第四十四話(後編):五日間
エリシアの提案によって。
ガルリィア王国との交易に、少しずつ可能性が見えてきました。
その一方で。
ガルフィを探すエリックたちの前には、思わぬ存在が――。
今回もお楽しみいただければ嬉しいです。
従者が。
四角い箱を。
静かに置いた。
ドルガン王は。
箱を見る。
「……これは?」
エリシアが。
微笑む。
「人工大理石で作った箱です。」
ドルガン王は。
箱の表面へ。
そっと手を置く。
「なるほど。」
「よく出来ている。」
「ですが。」
「我が国では。」
「この程度の大理石なら。」
「珍しくもない。」
「はい。」
エリシアは。
小さく頷いた。
その後ろで。
ヴァルドが。
嫌な予感でもしたように。
片手で額を押さえた。
「……。」
第二王女が。
箱を覗き込む。
「もしかして。」
「私たちへの贈り物ですか?」
エリシアは。
少しだけ笑った。
「いいえ。」
「贈り物ではありません。」
「では?」
「見ていただきたいのは。」
「箱ではなく。」
エリシアは。
箱の蓋へ手をかける。
「中身です。」
「……中身?」
ドルガン王が。
身を乗り出す。
エリシアが。
ゆっくりと。
蓋を開けた。
カチャ。
その瞬間。
ふわっ。
白い冷気が。
箱の中から流れ出した。
「……!」
ドルガン王の目が。
僅かに見開かれる。
第二王女も。
思わず身を乗り出した。
「冷たい……。」
エリシアは。
中を見せる。
そこには。
小さな器に盛られた。
白い氷。
その上には。
色鮮やかな果物が。
乗せられていた。
第二王女が。
目を輝かせる。
「……綺麗。」
エリシアが。
微笑む。
「かき氷です。」
「王都で作ったものを。」
「こちらまで運んでまいりました。」
ドルガン王は。
しばらく。
言葉を失っていた。
王妃は。
何も言わなかった。
ただ。
かき氷を。
じっと見ていた。
やがてドルガン王は。
低い声で。
呟く。
「……王都から?」
「はい。」
「何日かかった。」
「十日以上です。」
「……。」
ドルガン王は。
かき氷を見る。
そして。
もう一度。
箱を見る。
その間も、王妃の視線だけは。
かき氷から離れなかった。
ヴァルドは。
額を押さえたまま。
小さく呟いた。
「……やっぱり。」
第二王女が。
兄を見る。
「お兄様?」
「いや。」
ヴァルドは。
小さく首を振った。
「何でもない。」
そして。
もう一度。
箱を見る。
「……エリックか。」
その名前だけが。
小さく。
謁見の間に落ちた。
ドルガン王は。
かき氷を見つめたまま。
しばらく黙っていた。
「……。」
エリシアは。
そんな王の様子を見ながら。
静かに口を開いた。
「もう一つ。」
「見ていただきたい物がございます。」
ドルガン王が。
顔を上げる。
「まだあるのか?」
「はい。」
エリシアは。
少しだけ笑った。
「従者を。」
「入れても。」
「よろしいでしょうか?」
ドルガン王が。
頷く。
「構わん。」
エリシアは。
小さく手を叩いた。
パン。
すると。
控えていた従者が。
大きな皿を運んできた。
テーブルへ。
静かに置く。
「……?」
ドルガン王が。
皿を見る。
そこには。
色とりどりの野菜が。
盛られていた。
赤。
緑。
黄色。
白。
様々な色が。
一つの皿に並んでいる。
「……サラダ?」
ドルガン王が。
呟く。
「はい。」
エリシアが。
頷く。
「なんだ、これは?」
「王都で作った野菜を。」
「こちらまで運んできたものです。」
ドルガン王は。
皿を見る。
「しかし。」
「先ほども言ったが。」
「王都からここまでは。」
「十日以上かかる。」
「はい。」
「なぜ。」
「これほど新鮮なのだ?」
エリシアは。
少しだけ姿勢を正した。
「実は。」
「馬車の荷台を。」
「冷蔵馬車にしました。」
「……は?」
ドルガン王の声が。
少しだけ上ずった。
エリシアは。
構わず続ける。
「私も。」
「今回が初めての試みでしたので。」
「本当に上手くいくか。」
「分かりませんでした。」
「ですから。」
「いろいろ試してみようと。」
「野菜も。」
「果物も。」
「できるだけ種類を変えて。」
「積んでまいりました。」
ドルガン王は。
もう一度。
サラダを見る。
そして。
エリシアを見る。
「……これを。」
「十日以上?」
「はい。」
ドルガン王は。
しばらく黙っていた。
やがて。
皿へ手を伸ばす。
「……試してみよう。」
エリシアが。
小さく頭を下げる。
「ありがとうございます。」
ドルガン王は。
野菜を一口。
口へ運んだ。
「……。」
噛む。
そして。
もう一口。
「……新鮮だ。」
エリシアの表情が。
少しだけ緩む。
ドルガン王は。
別の野菜にも。
手を伸ばした。
「これも。」
一口。
「……問題ない。」
さらに。
