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氷雪の檻と白銀の騎士〜四の姫外伝  作者: 十海 with いーぐる+にゃんシロ
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7.其が鳴らされし時は

 

 翌朝。


「ここか?」

「うん、ここだ」

「どぉれ」

 

 ずざっとフロウは黒馬の背から滑り降り、雪原に立った。

 寒いの、腰が痛むの、足が冷えるのと、文句を言うのをなだめすかして連れてきたのである。歩かなくていい、馬に乗せるから、と。

 

 昨夜、吹きつける雪の中、悪戦苦闘しながら進んだ道のりは、今こうして青空の下、朝の光を浴びて馬で走るとあっと言う間だった。

 エミリオのまいた炭も、シャルダンの射た矢も。ダインの踏み荒らした地面も何もかも降り積もった雪に覆われ、あれほど激しかった戦いの痕跡はきれいに消えていた。

 かろうじて雪の上には、昨夜の魔物の残した染みがうっすらと残っていた。薬草師は注意深くその周りを歩き回り、黒い染みを検分した。

 

「恐らく、お前さんらが出くわしたのは氷屍魔って奴だろ。自分が凍え死にさせた死体で器を作って乗り移る、悪霊の一種だ」

 

 分厚く着込んだ冬着の胸元から、ひょこっとちびが顔を出す。鼻をひこひこさせながら周囲を見回し、ある一角をじっと見つめた。

 

「……そこか。おい、ダイン」

 

 くいっと顎で指し示し、一言。


「ここ、掘れ」

「わかった」

「そーっとだぞ。そーっとな」


 言われた場所にダインは素直に膝をつき、両手でわっし、わっしと雪をかきわける。ほどなく。


「あ」

「見つけたか」


 雪の下には、小さな石碑があった。


「もう20年も前の話だ。旅の親子連れが道に迷って、ようやく町にたどり着いた頃にはもう、城門は閉まっていた。その頃は通用口にはまってたのは分厚い鋼鉄の扉でな。のぞき窓もノッカーもない。叩いても、叫んでも中には聞こえなかったんだ」


 ゆるりと歩を進め、フロウはさりげなく大柄な騎士に近づき身を寄せて……ちゃっかり風避けにした。


「やむなく、親子は引き返して森で雪をしのごうとした。吹きっさらしの野っ原よりはマシだと思ったんだろう。だが運悪く、この場所で魔物に襲われて……」


 掘り出された石碑には、死者を悼む詩句と四人分の名前が刻まれていた。夫婦と、そしてその娘と息子。


「見つかった時は四人で抱き合ったまんま、ガチガチに凍りついてたよ。ちょうど、昨日みたいな吹雪の夜だった」


 フロウは眩しげに目を細めて雪原の彼方を見やった。


「魂になってからも捕らえられ、人間を誘い出す役をやらされてたんだろうよ。それからだ。あの扉が木に換えられ、打戸金ノッカーが取り付けられたのは、さ」


 ダインとシャルダンがぽつりと呟く。


「打ち鳴らされし時は、一命に換えても開けるべし」

「何人たりとも拒むなかれ……」

「今度は間に合ったってことさね」


『今度は聞いてくれたんだね』


 光の中に消える間際の、少年の言葉が蘇る。

 感慨に浸る間もなく、へぷしっと誰かが派手にクシャミをした。

 くっくっと笑いながら、フロウはダインを振り返った。


「ほい、お大事に」

「俺じゃないぞ?」

「え?」

「私でもないです」


 三人の視線が、向けられる先には……真っ赤になった鼻をぐしぐしとこする、エミリオの姿があった。


「お大事に」

「……ありがとう」


(氷雪の檻と白銀の騎士/了)

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