第四十六話(前編):一人の散歩
ガルフィの行方を追うエリックたち。
そして。
球体魔法陣から導き出された、ひとつの可能性。
その頃。
王族用別館では、エリシアが一人で廊下を歩いていました。
今回も楽しんでいただければ嬉しいです。
漫画家の目だった。
「……。」
ボルグは。
しばらく球体を見つめていた。
「エリック……」
「ん?」
「お主、何をした?」
「見たままだよ」
「いや、見たままでは分からんのじゃが……」
エリックは。
浮かび上がった球体魔法陣へ近づく。
「これ……」
杖の先を。
そっと向ける。
「鑑定してみる」
「鑑定?」
「うん」
エリックが魔力を流す。
淡い光が。
球体魔法陣を包み込む。
「……。」
いつもの鑑定。
いつもの感覚。
そう思った。
だが。
――ピッ。
「……ん?」
エリックの表情が変わる。
目の前に。
見たことのない文字が浮かんだ。
《解析開始》
「……。」
さらに。
文字が続く。
《魔法構造を確認》
《魔力回路を確認》
《古代文字を確認》
「古代文字?」
ボルグが反応する。
「なんじゃと?」
だが。
鑑定は止まらない。
次々と文字が浮かんでいく。
《学習を、はじめます》
「……え?」
エリックが固まる。
「学習……?」
ボルグも。
目を丸くする。
「鑑定が……学習するのか?」
エリックは。
しばらく表示を見つめていた。
すると。
新たな文字が浮かび上がる。
《古代文字を学習しますか?》
「する」
エリックが答えた瞬間。
《学習を開始します》
球体魔方陣が。
淡く光る。
無数の文字が。
エリックの目の前を流れていく。
「……。」
「おい、エリック」
ボルグが声をかける。
だが。
エリックは答えない。
ただ。
表示される文字を見つめている。
やがて。
《古代文字――学習完了》
「……終わった?」
エリックが呟く。
その直後。
《魔法構造を確認》
「ん?」
《魔法構造を学習しますか?》
「……する」
《学習を開始します》
「おい」
ボルグが眉をひそめる。
「またか?」
エリックは答えない。
次々と。
魔法陣の構造が解析されていく。
《魔力回路を確認》
《魔力回路を学習しますか?》
「する」
《三次元魔法構造を確認》
「……。」
エリックの目が。
さらに輝く。
《三次元魔法構造を学習しますか?》
「もちろん」
《学習を開始します》
「おいおいおい……」
ボルグが呆れた声を出す。
「一体、いつまで続くんじゃ?」
「分からない」
「分からんのかい!」
それでも。
エリックは止めない。
《魔力制御方式を確認》
「する」
《古代術式を確認》
「する」
《術式変換規則を確認》
「する」
《空間構築理論を確認》
「……する」
ボルグは。
とうとう頭を抱えた。
「お主……全部覚えるつもりか?」
「覚えられるなら」
エリックは。
球体魔方陣を見つめたまま答える。
「全部覚える」
そして。
最後の文字が。
浮かび上がる。
《学習対象――確認完了》
「……。」
エリックが。
ゆっくり顔を上げる。
《学習完了》
「終わった……」
ボルグが。
深く息を吐いた。
「やっとか……」
だが。
エリックは違った。
「……すごい」
「何がじゃ?」
「今まで見えなかったものが……見える」
「……。」
ボルグが。
球体魔方陣を見る。
先ほどまでとは。
何も変わっていない。
だが。
エリックには。
その構造の一つ一つが。
まるで最初から知っていたかのように理解できていた。
そして。
球体魔方陣の中心。
そこに。
一つだけ。
まだ読み取れていない文字が残っていた。
「……これ」
エリックが目を細める。
「まだ、何かある」
ボルグが。
ゆっくり振り返った。
「……なんじゃと?」
球体魔方陣の中心を見つめていた。
「どこじゃ?」
ボルグも覗き込む。
「ここ」
エリックが。
杖の先で指し示す。
球体の中心。
そこには。
小さな文字が一つだけ残っていた。
「……読めるのか?」
「今なら」
エリックは。
鑑定を再び発動する。
淡い光が。
中心の文字を包み込む。
《古代文字を確認》
《翻訳します》
「……。」
文字が。
ゆっくりと変化していく。
《扉》
「扉?」
ボルグが呟く。
「古代扉のことか?」
「たぶん」
エリックは。
さらに鑑定を進める。
すると。
球体魔方陣の一部が。
青白く光った。
「……ん?」
「どうした?」
「ここ」
