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四十四話(前編) :古い魔法書

ここから、ガルフィの行方を追う中で見つかった「古い魔法書」が、少しずつ物語に関わってきます。


果たして、ガルフィが持っていた魔法書には、何が書かれていたのか。


そして、エリシアたちの外交はどうなるのか。


今回もお楽しみいただければ嬉しいです。

「ガルフィさんなら、見かけたぞ」


ガレスが顔を上げる。


「本当か?」


「ああ。十日ほど前だったかな」


店主が。


顎に手を当てる。


「珍しく、古い魔法書を大事そうに脇に抱えていた」


「魔法書?」


ロイドが反応する。


「ガルフィが?」


「ああ。間違いない」


店主は。


通りの先を指差した。


「何に追われてるのか知らんが、えらく急いでいたんだ」


「追われていた?」


「いや、そこまでは分からん。ただ、いつものガルフィらしくなかった」


店主が。


少し笑う。


「ほれ、そこの段差でよろめいてな」


「その拍子に魔法書を落としたんだ」


「ワシが拾ってやった」


「だから間違いない」


ガレスとロイドが顔を見合わせる。


「……何の魔法書だった?」


「そこまでは知らん」


店主は肩をすくめた。


「ただな」


「ずいぶん古そうな本だったぞ」


「ありがとう」


ガレスが。


少しだけ金を取り出す。


「少ないが、取っておいてくれ」


店主が。


手を振る。


「待て」


「金などいらん」


「そんなことより……」


店主の顔が。


少し曇る。


「ガルフィに、何かあったのか?」


「俺たちも調べているところだ」


ガレスが。


頷く。


「何か分かったら、知らせてやる」


「そうか」


「さてと」


ガレスが。


ロイドを見る。


「俺たちは戻るか」


「ああ」


二人は。


店の外を見る。


「戻るか」


「ああ」


ロイドが。


小さく頷く。


二人が。


店を出る。


しばらく歩いたところで。


ガレスが。


小さく呟いた。


「なぁ」


「さっきから、つけられてるよな」


ロイドが。


前を見たまま答える。


「ああ」


「やっぱりか」


「三つ目の角からだ」


「……気づいてたか」


「お前もだろ」


二人は。


振り返らない。


そのまま。


英雄の像へ向かって歩き続けた。


英雄の像。


その足元に。


ミーナとルチアが座り込んでいた。


「……疲れた」


ミーナが。


ぐったりと呟く。


「行商人さんたちからは、何も聞けませんでしたね」


ルチアも。


疲れたように息を吐く。


「うん……」


その時。


二人の前に。


ガレスとロイドが戻ってきた。


「待たせたな」


「どうでした?」


ルチアが尋ねる。


「こっちは、少し聞けたぞ」


ガレスが答える。


「本当ですか?」


ミーナが。


顔を上げる。


「ああ」


ロイドが。


頷いた。


「ガルフィを見たという職人がいた」


「十日ほど前だそうだ」


「……十日前」


ミーナが。


呟く。


「それだけじゃない」


ガレスが続ける。


「ガルフィは、その時、古い魔法書を大事そうに抱えていたらしい」


「魔法書?」


ルチアが。


首を傾げる。


「しかも、何かに追われるように急いでいたそうだ」


「……」


三人が。


顔を見合わせる。


「それで?」


ミーナが。


ロイドを見る。


「俺たちも、帰り道で気づいた」


ロイドが。


声を落とす。


「つけられていた」


「……やっぱり」


ミーナが。


小さく呟いた。


「ミーナ?」


ルチアが。


振り向く。


「ガルフィさん」


ミーナが。


英雄の像を見上げる。


「王都から出てないんじゃない?」


「……どうして?」


ガレスが尋ねる。


「だって」


ミーナが。


二人を見る。


「ロイドさんたちも、つけられてたんでしょ?」


「ああ」


「私たちも、つけられてた」


「だったら……」


ミーナが。


立ち上がる。


「決まりね」


「ガルフィさんは」


「この王都にいる」


ルチアが。


少し考える。


「……確かに」


「ガルフィさんが王都から出ているなら」


「わざわざ私たちをつけ回す必要はありませんね」


「そういうこと」


ミーナが。


頷く。


ガレスとロイドは。


しばらく黙っていた。


「……なるほどな」


ガレスが。


小さく呟いた。


その時。


英雄の像の向こうから。


エリックとボルグが歩いてきた。


「おーい」


ミーナが手を上げる。


「遅かったですね」


ルチアが声をかける。


「ちょっとな」


ボルグが。


二人の前まで歩いてくる。


「何か分かったか?」


「はい」


ガレスが。


先ほど聞いた話を説明する。


ガルフィが十日前に目撃されていたこと。


古い魔法書を抱えていたこと。


そして。


