失敗からの成長。
トントンと包丁を落とす。キャベツは切られていく。
わりかし順調だったのだが、指を切ってしまった。あっ、と思った瞬間――血が先端から滲み出る。こんな失敗、何年ぶりだろう……
「指、切ったのか?」
「はい……すみません」
副料理長は晶の肩を叩き励ましてくれる。それに対して晶は頭を軽く下げた。
「消毒してこい」
「分かりました」
厨房から出て、屋敷へと戻る。そこで、消毒液と絆創膏はどこだろう、と探すが広い屋敷のなかでそれは困難だった。なら、ただいま夏休み謳歌中の五姉妹の誰かに訊ねよう。
廊下を歩いていると、ベースの音が聞こえた。楽器練習中の希美はやめておこう。
すると、ちょうどいい時に梨丘が部屋から出てくる瞬間に出くわした。
「おっ、梨丘」
「なに?」
「絆創膏どこだ?」
「指切ったんだね。救急箱はリビングの本棚の中だよ」
梨丘の後ろに続く。リビングに入ると、彼女が救急箱を取り出す。
「やってあげる。ソファに座ってて」
「ありがとう」
彼女はキッチンで手を洗い、タオルできちんとぬぐってから、ソファに座っている晶の許へと来る。そして彼の前で座り、指に消毒液を垂らし馴染ませてから、そこから絆創膏を回す。
「これでよし」
「助かる」
晶は梨丘に別れを告げて、厨房へと戻った。
副料理長にまた頭を下げる。
それほど晶は自身の行いを恥じていたのだ。
「申し訳ありませんでした」
「大丈夫だ。――ほら、早くもう一度始めろ」
「はい」
包丁を洗い、さっさと行動する。
ザクザクザク。包丁を素早く落として切っていく。
けっこう慣れてきたかな。
そして、この繰り返しの日々も終わる――
そこから更に二週間後。
朝早く。千切りを再開しようとしたとき、副料理長からもうそれをやめてもいいと言われる。
「次は出汁巻きの練習だ。いいか、難しいとは思うがこれも大切なことだ」
「分かりました」
出汁巻きはかなりの高難易度だ。徹底した火加減調節が求められるものであるから。
「千切りの時の感覚が生きるからな」
再び告げられた。晶は軽くうなずく。
まず初めに、卵液を作るボウルに卵を割り入れ、白身を切るように箸を左右に直線的に動かして溶く。そのあと、卵液をザルで一度こせば、仕上がりの口当たりが驚くほどなめらかになる。 一回目を焼く。卵焼き器を中火でしっかり熱し、油を薄く引く。卵液を少し流し込み、全体に広げ、大きな泡が出たら箸で潰す。
二回目以降を繰り返す空いた手前スペースと、奥の卵の下にも行き渡るように油を塗り直す。再び卵液を流し込み、奥にある卵を箸で少し持ち上げ、その下にも卵液を流し込む。半熟になったら、奥の卵を芯にするようにして手前に巻いていく。これをあと二回繰り返す。
形を整えて余熱で仕上げる。焼き上がったらすぐに火を止め、温かいうちに巻き返す。そのまま数分置いておき、皿に盛りつけ完成。
持っている知識を最大限活用した。