エリックが。
球体の一箇所を指差す。
そこには。
小さな魔力の流れがあった。
「この魔法陣……」
エリックが目を細める。
「何かを探してる」
「何かを?」
「うん」
魔力の流れが。
球体の中心から外へ向かって伸びていく。
まるで。
見えない何かを。
指し示すように。
「これは……」
ボルグが息を呑む。
エリックは。
ゆっくり杖を下ろした。
「たぶん」
一拍。
「ガルフィは、この先を調べようとしてた」
「……。」
工房に。
静寂が落ちる。
その時。
球体魔方陣の中心に。
新たな文字が浮かび上がった。
《座標――未登録》
「……座標?」
エリックが呟く。
ボルグは。
その文字を見つめる。
「まさか……」
エリックが。
笑った。
「これ」
杖を握り直す。
「場所を探す魔法陣にも使える」
「ちょっと待て」
エリックが。
突然、杖を止めた。
「……どうした?」
ボルグが振り返る。
エリックは。
球体魔方陣を見つめていた。
「ガルフィは……」
一拍。
「これを俺に託したってことか?」
「……。」
ボルグも。
球体魔方陣を見る。
「そう考えるのが自然じゃな」
「でも」
エリックが。
工房を見回す。
「だったら……」
拳を握る。
「ガルフィは、今どこにいる?」
「……。」
ボルグの表情が変わる。
「確かに……」
二日前。
この工房を訪れた時も。
ガルフィはいなかった。
そして。
今も。
いない。
「まさか……」
ボルグが呟く。
エリックは。
机の上に残された紙を見る。
クシャクシャに丸められていた。
まるで。
誰かに見つけてもらうことを待っていたように。
「……ガルフィ」
エリックが。
小さく呟く。
「お前、何を知ってる?」
返事はない。
工房には。
静かな時間だけが流れていた。
エリックは。
Gペン型の杖を握り直す。
「まずい、あいつが殺されるかもしれない」
「いや……」
エリックは首を振る。
「考えすぎか」
少しの沈黙。
そして。
「鑑定さん」
《はい》
「推理できるか」
《推理モードに切り替えますか?》
「……。」
エリックが。
一瞬、黙る。
「頼む」
――ギュイィィィン!!
凄まじい音と共に。
球体魔方陣が。
回転を始めた。
「おいおい……嘘だろ」
ボルグが目を見開く。
「どこから突っ込んでいい……」
球体魔方陣は。
さらに回転速度を上げていく。
「そ、そんなことまでできるのか……」
「球体だぞ」
エリックが。
回転する魔法陣を見つめる。
「見たことないだろ」
「……。」
「魔法陣は平面っていう常識を」
エリックの目が輝く。
「覆したんだ」
「……。」
「可能性しかないだろ」
エリックは。
球体魔方陣を見上げる。
「三次元魔法陣には」
一拍。
「それだけの価値がある」
その時。
ピタリ。
球体魔方陣の回転が止まった。
《エリック》
「はい」
《この先、見た物すべてを記憶・分析し、必要な物を推測し、お伝えします》
一拍。
《よろしいですか?》
「……。」
エリックが。
唾を飲み込む。
「頼む」
一拍。
エリックは。
球体魔法陣を見つめる。
「……鑑定さん」
『はい』
「喋れる?」
『可能です』
「……。」
エリックは。
少しだけ目を見開いた。
「じゃあ、声で頼む」
一拍。
『承知しました』
球体魔法陣が。
ゆっくりと回転を始める。
『現在までに確認した情報を整理します』
『ガルフィの失踪』
『禁書庫から持ち出された魔法書』
『ガルフィの工房に残された魔法構造』
そして――。
『王族用別館』
「……。」
エリックは。
黙って鑑定さんの声を聞いている。
『これらの情報を照合します』
球体魔法陣が。
さらに回転する。
『解析結果が出ました』
一拍。
『ガルフィが監禁されている可能性が最も高い場所は――』
エリックは。
息を呑む。
『王族用別館です』
「……やっぱりか」
エリックが。
小さく息を吐いた。
ちょうどその頃――。
エリシアは。
一人、長い廊下を散歩していた。
エリックの三次元魔法陣。
そして。
新たに動き始めた鑑定さん。
ガルフィの失踪を追う中で、少しずつ謎が繋がり始めています。
一方。
王族用別館では、エリシアが一人で散歩中。
果たして。
何事もなく終わるのでしょうか。
次回も楽しんでいただければ嬉しいです。
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