。
こいつはウチの食い意地の張ったバカどもを知らない。正確には、ガロードの「食事量」を知らない。
(悪いなフィリス。その賭け、お遊びじゃなくなっちまった……!)
「ふふん、交渉成立ね」
勝ち誇った顔で手を差し出してくるフィリス。俺がその手を握り返そうとした、その時だった。
「まあ……! 合同調査ですのね! 素敵ですわ~!」
エステルが、両手を頬に当てて瞳を輝かせていた。
「喧嘩するほど仲が良いとは、よく言いますけれど、再会してすぐにお約束だなんて……! お二人はなんて熱い友情で結ばれておりますの!」
「「――は?」」
「よろしいですわね、青春ですわ! 力を合わせる冒険者同士の熱い友情ですわっ!」
「どこをどう見たら友情に見えるんだよ」
「うふふ! 最初は反発し合っていた二人が、やがて互いの実力を認め合い――」
「認めねぇよ」
「認めないわ」
声が、重なった。
「「…………」」
気まずい。何だこの空気は。
「……ぷっ、くく……仲良し~」
リンベルがケラケラ笑う。
「うふふ、アリア様のご友人ということは、自動的にわたくしともお友達ですわね! よろしくお願いいたしますわ、フィリス様! そしてランサ様、リンベル様も!」
「……何なの? この子」
「気にしないでくれ、ただのアホだ」
俺とフィリスはお互いの手を握り潰す勢いで握手を済ませると、乱暴に地図を広げ直した。
「こ、心強いですっ! 前衛が増えるのは特に……!」
ニーコもランサに期待の眼差しを向けている。……主に自分の受け持つ魔物が減ることに。
「あ、ああ……」
「ふふ、よろしくね~エステルちゃん」
ランサはニーコにやや押されぎみに、リンベルは笑いながらエステルの手を取る。
「おやおや、総勢八人。一気に大所帯だね。それも五人も守るべき姫が……ナイトとして、ボクたちも張り切らないとねガロード君」
ジーンがガロードの肩に手を乗せるが、ガロードは「あほくさ」とばかりに肩をすくめる。
こうして〈ジョーカー〉と〈暁の剣〉の合同調査が始まる。
調査は各自とは言ったが、山の麓まではどうせ同じ道だ。二つのパーティは同行することになった。
宿からかっさらってきたのであろうバゲットサンドイッチを齧りながら歩くガロードが隊列に加わった瞬間、リンベルがスッ……と、流れるような足取りでランサの背後に回り込んだ。
ランサは常にガロードを視界にいれているようだし、フィリスも警戒を緩めていない。
(うわぁ……露骨に避けられてるな……)
後ろから不意打ちで、コイツの〈バアルスフィア〉を食らったんだ。……無理もない。
熟練の隊列運用だった。
方向性が完全に間違っているだけで。
「…………」
ガロードは、その視線に気づいたのか、足を止めた。
じっとリンベルを見る。
「ひっ……」
リンベルが小さく引き攣る。
ガロードは無言のまま、懐からパンを一つ取り出し――ずいっ、と差し出した。
「…………」
「…………」
石像と化すリンベル。差し出したまま微動だにしないガロード。
(お前なりの歩み寄りなんだろうが……逆効果だ、それは)
俺は頭痛をこらえながら、二人の間に割って入ることで緩衝材となり、行軍を続けた。
読んでくれてありがとうございます。
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*本イラストは生成AIを使用しています




