襟を正す
「料理を教えてほしいんだよね」
驚いてしまった。なにを言い出すのかと思えば。しかし――
「俺よりも女将さんに聞けばいいだろ? そっちの方が確実だ」
梨丘は首を振る。
「教えてくれないの。理由は分からない……」
「女将さんもなにか考えてくれているのかもしれない。それが嫌なら、自分で選択する道を信じるしかないよ。他人になにかを期待するのはやめておいた方がいい」
「……」
晶はハッとして、すぐに謝る。
「説教臭くなったよな」
「いや、その通りだなって思ったよ。嫌味とかじゃなくてね」
彼女は自室へと戻ろうと階段を登ろうとしたが、足が止まる。
「自分の選択なら、あなたに料理を教えてもらえる時は来るのかな?」
「どうしてそこまで? ――いや、そうだな。君の選択を最大限尊重するよ」
「ありがとう」
そう、柔らかく言われた。
営業後の片付けも一段落したころ、昼間の梨丘の件を場山女将に訊ねてみる。
「あの……」
「どうした?」
「梨丘さんからお願いされまして……」
「ええ」
「その、料理を教えてほしい、と」
神妙な顔つきになる、女将。
「そう……あの娘があんたに頼んだのね」
「なにか考えがあるんですか?」
「そうだね。あるよ」
物言わせぬ目付きをする。
晶は頭を軽く下げ、去っていく。
「少し考えなくちゃな」
屋敷に帰る道中にそんなことをぼやいてしまう。
……優し過ぎるだろうか。
瞼を開ける。
今日は――鳥のさえずりは聞こえない。
という事は……ちゃんと起きれたか。
晶は布団から出て、洗面所へと向かう。
顔を洗い、冷たすぎるひんやりとした水を感じる。
それから自室へとまた戻り、割烹着に着替えた。
襟を正す。
どんっ。
「早起きしちゃった! なにしてるの?」
晶は声のした方を見る。
そこにはもう一台のアレクサ――いや、
「陽菜……さんか」
「うん。早起きしたから部屋に寄ってみた」
寝癖がぴょこぴょこしている。ちょっと可愛い。
「遊ぼうよ」
「すまない。今から仕事なんだ」
「五分くらい、いいでしょ」
「どうしようかな……ちなみになにして遊ぶんだ?」
「大富豪」
「五分で終わらないだろ」




