11.感動の再会と名付けるには
一年間、魔法ばかりを研究した。元々、魔法にちっとも興味がなかったわけではないので、知れば知るほど面白くて、アリアの好奇心はくすぐられ、気づけば寮の自室の机には二十冊もの魔法についての本が積み重なっていた。
アリアが主に勉強したのは魔法の歴史、性質。理念をより詳しく、そして現在使われている魔法のほぼ全てを習得した。学院で行われたテストではもちろん一位の成績を残したし、実技試験でも実習でもアリアはみんなの手本となる位置についていた。
王宮の研究室にも出入りしていて、そこでノクティス先輩に教えてもらうこともしばしば。あの研究室は、二、三人がちょうどいいくらいの広さをしてて、壁は一面本棚だったり、壁に沿って机が置かれていたり、なんとも過ごしやすい部屋だった。稀に第一王子が自ら訪問されることもあって、最初は驚いたけど、今ではもうなれた光景だ。
「アリア、大丈夫。君ならできる」
試験当日の朝。研究室から繋がる仮眠室で目を覚ました。そのまま支度をして、王宮の大講堂で行われる学力試験に向かう。その後、昼食をとり、外に出て実技試験。全ての試験が終わるまで先輩に会うことはできない。
「ありがとうございます。先輩に教えてもらった分、全部発揮してきます!」
昨日の夜寝る前にはあった緊張が、今はもうない。
先輩に挨拶をして、部屋を出た。
アリアは先輩の二学年下で、今回の宮廷魔法師試験を受ける中ではおそらく最年少だ。基本的にこの試験を受けられるのは王立学院で推薦をもらった生徒であるため、ほとんどが最終学年である。所謂、進路決定の場だ。しかし、アリアが卒業するにはもう一年学院に在籍する必要があるのだが、今日の試験に合格すれば、その必要もなくなる。
これから先輩と二人で禁域に行くことになり、もちろん学院に通うことはない。それに、宮廷魔法師になれば、将来も安泰だ。
試験会場を見渡すが、どこにも女生徒の姿がない。
宮廷魔法師の危なさが理由だろうか。大きな戦争が起これば駆り出されることは間違いない。その場合生きて帰ることができるかわからないし、負けた時に非難されるのも国と国に仕える者たちであるから。
黙々と問題を解き進めて行く。もっと恐ろしく難しいものを想像していたが、意外とそうでもなかった。特に、アリアの場合は魔法文字と共に出題されることが多い古代文字で詰まるところがない。先輩の卒業論文で古代文字で書かれた本を何冊も読み込んだから。
スラスラと解けていくテストが気持ちよくすらあった。
「やめ!ペンを置きなさい」
試験官の合図で皆が回答をやめる。回答用紙を回収され、試験官が講堂を出ると、そこら中でため息が聞こえる。長い試験時間だったこともあって疲れているのだろう。アリアもそれは同じだった。半ば興奮状態で問題を解き進めていたが、今終わってみると、体がどっと疲れている。このまま実技試験に向かうわけにはいかないので、とっととお昼ご飯を食べることにしよう。
アリアが宮廷魔法師を目指すこの一年間、先輩は様々なことを勉強している。その一環で料理も軽くやっているらしく、アリアの毎日のお弁当は先輩の手作りだった。最初こそお肉が焦げていたり、果物の切り方が下手だったりしたが、今では見た目も綺麗で味も最高な料理が作られるようになっている。
研究室で朝食や夜食を摂る時も、もちろん先輩の手作りだ。今まで本当に食に興味がなかった先輩が、自分で料理をしてご飯を食べるようになった。作っていくうちに料理にも興味が出たらしく、今では多くて一日三食、少なくても一日二食は食べてくれている。先輩の体が心配だったアリアは料理を先輩に勧めてくれた王子さまに感謝してもしきれない。
「美味しい……」
先輩の作ってくれたサンドウィッチを頬張る。卵がとろとろで野菜の苦味もない。調味料の味付けが最高だ。
「ねえ、君一人なの?」
後ろから声がした。驚いて振り向くと、真っ赤な髪に翡翠の目をした青年が立っていた。
「ごめん、驚かせちゃった?」
驚いたのは見てわかる通り。けれど大体こういったシーンで「はい、驚きました」なんて馬鹿正直に言うことそうそうないと思ったので、首を横に振っておいた。別に驚いてないですよ。ちょっとびっくりしたかもしれないだけなんで。ええ。
「よかった!みんな集まってんのに君一人でさ〜俺も一人だったからつい声かけちゃった!」
明るくて元気な人だ。アリアはサンドウィッチに夢中で、みんなが固まっていることすら知らなかったのに。
「俺、アレクサンドラ・セトルーカス!」
セトルーカスのアレクサンドラ……どこかで聞いた覚えがある。セトルーカスって確か、侯爵だっけか。
「アレクって呼んでくれよな」
アレク、アレク、アレク……………
「ああ!思い出した!」
「えっ?」
急に大きな声をだしたアリアに、今度はアレクが驚いている。
「アレク、こんなに大きくなったのね!あなた、小さい頃のお茶会で会ったよね。確か10年くらいの時の建国祭の、ほら、木に登った猫を助けようとして川に落ちた!」
「10年前の建国祭…………お前もしかしてアリア!?」
「そうだよ!アリア・グローネス!久しぶりねアレク!」
感動の再会、と名づけるには驚きばかりだが、久しぶりに会った彼を見て感心する。あの頃は自分より小さかったアレクが、こんなに大きくなって。それも宮廷魔法師なんて……
「宮廷魔法師!?アレクが!?」
あのバカアレクが!?アレクといえば、バカで、アホで、先のことを考えず突き進む人だ。そんなアレクが、この難しい宮廷魔法師試験を受けただなんて。
「お前だって。ドラゴンにしか興味なかったんじゃねーのかよ?」
「色々あって仕方なくよ。今だってドラゴンの研究を進めているし、宮廷魔法師はそれを続ける手段というか」
「まあお前にも色々事情があるのか」
「そういうアレクこそ、宮廷魔法師なんてどうして?」
「だってついにあのレイブンシェイドから宮廷魔法師が出たんだぜ?そりゃあ一緒に仕事してみたいって思うよ」
(ん?あのレイブンシェイドから宮廷魔法師……って、一人しかいないよね?)
「アレク、その人の名前って」
「お前知らねーの?ノクティス・レイブンシェイドだよ」
アリアの隣に腰を下ろしたアレクは、アリアが持っていた入れ物から綺麗な形のサンドウィッチをとっていく。
あなたが今口にしたサンドウィッチを作ったのもそのノクティス・レイブンシェイドなんですけど……。面倒くさいことになるだろうし、言わないでおこう。
「アレクってノクティス様と面識あったの?」
「いいや?でもレイブンシェイドって言ったら宰相とか外交官とかじゃん?」
確かに、第一王子にもレイブンシェイドの自覚がないと言われるくらいには、ノクティス先輩はその道を辿っていない。面倒ごとを嫌う割には、敷かれたレールではなく自分の道を進むタイプの人だ。
「つまり、今代の宮廷魔法師は色々有名になったり歴史書に残ったりする可能性あんじゃん?やっぱそこに俺がいるって面白そうだし」
変わった動機に呆れもするが、それでここまでこじつけたアレクの実力は凄まじい物なのだろう。
実技試験が楽しみだ。




