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第四十八話(前編): 見えているものが、全てとは限らない」

ガルフィを巡る出来事。


エリシアが辿り着いた答え。


そして。


新たな鑑定さんの推理。


それぞれの思惑が交差した今回の旅も、いよいよ終わりを迎えます。


今回も楽しんでいただければ嬉しいです。

「ですが――」


エリシアは。


静かに微笑んだ。


「全て、心配はいりません」


「……何故だ?」


「王様が、全てご存じだからです」


「……!」


ガルフィの表情が変わる。


「ガルフィ様には、設計図を作成するように」


「エリックさんには、その設計図を元に――」


一拍。


「鑑定さんを完成させるように」


「第二王女には――」


「もし、魔王現象計画が失敗した時のために、薬を作るように」


そして。


「ドルゴム様には、設計図を作ったガルフィ様の労を労うため、王家の別館でしばらく休むように」


「当然、第一王子には――」


エリシアは。


小さく笑った。


「ガルフィ様の手助けをするように、と」


「……。」


ガルフィは。


しばらく言葉を失った。


「最後に一つだけ、聞かせてはくれないだろうか?」


「はい。何でしょう?」


ガルフィは。


少し考えてから。


尋ねた。


「何故――」


一拍。


「禁書庫の踊り場に、木枠の箱などが置いてあったと分かったのかね?」


「……。」


エリシアは。


少しだけ困ったように笑う。


「一番、難しい質問ですね」


「……ほう?」


「第二王女様とお話しした時に――」


エリシアは。


少し考える。


「何故か、この方は私とよく似ていると思ったのです」


「……。」


「私も、彼女と同じように――」


少しだけ。


声を落とす。


「お父様に内緒で、自国の禁書庫に何度も……」


「……。」


ガルフィの目が。


わずかに見開かれる。


「当然ですが」


エリシアは。


にっこりと笑った。


「持ち出したことは、一度もありませんよ」


「……。」


そして。


人差し指を口元に当てる。


「ですが、お父様にバレるのは困りますので――」


「ご内密にお願いしますね」


二日後。


王都ルミナリア。


王城前。


八台の馬車が。


静かに並んでいた。


そのうち二台には。


今回の外交で得られた武器が積み込まれている。


「……これで、ようやく終わりですね」


エリシアが。


馬車を見つめながら呟いた。


約二十日。


思えば。


随分と長い旅だった。


最初は。


魔境へ行くことになるとは思っていなかった。


まして。


ドワーフ王国まで行き。


外交まで経験することになるなんて。


「エリシア」


レイナが呼ぶ。


「はい?」


「そろそろ出発する」


「……そうですね」


エリシアは。


少しだけ寂しそうに笑った。


その横では。


ミーナとルチアが。


何やら荷物を確認している。


「忘れ物ない?」


「大丈夫……だと思う」


「本当に?」


「たぶん……」


二人で顔を見合わせる。


その様子を。


ボルグが眺めていた。


「長かったのう」


「……ですね」


エリックが答える。


その手には。


いつものGペン型の杖。


そして。


馬車の車輪には。


エリックが描いた魔法陣が刻まれている。


「これで帰りは少し楽になる」


「本当に便利なものじゃのう」


ボルグが感心する。


エリックは。


車輪を見つめる。


「……俺の描いた魔法陣が、どこまで使えるかも見ておきたい」


「相変わらずじゃな」


ボルグが笑う。


その時。


王城の方から。


何人もの人影が近づいてきた。


王族。


侍女。


兵士。


そして。


今回の旅で関わった者たち。


皆。


見送りに来ていた。


「エリシア様」


ミーナが。


小さく声を上げる。


エリシアが振り返る。


「……ありがとうございます」


深く頭を下げる。


それから。


一人ずつ。


別れの挨拶を交わしていく。


そして。


エリシアも。


レイナも。


ボルグも。


ミーナも。


ルチアも。


それぞれの顔を見合わせる。


そして。


誰からともなく。


笑った。


長かった旅。


いろいろなことがあった。


けれど。


今は。


その全てが。


少しだけ懐かしく感じられる。


「では――」


レイナが。


馬車へ向き直る。


「帰ろう」


その言葉に。


皆が頷いた。


それぞれが。


自分の馬車へ向かって歩き出す。


エリシアも。


一度だけ。


振り返った。


王都ルミナリア。


そして。


見送る人々。


ガルフィは。


ボルグの前で足を止めた。


「ボルグ」


「……師匠」


二人は。


しばらく見つめ合う。


「元気でな」


「師匠も」


短い言葉。


それだけで。


十分だった。


そして。


ガルフィは。


最後に。


エリックの前に立った。


「……」


しばらく。


何も言わない。


やがて。


ガルフィが。


エリックの肩を。


ぽん、と叩いた。


「後は頼んだ」


「……ああ」


エリックは。


短く答えた。


ガルフィは。


それ以上何も言わない。


ただ。


静かに笑った


今度はエリシアへ向き直る。


「エリシア殿」


「はい」


ガルフィが。


軽く頭を下げる。


エリシアも。


微笑んで一礼を返した。


「色々と、ありがとうございました」


「こちらこそ」


その後。


第二王女もエリシアの前へ。


「エリシア」


「はい」


「今度は――」


第二王女が。


微笑む。


「わたくしが、そちらへ伺います」


「……ええ。楽しみにしています」


二人が。


笑い合う。


そして。


王妃が一歩前に出る。


「エリシア」


「はい」


王妃は。


少しだけ照れたように笑った。


「ガルフィから聞きましたよ」


「……?」


「名推理、ご苦労様でした」


