お代わり。
「ふぅ。疲れた……」
自室の壁に沿って腰掛け、キャップを開けたペットボトルを飲む。
仕込みに三時間ほどかかり、現在七時。しかし二時間後には営業開始時刻だ。
地獄だ……
すると扉が小刻みに震える。ノックされたのだ。
「はい」
出迎えに行ける体力は残っていない。
扉が開く。立っていたのは青髪の少女、確か名前は――
「朝食、持ってきた」
お盆に茶椀とお椀、秋刀魚、沢庵が乗っている。
「ありがとう……」
「一応聞くけど、私の名前、覚えてる?」
「えっと……はは。あっ、美人の子で、名前は智菜さん」
そうだった、そうだった。美人の子だ。
その子は困り眉をして、「間違っているって言いにくい……」とか言いだす。
そのお盆をテーブルの上に乗せて、
「じゃあゆっくり食べて」
「いただくよ」
去っていく後ろ背を見終えてから、ふと息を吐く。
沢庵に手を伸ばし口に入れる。ポリポリと音を立てながら咀嚼する。
「うまいなぁ。この沢庵」
次は味噌汁を啜る。どうやらこの味噌汁は茄子らしい。
茄子のほのかな甘みと青臭さが咀嚼するたびに口全体に広がる、
「これもうまい。秋刀魚や茄子。やっぱり夏の特産物だな」
夢中で食べているとあっという間に無くなった。
「お代わりしたいな……」
「持ってきた」
「え⁉」
また、智菜が同じメニューが乗ったお盆を持って扉の外に立っている。
「さっき通りかかったら物凄くがっついていたから」
「お恥ずかしい……」
空になった茶碗らと今度は大盛の飯を交換してくれる。
しかも秋刀魚は二尾だ。嬉しい……
「ご飯、おいしい?」
「うん」
「そっか……」
どことなく悲しそうな顔をしている。そんな表情は、美人だから余計際立った。
「食事、辛いのか?」
「うん。料亭の娘としてはあるまじきことなんだけど……軽い拒食症みたいなもので」
「分かった。いつか、俺がここで腕を磨いて食べやすい料理を作ってやる」
「……どうして? どうしてそこまでしてくれるの?」
晶は親指を立てて言ってやった。
「お代わり持ってきてくれたお礼だよ」
智菜は目を見開き、それから笑顔を見せた。
営業開始時刻。仕込みと似たような作業――料理の下ごしらえを延々と行った。
疲れる。腰死ぬ。
「団体客の予約時刻まであと三十分だぞ。急げ、急げ!」
伊勢海老の仕込みをしていた料理人にぶつかられ、舌打ちされる。
「邪魔」
「すいません」
もう嫌だ。やめたい。
こうした地獄の修練が夜九時の営業終了まで続いた。
「全身筋肉痛だ……痛ぇ」
部屋で寝転がりながら筋肉をもみほぐしていく。
あといつまで続くのだろうか……
「お体……マッサージしましょうか?」
「あ?」
金髪少女……希来里が微笑みながら近づいてくる。
「いや……結構だ」
「そう言わず。硬くなっているでしょ」




