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第四十九話(前編) : 食の街、グルメア

予定外の寄り道で訪れた。


食の街、グルメア。


そこでは。


思いがけない出会いと、思わぬ出来事が待っていました。


今回も楽しんでいただければ嬉しいです。

「モメニア様」


侍女が。


小さく声をかける。


「エリシア様がお見えです」


「……!」


モメニアが。


振り返る。


「これは失礼いたしました」


モメニアは。


エリシアの前へ進み出る。


そして。


深く頭を下げた。


「第三王女、エリシア・ルミナス様」


「ようこそ、グルメアへお越しくださいました」


「お出迎えありがとうございます」


エリシアも。


小さく頭を下げる。


「こちらこそ、突然の訪問で申し訳ありません」


「とんでもございません」


モメニアが。


顔を上げる。


「遠いところをお越しいただき、ありがとうございます」


「それで――」


エリシアが。


ちらりと店主を見る。


「先ほどのお話ですが――」


「……?」


エリシアが。


店主へ一歩近づく。


「ちょっと、お手伝いしても?」


店主は不思議そうな顔をする


「ちょっと待ってください」

「嬉しいお言葉ですが、スイーツ祭りで優勝です」


「そう簡単にできるものでは……」


その時。


「ボス!」


ミーナの耳が。


ピーン。


「出番です!」


「ですね!」


ルチアの耳も。


ピーン。


「おい」


エリックが振り返る。


「ちょっと待て」


グイッ。


「押すな」


グイッ。


そのまま。


エリックは。


店主の前へ押し出された。


「うちのボスは!」


ミーナが。


胸を張る。


「スイーツ作りは世界一です!」


「ですね!」


「…………」


エリックが。


二人を見る。


「……見たことないだろ」


「…………」


「…………」


レイナが。


小声で。


「見たことないだろ」


「……はい」


「……ないです」


「多分、世界一です!」


「ですね!」


「多分?」


エリックが。


呆れた顔をする。


すると。


「ふふっ」


モメニアが。


小さく笑った。


「これは……頼もしい方が現れましたね」


そして。


エリシアを見る。


「……そういえば」


「まだ、きちんとご挨拶をしておりませんでした」


モメニアが。


エリシアへ向き直る。


「改めまして」


「第三王女、エリシア・ルミナス様」


「グルメアへようこそお越しくださいました」


夕暮れ。


領主の館。


エリックの部屋では。


エリシアやレイナ、ミーナ、ルチアとともに


明日のスイーツ祭りについて。


打ち合わせが続いていた。


「……もうこんな時間か」


エリックが。


外を見る。


「明日の今頃には、審査なんだよな?」


「はい!」


エリシアが。


元気よく頷く。


「時間がありませんね!」


「……そうだな」


エリックは。


少し考える。


そして。


紙を一枚取り出した。


「何を作るか決めるか」


「はい!」


エリックは。


紙の上に。


さらさらと線を描き始める。


「これとか」


「……?」


エリシアが。


紙を覗き込む。


そこには。


小さな花や。


動物の形をした菓子が描かれていた。


「これは……?」


「練り切り」


「……練り切り?」


「何それ?」


ミーナが。


首を傾げる。


「私も知らないです」


ルチアも。


首を傾げた。


「練り切りに必要なのは……」


エリックが。


指を折る。


「砂糖と」


「砂糖!」


エリシアが。


反応する。


「それから?」


「……白あん」


「……あんこ?」


エリシアが。


目を丸くする。


「そう」


エリックが。


頷く。


「鑑定さん」


『はい』


「白あんについて」


『白あんとは、白いんげん豆などを用いて作られる、上品な餡です』


「……上品な餡」


エリシアが。


小さく呟く。


「なるほど……」


エリックは。


「……あと色粉」


紙に必要なものを書き足していく。


「そうだ」


「……インゲンは?」


『現在、この地域で確認されていません』


「他に代用できるものは?」


『可能性のある食材はいくつかあります』


「使える?」


『可能性はあります』


『ですが――』


「……」


『白あんの代用品として使用できる可能性は、かなり低いです』


「そうか」


エリックが。


少し考える。


「……探すしかないな」