「えっ……」


エリシアが。


目を丸くする。


王妃は。


そのまま、少しだけ声を落とした。


「ですが――」


一拍。


「見えているものが、全てとは限りませんよ」


「……」


エリシアは。


その言葉を。


じっと聞いていた。


そして。


最後の挨拶を終える。


レイナが。


皆を見渡した。


「では、そろそろ」


「はい」


それぞれが。


自分の馬車へ向かって歩き出す。


エリシアも。


一度だけ。


振り返った。


王都ルミナリア。


そして。


見送る人々。


「……行ってきます」


小さく呟いて。


エリシアは。


馬車へ向かった。


――。


馬車は。


王城の門を抜けた。


王都の街並みが。


少しずつ遠ざかっていく。


やがて。


その姿も見えなくなった。


「……」


エリシアは。


窓の外を眺めていた。


しばらくして。


ふと。


口を開く。


「そういえば……」


向かいに座るエリックを見る。


「ドルゴム様は……」


一拍。


「本当に、ガルフィ様を監禁していたのでしょうか?」


「……」


エリックが。


少し考える。


「たぶん」


「たぶん?」


ボルグが。


眉をひそめる。


「そう言えば坊主」


「古代術式を学習したんじゃろ?」


「丁度いい機会じゃ」


ボルグが。


口元を緩める。


「皆にお披露目してはどうじゃ」


「新しい鑑定さんを」


「……うん」


エリックが。


頷く。


「鑑定さん」


一瞬。


何も起こらない。


「……?」


エリシアが。


首を傾げる。


次の瞬間――


――ギュイィィィン。


馬車の中に。


球体魔方陣が浮かび上がった。


幾重にも重なった魔法陣が。


ゆっくりと回転を始める。


「……!」


エリシアの目が。


キラキラと輝いた。


「すごい……」


ミーナとルチアは。


「…………」


口を。


あんぐりと開けていた。


二人の耳が。


ピンと立っている。


レイナは。


じっと球体魔方陣を見つめていた。


そして。


ごくり。


唾を飲み込む。


「これが……」


レイナが。


小さく呟く。


「古代術式……」


「うん」


エリックは。


いつも通りだった。


「球体魔方陣を鑑定したら、学習を始めたんだ」


「学習……?」


エリシアが。


さらに目を輝かせる。


その時。


球体魔方陣の回転が。


止まった。


『推理モードを開始します』


「……!」


全員が。


息を呑む。


球体魔方陣が。


再び回転を始める。


『確認された情報を整理します』


「……」


『約十日前』


『王妃から、ガルフィへ極秘の依頼がありました』


「……王妃様から?」


エリシアが。


目を見開く。


『魔王現象に関する研究を、内密に進めるための依頼です』


『ガルフィは第一王子へ協力を依頼』


『王妃は第二王女へ、魔王現象に備えた薬の準備を依頼』


「……」


『ただし』


球体魔方陣が。


一度。


大きく回転する。


『第二王女には』


『王が改革路線へ舵を切り始めていることが、伝えられていませんでした』


「あ……」


エリシアが。


小さく声を漏らす。


『そのため』


『第二王女から見たガルフィの行動は』


『禁書庫に関わる、危険な行動に見えました』


『第二王女は、ドルゴムへ相談』


『保守派であるドルゴムは、ガルフィを危険視』


「……だから」


エリシアが。


呟く。


「ドルゴム様は……」


『はい』


『ガルフィを匿いました』


『しかし――』


球体魔方陣の回転が。


ゆっくりと止まる。


『ここで、情報の解釈に差が生じました』


「……」


『王妃の意図』


『魔王現象を止めるための研究を、内密に進める』


『王の意図』


『研究を守るため、ガルフィを安全な場所へ移す』


『ドルゴムの解釈』


『危険な研究をしているガルフィを、誰にも会わせてはならない』


「…………」


エリシアは。


言葉を失った。


『結果』


『ガルフィは、王家の別館に留め置かれました』


「……」


『エリシアの推理に誤りはありません』


エリシアが。


顔を上げる。


『ガルフィは禁書庫にいました』


『第二王女は、それを目撃しました』


『ドルゴムは、ガルフィを監禁しました』


『ただし――』


一拍。


『見えていた事実と、その理由は』


『同じではありません』


「……」


エリシアの脳裏に。


王妃の言葉が蘇る。


『見えているものが、全てとは限りませんよ』


エリシアは。


ゆっくりと。


息を吐いた。


「……そういうことだったのですね」


揺れる馬車の中。


エリックは。


ふと。

あの時のことを思い出していた。


「俺たちが駆けつけた時、そう言えばレイナが心配そうに鍵穴から見ていたな」


「そうじゃな」


ボルグが頷く。


「その横で、ドルゴム様達が気を失っていたのを見て、少し笑ったが」


「グハハハ」


ボルグが豪快に笑う。


「上手く行ってよかったです」


『推理モードを終了してもよろしいですか?』


「……ああ」


エリックは。


ずっと気になっていた。


どこかで聞いたことがある。


「この声……」


一拍。


「こっちへ転生する前に聞いた」


「ポンコツ女神様と……」


エリックは。


少し考える。


「同じ声じゃ?」


「…………。」


『ち、違います』


「ぷっ」


「お前、自分で言っただろ」


『プッ』


馬車は、静かに魔境への道を進んでいった。

長かった旅も。


ようやく終わりを迎えました。


ガルフィを巡る謎も。


エリシアの推理と、鑑定さんの推理によって、ひとつの答えへと辿り着きました。


そして。


最後に少しだけ明らかになった、鑑定さんの新たな一面。


果たして。


あの声は、本当に気のせいなのでしょうか。


次回も楽しんでいただければ嬉しいです。


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