果物を一つ。
口へ運ぶ。
「……。」
しばらく味わう。
そして。
ドルガン王は。
ゆっくりと。
エリシアを見る。
「なるほど。」
「これなら。」
「話は変わってくるな。」
エリシアが。
ほっとしたように。
小さく息を吐く。
その時。
それまで黙っていた王妃が。
そっと手を上げた。
「あの……。」
ドルガン王が。
妻を見る。
「どうした?」
王妃は。
少しだけ。
かき氷へ視線を向ける。
そして。
控えめに尋ねた。
「私は。」
「かき氷をいただいても?」
一瞬。
謁見の間が。
静かになる。
ドルガン王は。
妻を見る。
そして。
小さく息を吐いた。
「……ずっと気になっていたのだろう?」
王妃は。
ほんの少し。
笑った。
「はい。」
ドルガン王は。
苦笑する。
「食べればいい。」
「ありがとうございます。」
王妃は。
ようやく。
かき氷へ手を伸ばした。
王妃は。
かき氷を。
一口。
口へ運んだ。
「……。」
少しだけ。
目を見開く。
「美味しい……。」
エリシアは。
小さく微笑んだ。
その様子を見ていたドルガン王が。
ふっと息を吐く。
「さて。」
王妃が。
顔を上げる。
ドルガン王は。
エリシアを見る。
「本題に参りましょう。」
謁見の間の空気が。
再び。
少しだけ引き締まる。
「先ほど。」
「そなたは。」
「我が国の武具を。」
「王国へ輸出してほしいと言ったな。」
「はい。」
エリシアは。
姿勢を正す。
「王国では。」
「ガルリィアの武具を。」
「高く評価しております。」
ドルガン王は。
頷いた。
「では。」
「そなたの国は。」
「その対価として。」
「何を提示する?」
エリシアは。
一瞬。
考える。
そして。
静かに答えた。
「食料です。」
ドルガン王の眉が。
僅かに動いた。
「食料?」
「はい。」
エリシアは。
先ほどのサラダへ。
視線を向ける。
「これまで。」
「距離が問題でした。」
「ですが。」
「今回の冷蔵馬車によって。」
「その問題を。」
「解決できる可能性が見えてきました。」
ドルガン王は。
腕を組む。
「……なるほど。」
エリシアは。
続ける。
「もちろん。」
「今回が初めての試みです。」
「ですから。」
「すぐに大規模な交易を。」
「というつもりはありません。」
「まずは。」
「小さな取引から。」
ドルガン王は。
しばらく。
エリシアを見つめた。
そして。
ゆっくりと。
頷いた。
「それならば。」
「話をする価値はある。」
エリシアは。
小さく頭を下げた。
「ありがとうございます。」
――その夜。
暗い部屋。
窓から差し込む月明かりが。
二人の影を浮かび上がらせていた。
二人とも。
仮面を被っている。
一人は。
鴉の仮面。
もう一人は。
梟の仮面。
「エリシアは。」
鴉が。
静かに口を開く。
「なかなかの切れ者ですね。」
「だな。」
梟が。
低く答える。
「思った以上だ。」
「尾行にも。」
「気づかれているかもしれません。」
「まあ。」
梟は。
気にした様子もなく答える。
「問題ない。」
「エリックが。」
「杖を修理に出しました。」
鴉が。
報告する。
「邪魔をしましょうか?」
「いや。」
梟が。
首を横に振る。
「放っておけ。」
「ですが。」
「杖が直れば。」
「エリックの行動範囲が広がります。」
「それでもだ。」
梟は。
淡々と答える。
「余計なことをすれば。」
「こちらの存在を悟られる。」
「我々の目的は。」
「一つだ。」
「ガルフィと。」
「エリックを。」
「会わせないこと。」
「それだけでいい。」
鴉が。
小さく頷く。
「ところで。」
「ガルフィは。」
「今、どんな感じです?」
「心配はいらない。」
梟が。
答える。
「見張りをつけている。」
「逃げる気配は?」
「ない。」
「抵抗は?」
「それもない。」
「……そうですか。」
鴉が。
少し考える。
「滞在時間は。」
「あと五日です。」
梟が。
静かに告げる。
「その間。」
「ガルフィを。」
「エリックに合わせてはならん。」
「分かっています。」
「五日を過ぎれば。」
「彼らはガルリィアを離れる。」
「そうすれば……。」
梟が。
窓の外を見る。
「二人が出会うことはない。」
「……はい。」
鴉が。
頷く。
「それでいい。」
「余計なことをする必要はない。」
「ただ。」
「五日間。」
「二人を離しておけばいい。」
冷蔵馬車によって。
これまで難しかった遠距離の交易に、少しずつ道が見えてきました。
そして。
ガルフィを巡る状況も、少しずつ動き始めています。
「五日間」という時間が、これからどう物語に関わってくるのか。
次回も楽しんでいただければ嬉しいです。
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