鴨川、それから朝の地獄の仕込みへ。
「ここがあなたの部屋」
梨丘に料亭や、その近所にある屋敷を案内される。晶はメモを取りながら梨丘の言う事を聞いていると、
「なんか、あなたって律儀だね」
なんて褒められた。
「ありがとう」
少し前屈みになってからこちらを窺ってくる。
「面白い。女将も気に入りそう」
「どうだか……俺、あの人ちょっと怖いよ」
そうしたらくすり、と笑ってきた。
「半分当たっているかもね」
「ん?」
「夕飯が出来たら呼ぶから。どこか観光にでも行って来たら? 明日からはそんな余裕無いんだから」
「そうだな。そうするよ」
晶は自室だと言われた部屋に荷物を片付け、それからスマホで観光案内を検索する。
「鴨川でも見に行くか。ここから近いし」
部屋から出て外に出た。
都会の喧騒とは打って変わって空気がうまい。そのためか、緊張感が少し抜けた。
鴨川に向かうまでの祇園道中にて、舞子さんが歩いているのを見かけた。
そして、空気が湿っぽくなってくる。
「――あれが、鴨川か……」
近くには納涼床が並び、あそこに見えるのは鴨川デルタか。四季折々で様変わりする様子はまるで脱皮を繰り返す蛇のごとく。蛇は自然信仰にルーツを持ち、水神や農耕神として『神聖な存在』として認知されてきた。
「綺麗だな……」
少し日も暮れてきて、水の表面が紅く染まる。
「梨丘も呼べばよかったのに」
「……え?」
唐突に梨丘の名を呼ばれた。その声のした方を見ると女子高生が四人、大判焼きを食べながら喋っていたのだ。
――梨丘の友人か?
晶は何の気もないけれど、屋敷に引き返すことにした。
部屋でゆっくりしているとノックが鳴った。
扉を開けると、そこには女子高生が五人、並んでいた。そこには梨丘もいる。
「美人局?」
「……誉め言葉として受け取っておくよ」
青髪が肩ぐらいまで延ばされた美人がそう言った。
「私たち姉妹を紹介するよ」
「し、姉妹?」
びっくり、仰天ニュースだ。
「この青髪の子が智菜。美人でしょ」
梨丘の言葉に素直に頷いておく。
「で、この金髪ギャルが希来里。キラキラ女の子で覚えとけばいいから」
「人を蛍みたいに言うな」
「そしてこの二人は双子。希美と陽菜。名前を呼べば勝手に反応して、判別がつくから」
「私たちをアレクサみたいに言うなって」
「というのが私たち――美人五姉妹です」
晶は少し笑ってしまった。
きょとん、としている五人組。
朝、三時半。
晶はひたすら厨房で菊の花を作っていた。
「あとその作業三時間続けろ」
「はい」
現場を指揮する料理長にそう指示され、従った。
何個も、何個も作る。
これもすべて、実家の定食屋のため。頑張るしかない。




