恐怖心
診断の結果、過労であった。
二週間の休暇を取れと医者から言われ、悔しいが……素直に応じることになり、その間、暇を持て余していた晶だったが、五姉妹のお見舞いで気持ちがほころびる。
あるときにはなぜか――
「はいどーもー」
「……」
希美と梨丘が手を叩きながら自室に入ってくる。
つい、呆然としてしまう、晶。
「まいどおおきに。セブンティーンシスターズでーす」
「……」
「――え、えっと……ちょっと、晶さんの反応悪くない?」
「知らないって! そんなの。ほら、突っ走るわよ」
そんな彼女らのやり取りを黙って見守る。
「最近、腰の調子が悪くてねぇ」
「ほうほう。それで?」
「七十歳になれば年齢には抗えないねぇ」
「セブンティンかよ。英語の表現間違ってるわ」
「目指せ、百歳ってね」
「金さん銀さん目指す気か」
希美のボケに、梨丘がツッコむ。
「……」
晶は黙り続ける。
そうすると、梨丘の目の色が変わった。
「あんたは冷笑系か!」
「いや……つい。物珍しくてさ」
「この冷笑男め。深夜に化けて出やろうか」
「いや、やめてくれ……ふっ」
「本当に冷笑し始めたよ」
「まじでやばっ」
「頼む。そこら辺でやめてくれないか。歳の近い女子高生からの悪口は普通に効く」
すると、ふたりは少しはにかみ、
「どう? 良い余興になったでしょ?」
「ああ。ありがとう」
彼女たちはもう満足したのか、恥ずかしかったーとつぶやきながら去っていく。
「あの子たちもあの子たちなりに、俺のことを考えてくれているんだな」
そう晶は思うと、胸がじんわりと温かくなる。
こうした日々を積み重ねながら二週間後。
朝三時半にスマホのアラーム音で目が覚める。さっと起き上がり、洗面所へと向かう。そこで顔を何度も洗い、弱った根性を叩き直す。目覚めろ。目覚めろ。
鏡の前の自身の姿を見つめながら、顔を覗かす恐怖心と戦う。
「俺ならやれる。やってみせる」
努力ならいままでもさんざんやってきたじゃないか。それを、その経験を忘れてはいけない。
徹底的に考えろ。考えて得たことはきっと無駄じゃない。
枯渇されぬく現状に歯止めを効かせるため、思索を凝らさなければならない。
エプロンに着替え、よしとつぶやき気合を入れる。
屋敷から出て、料亭へと向かう道中にも料理長への懐疑心が生まれてしまう。
あいつは信じても大丈夫なのか。信じてもいいのか。
「あいつがいなくなって、済々したよ」
「こんなコロナで大変な状況で、なにが修行だって話ですよ。周りの状況を見ろよな」
そんな晶への陰口が厨房の方から聞こえてくる。
汗をかいてしまう。怖い。怖すぎる。
その場でしゃがみこんでしまった。
「母さん……父さん」
涙が流れそうになるのをぐっとこらえる。涙は、もう流したくない。
立ち上がり、厨房へと行く。




