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四十八話(後編) : 予定外の寄り道

ガルフィの件も。


ひとまず。


落ち着きを取り戻したエリックたち。


白銀の塔へ戻るはずでしたが――。


なぜか。


予定外の寄り道をすることになりました。


今回も楽しんでいただければ嬉しいです。

馬車は。


白銀の塔へ向かう街道を。


静かに進んでいた。


「……。」


エリシアは。


窓の外を眺めている。


その向かいでは。


レイナが。


何かを思い出したように口を開いた。


「エリシア様」


「はい?」


「少し、寄り道してもよろしいでしょうか?」


「寄り道?」


エリシアが。


首を傾げる。


「はい」


レイナは。


少しだけ考えてから続けた。


「王都へ戻る前に、グルメアという街があります」


「グルメア……?」


「食文化で有名な街です」


その言葉に。


ボルグが反応した。


「ほう」


ジンも。


顔を上げる。


「食文化とな?」


「はい」


レイナが頷く。


「特に、新鮮な野菜を使った料理が有名だそうです」


「……野菜」


エリックが。


ほんの少しだけ反応した。


だが。


すぐに窓の外へ視線を戻す。


「寄り道はいい」


「え?」


エリシアが振り向く。


「早く帰りたい」


エリックは。


淡々と言った。


「魔鏡に戻って、やることがある」


「そうですね……」


エリシアも。


一度は頷く。


予定では。


そのまま魔境へ戻ることになっている。


余計な寄り道をする理由はない。


……はずだった。


「ちなみに」


レイナが。


もう一つ付け加える。


「グルメアでは、チーズケーキも有名だそうです」


「チーズケーキ?」


ボルグの目が。


わずかに光った。


「酒もあるそうですよ」


「酒じゃと?」


ジンまで反応する。


「それに」


レイナは続けた。


「ミルザール山脈から流れる川の水が綺麗で」


「その水を使って育てた、珍しい果物や野菜も多いそうです」


「…………。」


エリシアが。


固まった。


「珍しい……果物」


そして。


「野菜……」


ゆっくり。


エリシアの視線が。


エリックへ向く。


「エリックさん」


「……なに?」


「行ってみませんか!」


「……。」


エリックは。


嫌な予感がした。


「もしかしたら……」


エリシアが。


身を乗り出す。


「さらに魔鏡で育てられる種もあるかもしれませんよ」


「…………。」


近い。


エリシアの顔が。


ものすごく近い。


「ち、近い」


「え?」


エリシアは。


自分の顔がエリックの目の前にあることに。


今さら気づいた。


「…………。」


「…………。」


一瞬。


馬車の中が静かになる。


「ゴホン」


ボルグが。


わざとらしく咳払いした。


「…………っ」


エリシアの顔が。


一気に赤くなる。


慌てて身体を引く。


「す、すみません……」


エリシアは。


真っ赤な顔で窓の外を見る。


その隣で。


レイナは。


特に驚く様子もない。


(いつもエリシア様は、夢中になるとこれだ)


