初の休日
「じゃあ大貧民」
「ルールが変わっただけだ、それ」
「遊びたい遊びたい!」
昔、テレビで見たバカ殿の(バカ)姫みたいな駄々のこね方をする陽菜。
勘弁してくれ、と思ったが……
「なら休日に埋め合わせをさせてくれ」
たしかこの子は末っ子だ。場山女将からも存分に甘やかされたのだろう。
「分かった!」
にんまりと陽菜は笑う。
不思議と嫌悪感はない。無邪気な娘だ。
仕込みのため、厨房に入る。
まだあまり人はいなかった。
「おはようございます」
だが、あの嫌味な奴が真剣な顔で全員分の包丁を研いでいた。
晶に気付いたそいつは舌打ちし、
「お前か」
とぼやく。
「なにをされているんですか?」
「見て分からないか? 研いでるんだよ」
「そうではなく……」
「気付いてなかったか。誰かが誰かのために行動するのも料理人としてのプライドだ。場を活かす事が、廻り廻って料理を活かす事になるからだ」
「…………」
そいつは鼻をすする。
「臭いセリフだったのは分かるが、そんな顔をするなよ」
「すみません……」
晶はそいつに少し近付き、
「あの……名前聞いてなかったですよね。教えてもらっても?」
「大塚高尾だ。――やっと、名前を尋ねる基準になったのは素直に喜べぇな。とっとと聞いておけや」
「そうですよね…………俺もなにか出来ることはありますか」
大塚から睨まれる。
「仕事は自分で見つけるもんだ」
それはその通りだ。
晶はまた菊の花の仕込みに入る。
副料理長が現場に現れた。晶のことを見遣るなり、
「おっ、率先してするようになったか。頑張れよ」
視野を広く持ち、それをしながら次の仕事を探す。
ひとつひとつ、着実に仕事を覚えているのを、肌で感じる。
ようやく、楽しさも分かるようになってきた。
自分のペースで。かつ、ハングリーに。
それから、仕事が終わり夜九時。
場山女将が自室に尋ねられた。
「あんた、明日は休みな」
「えっ、たしか営業日でしたよね?」
女将はニコリと愛嬌与える笑顔を見せて、
「疲れもたまっているだろうから。とことん休みな。休むことも仕事のうちだよ」
「ありがとうございます」
「――陽菜をかまってやりな」
……あいつが絡んでいたか。
翌朝。
晶は陽菜の部屋を尋ねていた。幾分抵抗もあったが……
「今の時期だったら、納涼床に行こうよ!」
「……鴨川デルタのあそこか」
「うんっ。きっと楽しぃよ!」




