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第21話:偽りの檻、暴かれる真実

静寂に包まれた、ネオ社郊外プラントの警備室。  カレンとシオンは、室内にいた二人の警備員を音もなく無力化し、隅に転がすと、すぐに部屋の「警備システムの統合制御コンソール」へと向かった。


壁一面に埋め込まれた監視モニターには、広大なプラントの各エリアが冷徹な電子の目で映し出されている。


「天童さん、警備室を制圧したわ。システムにアクセスできる?」


カレンが懐から取り出したデータ転送用デバイスをコンソールのメインポートに差し込むと、インカムから天童湊の弾んだ声が聞こえた。


「オッケー、接続確認! ポートを開放するよ。……よし、メインフレームのセキュリティをバイパスした。やっぱり僕の睨んだ通りだ。ここはただの郊外プラントを装っているけど、日本支社全体のシステムと、専用 の 暗号回線で常時同期してる。カレンちゃん、端末から映像アーカイブを検索してみて!」


カレンはコンソールを叩き、日本支社の防犯カメラの遠隔バックアップデータを検索した。  あの日、自分が陥れられた、日本支社地下での悪夢の夜――。


「あったわ……。日付は、私が潜入したあの夜……!」


カレンがエンターキーを押すると、モニターの一つに、無編集のオリジナル映像が映し出された。


画面の中で、カレンは暗闇から現れた覆面の男に向けて発砲している。弾丸は男の胸を正確に捉え、その場に倒れ込んだ。


だが、その直後――。


カレンの背後から、音もなく別の影が忍び寄った。カレンが振り返る間もなく、その背中へと強力な電気ショックが叩き込まれる。カレンの身体が激しく痙攣し、意識を失ってその場に崩れ落ちた。


すると、胸を撃たれて倒れたはずの覆面男が、何事もなかったかのようにピンピンと起き上がった。防弾仕様のインナーを叩き、覆面の隙間から覗く目元を嘲笑に歪め、満足げに肩を揺らした。


さらに、ネオ社の社員たちが、脅して抵抗できない状態にした清掃員をその場へと連行してきた。清掃員は恐怖に怯え、必死に命乞いをしている。  起き上がった覆面男は、冷酷な動作で、床に滑り落ちていたカレンの警察官用拳銃を拾い上げた。  そして――少し離れた位置から、何のためらいもなく、清掃員の胸に向けて銃弾を撃ち込んだ。


至近距離からカレンの銃で撃たれた清掃員は、その場に崩れ落ち、即死した。  男は銃口から上るかすかな煙を意に介さず、床に伏しているカレンの場所まで歩み寄ると、彼女の指を無理やり動かし、銃のグリップを固く握らせた。


警視庁に証拠として提出された映像は、カレンが暗闇に向かって銃を発射した瞬間だけを都合よく切り取ったものだったが、このオリジナル映像には、その先にあった恐るべき真実がすべて記録されていた。


生きたままの清掃員をわざわざあの場に連れてきて、気絶したカレンの銃で射殺したからこそ、本庁の法医学(死亡推定時刻・硝煙反応・血液の生活反応)の目をも完璧に欺くことができたのだ。プロの殺し屋の冷酷極まりない「ハメ技」の全貌が、そこにはっきりと記録されていた。


「ひどい……。ネオ社は、ただ私をハメるためだけに、無関係な一般の人の命をこんな風に……っ!」


カレンは怒りで肩を震わせ、拳を強く握りしめた。


画面の中で、覆面の男が任務の完了を確信したのか、周囲の目を気にするように、鬱陶しそうにマスクを脱ぎ捨てた。  カメラのライトに照らされたのは、頬に深い傷を持つ、冷酷な細目の男の素顔だった。


「こいつが、私をハメた殺し屋……!」


「カレンちゃん、今すぐそのオリジナルデータをシオンから警視庁本部へ直接転送して! ネオ社による罠を完全に暴いて、騙されている本庁の目を覚ますための、唯一無二の物理的証拠だよ!」


「シオン、お願い!」


『了解。カレン刑事。映像データ、メモリヘコピー完了。並ビニ、警視庁本部データベースヘ、直接緊急アップロードシマス』 (よかった、これでカレンの偽りの容疑が晴れた。本当に……本当によかった……!)


シオンのスピーカーから、いつもの、だがどこかカレンの安堵に寄り添うような機械音声が漏れた。  コンソールの画面上にデータ送信完了を示すログが静かに走り、カレンはシオンの青いセンサーアイを見つめて小さく息を吐いた。  これでようやく、自分の無実が証明される。デカとしての尊厳を取り戻せるのだ。


「シオン、ありがとう。……でも、まだ終わりじゃないわ」


カレンはコンソールから別のシステムファイルを呼び出し、プラントの館内図を表示させた。  画面に浮かび上がった立体的な設計図を見つめ、カレンの目が鋭く光る。


「大和重工に渡される前の、違法ロボットの製造ラインがある巨大な倉庫のほかに……この一番奥にある部屋は、何?」


「そこは、外部のシステムから完全に独立した、オフラインの『資料室』だね」  と天童。元ネオ社の開発者である彼は、懐かしむような、しかし油断のない声で続けた。 「ネットワークが切り離された物理的なローカルサーバーにネオ社の機密データが保管されている場所だ。元社員の僕でも当時アクセスすることができなかった」