そして。


ボルグだけが。


口元を。


ニヤリと緩めていた。


「……。」


エリックは。


しばらく考える。


グルメア。


珍しい果物。


珍しい野菜。


そして。


種。


「……寄るだけなら」


エリックが言った。


エリシアが。


ぱっと振り向く。


「本当ですか!」


「ああ」


「ありがとうございます!」


「ただし」


エリックは。


指を一本立てる。


「寄り道は短めに」


「はい!」


エリシアは。


嬉しそうに頷いた。


こうして。


魔鏡へ戻るはずだった一行は。


予定にはなかった街。


グルメアへ。


寄り道することになった。


しばらく。


馬車は。


ガルリィアの街道を進んでいた。


エリックは。


窓の外を眺めている。


「……。」


畑が。


少ない。


というより。


ほとんど見当たらない。


「……本当に、こっちで合ってるの?」


エリックが呟く。


「はい」


レイナが答える。


「この先に、グルメアがあります」


「グルメア?」


エリシアが。


聞き返す。


「ガルリィアの中でも、食べ物で有名な街です」


「食べ物……」


ボルグが。


少し身を乗り出す。


「どんなものが有名なんじゃ?」


「チーズケーキや、いろいろな料理があるそうです」


「ほう」


ジンも反応する。


「それは楽しみじゃのう」


「……。」


エリックは。


再び窓の外を見る。


「でも……」


「畑、あんまりないけど」


「そうですね」


レイナも。


窓の外へ目を向ける。


「私も、聞いていた話と少し違う気がします」


「川も……」


エリシアが。


遠くを眺める。


街道の脇を流れる川。


けれど。


思っていたより。


ずっと小さい。


「ミルザール山脈から流れてくる川なんですよね?」


「そのはずです」


「……。」


一行の間に。


微妙な空気が流れる。


「本当に、グルメアに種なんてあるのか?」


エリックが。


ぽつりと言った。


「…………。」


誰も。


答えられない。


しばらくして。


レイナが。


懐から一枚の紙を取り出した。


「そういえば」


「これを忘れていました」


「?」


エリシアが覗き込む。


「ミルダ様から預かった手紙です」


「第二王女様から?」


「はい」


レイナは。


手紙を見ながら説明する。


「以前、ミルダ様から護衛の方々の剣術指南を頼まれていました」


「その時に、護衛の方からグルメアの話を聞いたんです」


「それをミルダ様も聞いていたらしくて」


「もし立ち寄ることがあれば、これを使うようにと」


「なるほど……」


エリシアが頷く。


やがて。


馬車の速度が落ちていく。


「……?」


エリックが。


顔を上げた。


前方に。


大きな門が見える。


「グルメアの門です」


レイナが言った。


八台の馬車が。


ゆっくりと門へ近づいていく。


門番たちが。


こちらへ駆け寄ってきた。


「止まってください!」


先頭の馬車が止まる。


門番が。


馬車の列を見渡した。


「……八台?」


明らかに。


困惑している。


レイナが。


馬車から降りる。


「こちらを」


懐から。


一枚の手紙を取り出す。


「ガルリィア王国第二王女、ミルダ・ガルリィア様からお預かりしたものです」


門番が。


恐る恐る受け取る。


そして。


手紙に書かれた名前を確認する。


「……第二王女様?」


門番の顔が。


固まった。


「少々、お待ちください!」


門番が。


慌てて詰所へ走っていく。


エリックたちは。


馬車の中から。


その様子を眺めていた。


「…………。」


エリックが。


小さく呟く。


「……入れるのかな」


誰も。


まだ答えを知らなかった。


しばらくすると。


詰所から。


二人のドワーフが飛び出してくる。


まだ若い。


見習い上がりのような警備兵だった。


二人は。


馬車の前まで駆けてくると。


慌てて姿勢を正す。


「お待たせいたしました!」


「領主様のところまで、ご案内します!」


そう言うと。


二人は馬に跨った。


一号車を挟むように。


左右へ分かれる。


そして。


八台の馬車を先導するように。


街の中へ進んでいった。


門を抜ける。


その瞬間。


空気が変わった。


「わあ……」


エリシアが。


窓の外を見る。


通りには。


人。


人。


人。


色とりどりの屋台。


甘い香り。


焼き菓子の香ばしい匂い。


果物を並べた店。


大きな鍋から立ち上る湯気。


そして。


通りのあちこちから聞こえてくる。


笑い声。


「今日は祭りなのか?」


レイナも。


珍しそうに辺りを見回す。


ミーナとルチアも。


左右の窓から。


キョロキョロと外を眺めている。


その時。


どこからか。


陽気な音楽が聞こえてきた。


ドン。


タン。


ドン、タン。


ドワーフ独特の。


少し低く。


力強い音色。


ボルグが。


窓から顔を出す。


「……おお」


そのまま。


耳を澄ます。


「懐かしいのう」


小さく。


鼻歌まで歌い始めた。


ご機嫌である。


「この通りは、本日中央のお祭り会場になっておりまして!」


先導する警備兵が。


馬上から声を張る。


「中央通りは人が多すぎて、八台の馬車では通れません!」


「ですので、こちらの脇道から参ります!」


「なるほど」


エリシアが。


頷く。


エリックは。


そんな街並みを眺めながら。


ぽつり。


「……種は売ってなさそうだな」


「そこを見るんですか!?」


エリシアが。


思わず突っ込む。


⸻


そして。


しばらく進むと。


