第五十話(前編) : スイーツ祭り、開幕
いよいよ。
スイーツ祭りが始まります。
エリックたちが作った。
練り切り。
果たして。
グルメアの人々に受け入れてもらえるのでしょうか。
今回も楽しんでいただければ嬉しいです。
「……できた」
煮終わった材料が。
作業台に並べられた。
エリックは。
一つ目の材料を。
裏ごし器に入れる。
「……」
なめらかになるまで。
丁寧に裏ごしする。
そして。
少しだけ口に入れる。
「……渋い」
「駄目か?」
ナタルが。
覗き込む。
「うん」
エリックは。
首を横に振った。
「次」
二つ目。
同じように。
裏ごしする。
味を見る。
「……えぐみが強い」
「これも駄目か」
「駄目」
三つ目。
「……繊維が多い」
「これも?」
「うん」
エリックは。
次の材料へ手を伸ばす。
それを見て。
エリシアが。
少し不安そうに尋ねる。
「全部、駄目なのでしょうか?」
「まだある」
エリックが。
最後の材料を見る。
「……かぼちゃ」
白いかぼちゃ。
「これは、期待できるかも」
「本当ですか!」
エリシアの顔が。
ぱっと明るくなる。
レイナが。
かぼちゃを手に取る。
「切ってみる」
包丁を入れる。
ぱかっ。
「…………」
中から。
鮮やかな黄色が現れた。
「黄色い」
エリックが。
呟く。
「……駄目だ」
「ですよね」
エリシアが。
小さく肩を落とした。
ミーナとルチアも。
かぼちゃを覗き込む。
「白かったのに」
「中まで白いと思いました……」
ナタルが。
苦笑する。
「そんな都合のいい野菜、そうそうないだろ」
「……そうだな」
エリックは。
作業台に並んだ材料を見る。
「でも」
一つずつ。
手に取っていく。
「使えないとは限らない」
「……?」
エリシアが。
顔を上げる。
エリックは。
材料を見ながら。
静かに考えていた。
「黄色い」
エリックが。
かぼちゃの断面を見る。
「……駄目だ」
「どうしてですか?」
エリシアが。
不思議そうに尋ねる。
「練り切りは」
エリックが。
かぼちゃを見ながら。
「表面の色と、中のあんの色が大事なんだ」
「……色が?」
「うん」
「黄色いあんだと」
エリックが。
少し考える。
「表面に付ける色と喧嘩する」
「喧嘩……?」
エリシアが。
首を傾げる。
「見た目が、まとまらなくなる」
「なるほど……」
エリシアが。
小さく頷く。
「だから、駄目なんですね」
「うん」
エリックが。
かぼちゃを置く。
「……駄目だ」
「…………」
みんなが。
作業台を見る。
白い豆。
芋。
とうもろこし。
そして。
黄色いかぼちゃ。
「他には……」
エリシアが。
呟く。
「朝市には、もうありませんでしたね」
「そうですね」
ミーナが。
頷く。
「どうしますか?」
ルチアが。
困ったように尋ねる。
その時。
「なんじゃ」
店の入口から。
ボルグの声がした。
「みんなして、えらく渋い顔をしておるのう」
「ボルグ!」
エリシアが。
振り返る。
ボルグは。
大事そうに。
一つの箱を抱えていた。
その隣には。
黒文字が入った包み。
「……何を持ってきたんだ?」
エリックが。
尋ねる。
「これか?」
ボルグが。
箱を軽く持ち上げる。
「頼まれておった物じゃ」
「そうか」
エリックが。
頷く。
ボルグは。
作業台に箱を置く。
そして。
みんなの顔を見る。
「で?」
「何をそんなに落ち込んでおる?」
「実は……」
エリシアが。
事情を説明する。
ボルグは。
腕を組みながら聞いていた。
そして。
ナタルを見る。
「店主」
「ん?」
「何か無いか?」
「白あんの代わりになる物か?」
「そうじゃ」
ナタルは。
少し黙った。
「……実は」
「あるにはある」
「本当ですか!」
エリシアが。
身を乗り出す。
ナタルは。
少し困った顔をした。
「ただな……」
「ちょっと変わった物なんだ」
「変わった物?」
エリシアが。
首を傾げる。
「……芋だ」
「芋?」
エリックが。
反応する。
「ああ」
ナタルが。
小さく頷く。
「シロズダ芋っていう」
「この辺りじゃ、どこにでも生えてる」
「じゃあ、食べるんですか?」
ミーナが。
尋ねる。
「いや」
ナタルは。
首を横に振る。
「誰も食べない」
「……?」
「放っておいても増えるからな」
「畑を荒らすわけじゃないが、そこら中に生えてくる」
ルチアが。
不思議そうに尋ねる。
「なのに、食べないんですか?」
「昔は食べてた」
ナタルが。
少し遠くを見る。
「貧乏だった頃はな」
「食べる物がなくて……」
「仕方なく、それを食べてた」
「…………」
みんなが。
黙る。
「だから今じゃ」
ナタルは。
苦笑する。
「わざわざ食べたい奴なんていない」
エリックは。
しばらく黙っていた。
「……その芋」
「どこにある?」
ナタルが。
目を丸くする。
「食べてみるのか?」
「うん」
エリックは。
頷いた。