「資料室……。あいつらが、お父さんのデータを狙った理由……。私が10年前に失ったものの真実が、そこにあるかもしれない」


その時、警備室の監視モニターの一つに、雨に濡れたプラントの外周フェンスが映し出された。  サーチライトの死角を縫うようにして、塀の下で侵入ルートを探している、見覚えのある無骨な男の姿があった。


「署長……!」


カレンは素早く手元の暗号無線機の通信ボタンを押した。


「署長、聞こえますか? カレンです」


フェンスの下で、署長が驚いたように胸の無線機に手を当てた。 「カレンか! 無事だったか!」


「ええ。現在、警備室を完全に制圧しています。外周フェンスの警備システムを一時的に解除します。塀を乗り越えて、中へ入ってください!」


「よし、分かった。今行く!」


カレンがコンソールを叩いて防壁のセンサーをオフにすると、署長は恰幅の良い大柄な体躯に似合わず、元現場の刑事らしい無駄のない機敏な動作で高いフェンスを乗り越え、プラントの敷地内へと音もなく侵入した。


「署長が合流するわ。シオン、私たちは先に巨大倉庫へ行きましょう。ネオ社が隠している違法ロボットの製造ラインを押さえるわよ!」


『了解。製造ラインノ位置、スキャン完了。案内シマス、カレン刑事』


カレンとシオンは警備室を飛び出し、しんと静まり返った無機質な廊下を迅速に進んだ。


巨大な倉庫の前にたどり着いたその時、天童の声がインカムから流れた。


「ここのセキュリティドアは僕が警備室のシステムからリモートで開錠するよ。……はい、ロック解除!」


「天童さん、助かるわ」


重厚な扉がスライドし、二人がその巨大な倉庫へと一歩足を踏み入れた瞬間、カレンは息を呑んだ。


「これは……!」


そこは、天井の高さが数十メートルに及ぶ、広大なハンガーだった。  怪しく明滅するコンソールの光の下。組み立て途中のアームやフレーム、そして――。  すでに完成し、整然と起動待機状態で並べられた、数十体もの軍事用ロボットたちが、無機質な鋼鉄の巨躯を闇の中にそびえ立たせていた。


そのすべての装甲に、カモフラージュのための大和重工のロゴとシリアルコード、そして型番のみが刻まれている。国の目を盗んで国内で極秘に製造されている違法な自律型兵器。言い逃れのできない、国家安全保障を揺るがす決定的な物理的物証が、そこにあった。


「シオン、このラインとロボットの群れを、すべて記録して!」


『了解。カメラ、起動。全アングルカラノ証拠映像、撮影完了。……警視庁本部ヘ、暗号回線ヲ経由シテ、直接緊急アップロードシマス』


シオンのセンサーから放たれたデータが、一瞬にして警視庁のメインシステムへと送信される。


ほぼ同時に、都内にある、とある高級マンションの寝室。  カレンを冷酷に尋問し、ネオ社の提出した限定的な映像を信じ切っていた監察官室のキャリア刑事は、枕元で激しく鳴り響いた個人用緊急連絡端末のバイブレーションに目を覚ました。


警視庁の監視ルームから転送されてきた「シオン直通の極秘データ」を自宅の書斎で再生した瞬間、彼の表情から眠気が一瞬で吹き飛んだ。


再生される、カレンを陥れた偽装工作の克明な記録。  そして、大和重工を隠れ蓑にしてネオ社が国内で無許可で大量製造している、恐るべき軍事ロボットたちの証拠映像。


「な……何だ、これは……っ!」


キャリア刑事は、驚愕のあまり椅子から立ち上がった。  彼らはネオ社の巧妙なロビー活動と切り取られた映像に完全に騙され、正義の刑事である桐生カレンを犯罪者としてハメる片棒を担がされていたのだ。


「ネオ社め、我が国を戦場にするつもりか……! すぐに特殊急襲部隊(SAT)を動かせ! 警視庁のロボット部隊も、すべて出動だ! 郊外プラントを包囲し、ネオ社の幹部を全員逮捕しろ!!」


騙されていたことを知った警察組織が、ついに本来の「正義」を取り戻し、闇の中、怒涛の勢いで動き出した。



その頃、郊外プラントの倉庫。


「よし……これで、本庁も動かざるを得ないはずよ。……シオン、部隊が到着する前に、私はあの資料室へ行く。お父さんの、10年前の事件の真実を確かめるために」


『了解。カレン刑事。同行シマス』


「いいえ、シオン。あんたはここで署長を迎えて、倉庫のコンソールをハッキングして、このラインの全稼働データをロックしておいて。警察が来た時に、ネオ社がデータをリモート消去できないように」


カレンは言葉をかけず、ただシオンの頑丈な鋼鉄の肩にそっと手を置き、その目をまっすぐに見つめた。


「……」


シオンの青いセンサーアイが、カレンの決意に共鳴するように力強く明滅した。  シオンの網膜UIに表示されているカレンの精神状態と、感情パラメーター。


Hostility : 60% (数値の変化はない。もっと、もっと信頼してもらわなきゃいけない。ここが俺の、ユウキとしての頑張りどころだ……!)


『了解。カレン刑事。ココハ私ニ任セテ、先ヘ進ンデクダサイ。……健闘ヲ祈リマス』


カレンは小さく頷くと、超振動特殊警棒を握りしめ、暗い廊下の奥――10年前の真実が眠るであろう『資料室』へと、足音を殺して走り出した。

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