学んだ経験。
だがしかし――
副料理長は口に入れた瞬間に険しい表情になる。
「出汁が多いせいで全体的に緩い。そこらへんは火加減で調節しないといけないのに何しているんだ」
「……すみません」
「いいか、次は失敗するなよ。材料だってタダじゃねぇんだ」
「――はい」
副料理長から厳しい言葉が投げられる。鼓動が早まり、冷や汗をかく。きっといま、晶の表情は強張っていることだろう。
考えろ。考えろ。考えろ。
きっとこれは、副料理長からの提案なのだ。ひとつの料理にたいして徹底機に考えろ、と。
卵に手を伸ばし、割ってボウルに入れた黄身の、笊でこす回数を増やす。三回ほどそれをすれば、出汁を多めに入れること――なめらかにさせる役割の負担の大部分を担ってくれるはずだ。別のボウルに滝のように流しいれた黄身。そこでは笊の格子により泡立っている。なめらかになっている証拠である。
次に調味料を入れる工程だが、出汁を少なくしたぶんを補うために、みりんを加え、甘さを出す。そうすることで口当たりが良い出汁巻きが出来上がる。
とことん――いや待てよ。そもそも、あの人が言った「千切りの時の感覚が生きるからな」とは、なにを指していたのだろうか。
考えるも、理由は見つからない。
どうすればいいのか。なにが正解なのか。理由はぜったいにあるはずではないのか。思考を繰り返すも、その答えは――見つからない。なにかあるはずなのに。
手がとまった、その瞬間に視界のはしで大塚をとらえる。
「――場を活かす事が、廻り廻って料理を活かす事になる」
大塚の言葉を思い出した。
もしかして……
晶は厨房にある湿度計を見る。
「さっき緩かったのは湿度が多かったからじゃあ」
おかしいと思った。実家の定食屋ではあの分量できちんと作れていたのに。
そうか。分かったぞ。関東と関西では湿度が大きく異なる。その場所やコンデションに合わせて作ることが大事で、それが頭を使いということでは。
湿度が先ほどよりも少しメモリが下がっている。湿度が減ったというわけか。
晶は窓に視線を移す。朝焼けから徐々に陽光が射し込みつつある。太陽が昇ったということは、それほど空気中の水分が蒸発したというわけだ。
ということで、みりんの水分量をほんの2・5ミリリットルほど多めにいれた。
すべて根底から考えを変えろ。晶はそう強く思う。
そして焼き上がり、副料理長に食べてもらうと、
「よし。合格だ。よく気付いたな」
「はい。ありがとうございます!」
嬉しくて、すごく嬉しくて。晶は表情がゆるむ。
「次からは率先して料理場に立て。菊の花の仕込みは続けつつ、店での調理に入れ」
「分かりました」
認められた。そう思うと晶は少し涙ぐんだ。




