第四十七話(後編):心配はいりません
エリシアが辿り着いた。
ひとつの答え。
そして。
ガルフィが語る、あの日の出来事。
果たして。
すべては繋がるのでしょうか。
今回も楽しんでいただければ嬉しいです。
「禁書庫に入れる者は限られている」
エリシアは。
小さく呟く。
「王の許可なしには、入れない……」
第一王子や第二王女は。
禁書庫の鍵を持っている。
しかし。
彼らでさえ。
王の許可なしに自由に入れるわけではない。
「……。」
エリシアは。
紙を読み進める。
「では……」
顔を上げる。
「仮に、あの日」
「貴方たちが地下にある禁書庫から戻る時――」
一拍。
「誰にも出会うことなく、無事に一階まで辿り着いたとしましょう」
「……。」
「しかし」
エリシアの表情が。
少しずつ変わる。
「本当に……」
「誰にも出会うことなく、出られたのでしょうか?」
「……。」
ガルフィは。
黙った。
「私は、お城の構造を知りません」
エリシアは。
二枚目の紙を見る。
「ですから、ここからは憶測ですが――」
そして。
紙を胸元へ戻す。
「もし」
「その途中で……」
エリシアが。
ガルフィを見る。
「誰かに見られていたとしたら?」
一拍。
「普通なら」
「足元を照らすためのランプや」
「禁書だと悟られないようにするための木枠の箱」
「それに、掃除道具なんかを――」
エリシアは。
ゆっくりと言葉を続ける。
「階段の踊り場などに置いたりするものです」
「……。」
「おそらく」
エリシアは。
周囲を見渡すように。
目を動かす。
「私と同じくらいの女性なら」
一拍。
「隠れてしまえる程度には、物が置いてある」
ガルフィの表情が。
わずかに変わった。
「そして」
エリシアは。
静かに続ける。
「貴方たちは、当然ランプに灯りをつけるはずもない」
「……。」
「城を見張っている者たちに、気づかれるわけにはいかないですからね」
「……。」
エリシアの声が。
少しだけ低くなる。
「だから――」
一拍。
「見落とした」
「……。」
「いえ」
エリシアは。
首を横に振った。
「見落としたのではありません」
そして。
ガルフィを見る。
「そもそも――」
「疑いすら、しなかった」
「では――」
エリシアは。
少しだけ。
間を置いた。
「誰が、見ていたのでしょう?」
「……。」
ガルフィは。
エリシアを見つめる。
エリシアは。
小さく笑った。
「勘のいいガルフィさんなら」
一拍。
「お気付きでは?」
「……。」
ガルフィの目が。
わずかに細くなる。
そして。
「……あの場に、第二王女がいたとでも言いたいのかね?」
「ご名答です」
「馬鹿げてる」
ガルフィは。
即座に言い切った。
「何故、そう思うのでしょう?」
エリシアは。
静かに問い返す。
「百歩譲って――」
ガルフィは。
腕を組む。
「あの場にいたとしようじゃないか」
「……。」
「そもそも、あの子は改革派だ」
ガルフィは。
淡々と続ける。
「私や、実の兄を売るような真似はしない」
「それに――」
少しだけ。
呆れたように息を吐く。
「私を監禁できるだけの腕力など、あの子にはないだろ」
「ましてや――」
ガルフィは。
エリシアを見つめる。
「禁書庫に足を踏み入れる理由など、ないだろう」
「困りましたね」
エリシアは。
少し考えるように。
首を傾げた。
「どうしましょう」
そして。
小さく笑う。
「確かに……」
一拍。
「理由など、無いように思えますよね」
「……。」
エリシアは。
ふと。
話題を変える。
「少し、お話を変えても?」
「……構わんが」
「ガルフィ様は――」
エリシアは。
静かに尋ねた。
「猛毒のザラニ花という花をご存じですか?」
「……。」
ガルフィの眉が。
わずかに動く。
「藪から棒に、何を言い出すのかと思えば……」
そして。
少しだけ。
表情を変えた。
「魔王現象の中毒には、効果的だ」
「……。」
「だが――」
ガルフィは。
低い声で続ける。
「王家の人間以外が育てることも」
「……。」
「摂取することも」
「……。」
「薬として精製することも、禁じられている」
「……。」
エリシアは。
じっと。
ガルフィを見つめる。
「……まさか」
「禁書庫にある――」
エリシアは。
静かに続けた。
「古い薬学書にしか、精製方法は書かれていないのです」
「……。」
ガルフィの表情が。
少しずつ変わっていく。
「ですが――」
エリシアは。
昨日のお茶会を思い出す。
「お茶会の時」
一拍。
「何故か彼女は、その精製方法を知っていたのです」
「……。」
そして。
エリシアは。
ガルフィを見つめる。
「さらに」
「……。」
「彼女のすぐ後ろには、ドルゴム様がいました」
「……!」
ガルフィの目が。
わずかに見開かれる。
「不思議ですよね?」
「……。」
エリシアは。
小さく首を傾げた。
「王様の側近であるドルゴム様が、何故あの場にいたのでしょう?」
「……。」
「もしかすると――」
エリシアは。
少しだけ声を落とす。
「彼女は、常に監視されていたのかもしれません」
エリシアは。
静かに首を振った。
「彼女は――」
一拍。
「あなたが魔法書を手に持っているところを、偶然見たのです」
「……。」
ガルフィは。
黙ってエリシアを見る。
「いえ」
エリシアは。
すぐに言い直した。
「偶然、すれ違ったのではありません」
「……?」
「隠れて、その様子を見ていたのです」
「……。」
エリシアは。
さらに続ける。
「そして彼女は――」
少しだけ。
声を落とした。
「恐ろしさのあまりに、ついに……」
一拍。
「あろうことか」
「……。」
「保守派であるドルゴム様に、相談してしまった」
「……!」
ガルフィの表情が変わる。
「それによって――」
エリシアは。
ガルフィを真っ直ぐ見つめる。
「あなたは追われ」
「……。」
「そして、ここに監禁された」
「では――」
ガルフィは。
エリシアを見つめた。
「何故、全てを分かったうえで……」
一拍。
「ここへ、のこのことやって来たのですか?」
「……。」
エリシアは。
少しだけ笑った。
「では――」
ガルフィが尋ねる。
「全て、お認めになると?」
「ああ」
ガルフィは。
静かに頷いた。
「大半は、間違いない」
「良かったです」
エリシアは。
ほっとしたように息を吐く。
「今夜は、ゆっくり眠れそうですね」
「……。」
ガルフィは。
思わず苦笑する。
「そうそう」
エリシアは。
何かを思い出したように。
胸元の紙を見る。
「忘れていました」
そして。
顔を上げる。
「エリックさんは、王様に呼ばれて」
一拍。
「二人きりで、お話ししたそうです」
「……!」
ガルフィの表情が変わる。
エリシアは。
静かに続けた。
「王様は――」
「失うことが、心配なのです」
「……。」
「ガルフィ様は禁書の持ち出し」
「第一王子は、その手助け」
「ドルゴム様は、ガルフィ様の監禁」
エリシアは。
一人ずつ。
確認するように口にする。
そして。
「ですが――」
小さく微笑む。
「全て、心配はいりません」
少しずつ。
ガルフィを巡る謎が、繋がってきました。
エリシアの推理。
そして。
王族たちの、それぞれの思惑。
最後に語られた「心配はいりません」という言葉。
その意味とは――。
次回も楽しんでいただければ嬉しいです。
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