街並みの向こうに。


大きな建物が見えてきた。


グルメアの領主館。


重厚な門が。


ゆっくりと開いていく。


ギィィィ……。


八台の馬車が。


一台ずつ。


その中へ入っていく。


最後の馬車が。


門を抜けた。


そして――


重厚な扉が。


ゆっくりと閉じていった。


すると。


館の中から。


一人の侍女が駆けてきた。


「エリシア様ですね」


「はい」


「モメニア様がお待ちです」


そう言って。


侍女は一号車の前まで来る。


「ですが……」


少し困ったような顔をする。


「現在、来客の方とお話をされております」


「そうですか」


エリシアが頷く。


「では、少々お待ちください」


「……分かりました」


侍女が。


一礼する。


その時。


エリシアが。


ふと口を開いた。


「一つ、気になることがあるのですが」


「はい?」


「この街は」


エリシアが。


窓の外を見る。


「自然豊かで、農産物もたくさん採れると聞いていたのですが……」


「……」


「先ほど街を見た限りでは、農地があまり見当たりませんでした」


「それに」


「種などを購入することはできるのでしょうか?」


侍女が。


少しだけ困ったように笑う。


「……山脈から流れてくる川のおかげで、豊かな土地だという話でしょうか?」


「はい」


「それは――」


侍女は。


少し間を置いて。


「モメニア様が、この街へ来られた時に思いつかれた話です」


「……思いついた?」


「はい」


「つまり……?」


侍女が。


小さく息を吐く。


「でっち上げです」


「でっち上げ!?」


エリシアが。


目を丸くする。


その時。


館の奥から。


少し大きな声が聞こえてきた。


「だから……!」


「ですが、今回は……!」


「…………?」


エリシアが。


声のする方を見る。


レイナも。


わずかに眉を動かした。


侍女が。


困ったように笑う。


「……申し訳ありません」


「先ほどの来客の方です」


「何かあったのですか?」


エリシアが尋ねる。


「実は……」


侍女が。


少し言い淀む。


「今年のスイーツ祭りについてです」


「スイーツ祭り?」


エリシアの目が。


少し輝いた。


「はい」


侍女が頷く。


「グルメアでは毎年、この時期に食の祭典を開催しております」


「その中でも、スイーツ部門は特に人気がありまして」


「なるほど……」


エリシアが。


興味深そうに頷く。


すると。


また奥から。


声が聞こえる。


「俺は出ると言っている!」


「その腕では無理です!」


「腕一本くらい――」


「無理なものは無理です!」


「…………」


エリシアたちは。


顔を見合わせる。


エリックだけが。


少し首を傾げた。


「怪我してるのか?」


「はい……」


侍女が。


小さく頷く。


「今年のグルメア代表として出場する予定だった菓子職人の方なのですが……」


「先日、事故に遭われまして」


「事故?」


「はい」


侍女が。


困ったように続ける。


「道に飛び出した山羊を助けようとして……」


「……山羊?」


エリックの目が。


ほんの少し動いた。


「はい」


「その際に腕を負傷されまして」


「そのため、今回の大会への出場が難しくなってしまったのです」


「…………」


エリックは。


黙った。


そして。


ぽつり。


「……山羊を助けたのか」


侍女が頷く。


「はい」


エリックは。


それ以上何も言わなかった。


ただ。


少しだけ。


その職人のいる方を見た。


「優勝しないと……」


モメニアが。

苦い顔をする。


「今年の祭りで注目を集められなければ、グルメアへ来る観光客も減るでしょう」


「そうなれば……」


店主が。

悔しそうに俯く。


「店の売り上げも減る」


「雇っている奴らの給料だって、減らさざるを得なくなる」


「そんなことは、私だって分かってる」


店主が。

怪我をした腕を見る。


「ですが、この手では……」


モメニアが。

店主を見る。


「出るしかないでしょ」


「……。」


「優勝どころか、まともに菓子を作ることすらできません」


その瞬間。


エリシアが。


すっと身を乗り出す。


「エリック!」


「……?」


気づけば。


顔が。


すぐ目の前にある。


「助けたいです!」


「……近い」


エリシアは。


気にしない。


「その方を助けてあげたいです!」


「…………」


エリックは。


少しだけ。


後ろへ身体を引く。


「腕を怪我してるんだろ?」


「はい!」


「だったら――」


エリックが。


少し考える。


「料理は無理だな」


「だからです!」


エリシアが。


さらに顔を近づける。


「エリックなら、何かできるでしょう?」


「…………」


エリックは。


エリシアを見る。


そして。


小さく息を吐いた。


「……分かった」


「約束ですよ」


エリシアが。


ぐっと顔を近づける。


「…………」


「近い」


「約束ですよ?」


「……分かったから」


エリシアは。


満足そうに笑った。


「…………」


エリックは。


小さく息を吐いた。


完全に。


無茶振りだった。

今回は。


予定外の寄り道から始まったグルメア編。


種を探していたはずのエリックですが。


どうやら。


そう簡単には帰れないようです。


そして。


最後には、またしてもエリシアからの無茶振りが。


果たして。


エリックはどうするのでしょうか。


次回も楽しんでいただければ嬉しいです。


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