何かに追われるように急いでいたこと。


さらに。


帰り道で自分たちがつけられていたこと。


「……」


ボルグは。


しばらく黙っていた。


エリックも。


話を聞いている。


「なるほど」


ボルグが。


低く呟く。


「面倒なことになるかもしれんな」


「どうする?」


ガレスが尋ねる。


ボルグは。


少し考えてから。


「とりあえず」


「別館に戻ろう」


「今ここで動く必要はない」


エリックが。


小さく頷く。


「……そうだな」


「杖の修理にも、二、三日はかかる」


「その間に、もう少し考えればいい」


ボルグが。


全員を見る。


「今日は戻るぞ」


「はい」


一行は。


英雄の像を後にした。


――一方。


エリシアたちは――。


ドルガン王は。


エリシアの話を。


静かに聞いていた。


「……なるほど。」


「そなたの国としては。」


「我が国との交易を。」


「進めたいということだな。」


「はい。」


エリシアは。


まっすぐに答えた。


「特に。」


「ガルリィアの武具について。」


「王国としても。」


「ぜひ取引をお願いしたいと考えております。」


ドルガン王は。


腕を組んだ。


「武具か。」


「我が国の武具を。」


「そこまで評価してもらえるのは。」


「ありがたい話だ。」


だが。


その表情は。


変わらない。


「しかし。」


エリシアは。


黙って続きを待つ。


「エリシア殿下も。」


「ご存じだと思うが。」


ドルガン王は。


ゆっくりと口を開いた。


「我が国の近隣諸国から。」


「この王都までは。」


「馬車で三日。」


「長くても四日ほどだ。」


「……はい。」


「それに比べて。」


ドルガン王は。


エリシアを見る。


「そなたの国からは。」


「十日以上かかる。」


「同じ品を仕入れるのであれば。」


「わざわざ遠い国から買う理由がない。」


エリシアは。


言葉を返せなかった。


「……おっしゃる通りです。」


ドルガン王は。


責めるような口調ではない。


ただ。


王として。


事実を述べているだけだった。


「我が国は。」


「鉱物にも恵まれている。」


「武具も。」


「国内で十分に作れる。」


「食料についても。」


「近隣の国から仕入れればよい。」


「今のところ。」


「遠方との交易を増やす必要はない。」


エリシアは。


小さく頷いた。


その時。


ヴァルドが。


口を開いた。


「父上。」


ドルガン王が。


息子を見る。


「何だ。」


「確かに。」


「交易だけを考えれば。」


「そうかもしれません。」


ヴァルドは。


エリシアを見る。


「ですが。」


「この方々が。」


「我が国へ来る途中。」


「どれだけ我が国の民のために動いたか。」


「父上も。」


「ご存じのはずです。」


ドルガン王は。


黙っている。


「道中では。」


「病に苦しむ者たちを助け。」


「鉱山では。」


「暑さに苦しんでいた者たちのために。」


「冷風を生み出す魔法陣まで作った。」


「そのおかげで。」


「救われた者は。」


「決して少なくありません。」


ドルガン王は。


しばらく黙っていた。


やがて。


「……その話は聞いている。」


低い声だった。


「我が国の民を助けてもらった。」


「そのことには。」


「深く感謝している。」


エリシアが。


頭を下げる。


「ありがとうございます。」


しかし。


ドルガン王は。


続けた。


「だが。」


「恩と国益は。」


「別の話だ。」


エリシアは。


静かに頷いた。


「……はい。」


その様子を。


王妃が。


しばらく見ていた。


そして。


ふっと。


穏やかに笑う。


「まあ。」


「せっかく遠いところから。」


「来てくださったのですもの。」


ドルガン王を見る。


「難しい話ばかりでは。」


「お疲れでしょう。」


「一度。」


「何か甘い物でも召し上がっていただいては?」


ドルガン王が。


妻を見る。


「……甘い物か。」


「ええ。」


王妃は。


微笑んだ。


エリシアも。


少しだけ笑った。


「そうですね。」


そして。


一度だけ。


後ろを見る。


「では。」


「一つ。」


「見ていただきたい物がございます。」


ドルガン王が。


眉を上げる。


「見ていただきたい物?」


「はい。」


エリシアが。


小さく手を叩いた。


パン。


すると。


控えていた従者が。


一つの四角い箱を運んできた。

ガルフィが持っていたという、古い魔法書。


まだ、その正体は分かりません。


一方、エリシアたちの外交では、いよいよエリックが関わった「あの物」が登場します。


次回も楽しんでいただければ嬉しいです。


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