体験良し
やはり無邪気な娘だな。
にひひと笑う純真無垢な様子は、晶のなかには無い陽の部分を体現しているようで。
とても眩しかった……
陽菜は小さめのリュックを背負い、ぴょこぴょこと寝癖を揺らす。
「髪型は直さなくてもいいのか?」
「え? なに?」
「……いや。行こうか」
鴨川へと目指していく。閑々照りのアスファルトを踏みながら。
「店での仕事は大変?」
少し、舌足らずな声で言われる。
晶は脳裏で記憶を巡らせながら、
「ほんのちょっと仕事にも慣れてきた」
「そっか。私には到底できない仕事だもん。なんか、料理人ってストイックな感じやし」
「言うほどストイックではないぞ」
「そうかな? 自覚がないだけじゃない?」
陽菜のことを見る。……素直に、この子の言うことを認めるべきだな。
経験の記憶を、巡り巡らす。実家の定食屋でも、ここ料亭での修行でも、自己研鑽に妥協はしなかった。そのことがとても重要だと理解していたから。
「……そう言ってもらえると光栄だな」
「うんっ! どういたしまして!」
鴨川に到着する。川辺では少しの涼みを感じることが出来た。肌にひゅるりと風が当たり、水の波打ち。それらすべてが涼流であった。
納涼床は基本、料亭・旅館の群衆。そのひとつへと目指す。
料亭「浜内」に入る。出汁巻きの匂いが暖簾越しに香ったからだ。これはひとつの考え方だが、出汁巻きが美味い店に、外れ無し。
店で蕎麦と出汁巻きを頼んだ。陽菜も同様に。注文した品が届き、まずは蕎麦をずずっと啜る。驚く。鼻から抜ける爽やかな風味。これは予想だが、石臼で挽いたものだろう。良いものを食べられた。今度は出汁巻きを口に入れる。甘いし、なおかつ蕎麦のときに感じられた出汁と同じだろう。統一感があって尚良し。
仄暗くなってライトアップされる。
「良い雰囲気だね」
「あぁ。来れて良かったな」
「 うん!」
光に反射する鴨川。
すべてが良い体験だった。