「では、今から探しに――」


「今日はもう遅い」


エリックが手元の紙から顔を上げ、窓の外を見る。


黒々と沈んだ街の向こうに、まばらな灯りしか見えない。


「店も閉まってる」


「……そうですね」


「明日の朝」


エリックがペンを机にコツリと置いた。


「朝市に行ってみるか」


「はい!」


ここで一旦、今日の作業は終了――となったところで、レイナがふと小さく息をついた。


「……その前に」


「ん?」


「腹、減らないか?」


「……そういえば」


エリックが自分の腹部に視線を落とした。


「すいた」


「よし」


エリックがゆっくりと立ち上がる。


「みんなを呼んで、美味しい店を探すか」


夜のとばりが降りた街へ出る。


昼間の喧騒とは打って変わり、あちこちから香ばしい匂い、甘いスパイスの匂い、ジュウジュウと脂が跳ねる焼いた肉の匂いがかき混ぜられるように立ち込めている。


「……!」


ミーナとルチアが、ピクリと同時に耳を立てた。


闇に紛れるざわめきの中から、美味しい店の噂や、今日一番の仕入れを自慢し合う声だけを綺麗に聞き分けていく。


「……あっち」


「うん」


「鶏肉が、やばいぐらい美味しいって」


「タレが凄いらしいです」


「エリシア様」


ルチアが。


くるりと振り返った。


「どうやら、あそこの路地裏にある鶏肉屋が一番美味しいと」


「では、そこへ行きましょう!」


案内されるがまま、年季の入った赤提灯の揺れる店へ滑り込む。


熱々の鉄板から立ち上る湯気と香りに、全員の喉が鳴った。


「美味しい……!」


ボルグが、大振りの鶏肉を豪快に頬張る。


「こりゃ旨いのう」


レイナも、串から外したばかりの一口をモグモグとやった。


「……ここに来てよかったな」


「美味しいな」


エリックも、手元の串を見つめながら小さく頷いた。


そんなエリックの横顔を見ながら、エリシアが小さく呟く。


「なるほど……。そういえば、エリックはさっきから練り切りのこともやたらと詳しかったですよね」


「うん」


「どこで覚えたのです?」


エリシアが、不思議そうに尋ねる。


すると。


エリシアの横にいたレイナが。


口を開いた。


「もしかして……またバイトか?」


「うん」


エリックが。


あっさり頷く。


「バイト」


「……。」


レイナが。


エリックを見る。


「お前、いったい何個バイトしたんだ?」


「いっぱい」


「いっぱいって……」


エリックは。


少し考える。


「何故か毎回、社員にならないかって言われるから」


「……ほう」


「断るの面倒になって」


「……。」


「違うアルバイト探してた」


「いや、それはそれでどういう働き方なんだ……」


全員が「あ、こいつはダメだ」という顔をした。


それから、ほどなくして赤提灯の店をあとにする。


夜気の混じった冷たい風に吹かれながら歩き、やがて重厚な構えをした領主の館の前にたどり着いた。


大きな木の扉を押し開けてエントランスホールに入ると、外の喧騒が嘘のような静けさが迎えてくれる。


エリックがふと足を止め、皆を振り返った。


「明日早いから、今日は早く寝ろよ」


向かいで、ミーナとルチアがピクリと耳を動かす。


「わかった、ボス!」


「任しとけ!」


「寝るだけだろ。何をそんなに気合い入れてるんだ」


ボルグが、ガハハと豪快に笑い飛ばした。


翌朝。


まだ。


街が完全に目を覚ます前。


エリックたちは。


グルメアの朝市へ向かっていた。


「……眠い」


エリシアが。


小さく欠伸をする。


「昨日、早く寝ろって言っただろ」


エリックが。


淡々と言う。


「ちゃんと寝ましたよ!」


「ならいい」


「エリックは?」


「寝た」


「……本当に?」


「本当」


その横で。


ミーナとルチアは。


すでに周囲を見回していた。


「……匂いがします」


「パンですね」


「……あと、焼いた肉」


「朝から肉か」


レイナが。


小さく呟く。


そんな中。


エリックだけは。


周囲の店ではなく。


野菜や豆を並べた露店を見ていた。


「……白あん」


エリックが。


小さく呟く。


「探すぞ」

今回から。


グルメアでの出来事が始まります。


種を探しに来たはずのエリックたち。


ですが。


どうやら、それだけでは終わらないようです。


そして。


エリックに舞い込んだ、思わぬ依頼。


果たして。


無事に乗り切ることができるのでしょうか。


次回も楽しんでいただければ嬉しいです。


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