「使えるかもしれないだろ」
「……そうか」
ナタルが。
少し笑う。
「なら、店の裏に行こう」
「そこら中に生えてるからな」
「本当に?」
エリシアが。
驚く。
「本当だ」
ナタルは。
店の裏口を開ける。
「ほら」
外へ出る。
そこには。
地面から。
いくつもの葉が顔を出していた。
「……これ全部?」
エリシアが。
目を丸くする。
「シロズダ芋だ」
ナタルが。
指差す。
「好きなだけ持っていけ」
エリックは。
その芋を見つめる。
「……じゃあ」
「いくつか掘ってみよう」
見た目は。
白い。
少し痩せているようにも見える。
「問題は……」
エリックが。
芋を見る。
「煮て、裏ごし器にかけてどうなるかだな」
レイナが。
煮たシロズダ芋を。
エリックの前に置く。
「できた」
エリックは。
少しだけ取る。
口に入れる。
「……」
少し考える。
「ちょっとクセがある」
「やっぱり……」
エリシアたちの顔が。
少し曇る。
「駄目でしょうか?」
「いや」
エリックは。
首を横に振る。
「これぐらいなら問題ない」
そして。
立ち上がる。
「作るぞ」
「本当か?」
ナタルが。
驚いたように尋ねる。
「うん」
「そうと決まれば急ごう」
レイナが。
すぐに動き出す。
「ガレス、ロイド」
「悪いけど、もっと掘ってきてくれ」
「分かった」
「任せろ!」
二人が。
店の外へ走っていく。
「私は洗います」
レイナが。
芋を集める。
「エリシア様は、煮てください」
「分かりました!」
「ミーナ、ルチア」
エリックが。
二人を見る。
「裏ごし器にかけてくれ」
「頼めるか?」
「分かりました!」
「はい!」
しばらくして。
白い餡が。
鍋の中で。
ゆっくりとまとまっていく。
エリックは。
少しだけ取って。
口にする。
「……」
味を確かめる。
「……うん」
エリックは。
ナタルを見る。
「この味で作っていいか?」
「……」
ナタルは。
餡を一口。
口にする。
しばらく黙って。
味を確かめる。
「……ああ」
「これならいい」
エリックは。
小さく頷いた。
「分かった」
そして。
エリックはボルグの方を見る。
「下ごしらえが終わった物を、審査会場へ運んでくれ」
「任せておけ」
ボルグは。
箱を大事そうに抱えた。
「……では、行ってくるぞ」
ボルグが。
店を出る。
その先では――。
すでに。
スイーツ祭りの会場が。
大勢の人で賑わっていた。
ボルグが。
会場へ入る。
「……ほう」
思わず。
足を止める。
そこには。
色とりどりの菓子が。
並んでいた。
大きなケーキ。
何層にも重ねられたタルト。
宝石のように飾られた砂糖菓子。
フルーツをふんだんに使った菓子。
どれも。
見るだけで。
手間がかかっているのが分かる。
「……随分と豪華じゃのう」
ボルグは。
自分が抱えている箱を見る。
中身は。
まだ下ごしらえを終えただけの。
シロズダ芋の餡。
「…………」
そして。
もう一度。
会場を見渡す。
「こりゃあ……」
小さく。
苦笑する。
「エリックたちは、とんでもない勝負を始めたもんじゃな」
ボルグは。
箱を抱え直す。
そして。
審査用の場所へ向かって歩き出した。
審査会場。
参加者たちの。
調理台が並んでいる。
すでに。
あちこちで。
最後の仕上げが始まっていた。
エリックも。
自分の調理台に立つ。
「……よし」
練り切り生地を。
丁寧に練っていく。
そして。
色粉を。
ほんの少し。
指先で取る。
「……」
混ぜる。
まだ薄い。
もう一度。
ほんの少しだけ。
色粉を加える。
「……これぐらい」
エリックは。
生地を手に取る。
丸く。
丁寧に形を整えていく。
「トマト……?」
ナタルが。
横から覗き込む。
「うん」
赤い生地が。
少しずつ。
トマトの形になっていく。
続いて。
緑の生地を。
小さく伸ばす。
葉の形を整える。
そして。
パレットナイフを手に取った。
「……」
まるで。
絵を描くように。
葉脈を一本ずつ。
丁寧に描き入れていく。
「…………」
ナタルは。
黙って見ていた。
エリックは。
出来上がった葉を。
そっと。
トマトの上に乗せる。
「……できた」
エリックが。
小さく頷く。
「レイナの好物」
レイナが。
少しだけ目を見開く。
「……トマトか」
「うん」
エリックは。
完成したトマトを眺める。
「やっぱり、トマトは欠かせないな」
「……そうだな」
レイナの口元が。
ほんの少しだけ緩む。
エリックは。
次の生地を手に取った。
「次は……あの花だな」
今回は。
いよいよスイーツ祭りが開幕しました。
エリックたちも。
それぞれ準備を整えて。
祭りへ挑みます。
果たして。
練り切りは、どのような評価を受けるのでしょうか。
次回も楽しんでいただければ嬉しいです。
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