第四十三話(後編):残された工房
エリシアたちが王城へ向かう一方。
エリックたちも、ガルフィ捜索へ動き始めます。
果たして、ガルフィの行方は――。
王族用の別館。
エリシアたちは、すでに出発の準備を終えていた。外交官たちは書類の入った鞄を確認し、レイナはエリシアの外套を整えている。
「それでは、行ってきます」
エリシアがエリックたちを見る。
「うん。気をつけて」
エリックの声には、わずかな不安が混じっていた。
「エリックも、無茶はしないでくださいね」
「無茶をするのは、いつも坊主のほうじゃろ」
ボルグが横から口を挟む。
「ボルグ」
「本当のことじゃ」
「……否定できない」
レイナが微笑む。
「エリシア様のことは、私たちに任せてください」
エリシアはエリックの前まで歩み寄る。
「私も、必ず良い結果を持ち帰ります」
「……約束?」
「約束です」
エリシアが小指を差し出す。エリックも自分の小指を絡めた。
「約束」
「はい」
ボルグが、わざとらしく咳払いをする。
「そろそろ出発せんと」
「分かってる」
エリシアは一度だけ後ろを振り返り、小さく手を振った。エリックも手を上げる。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
やがて、エリシアたちの姿が廊下の向こうへ消えていった。
「……行ったな」
ボルグが呟く。
「寂しいですか?」
ミーナがからかうように尋ねる。
「別に」
「顔に出ていますよ」
「出てない」
「出とるぞ」
エリックは二人を睨んだ。
「……早く行こう」
「話を逸らしたな」
ミーナが笑う。
ボルグは廊下を振り返ったあと、エリックたちに向き直った。
「さてと。ガルフィを探すぞ」
エリックの表情が引き締まる。
「……ああ」
「本当に、ガルフィさんはこの街にいるんでしょうか?」
ミーナが声を落とす。
「分からん。じゃが、手がかりがあるならこの街じゃ」
「どうして?」
「ガルフィは職人たちと付き合いが深い。武器を作る奴、防具を直す奴、素材を売る奴……そういう連中の中に、何か知っとる奴がおるかもしれん」
一行は別館を出ると、王城の門を抜け、ガルリィアの街へ向かった。
しばらく歩くと、石畳の道の両側に木造の家々が並び、その一階には店や工房が軒を連ねていた。
カン、カン、と金属を叩く音が響いている。
「すごい音。街中が工房みたいですね」
ミーナが耳を澄ます。
「実際、工房の上に職人が住んどる家も多い。朝から晩まで、何かを作っとるんじゃ」
武器屋、防具屋、革細工の店、服屋、靴職人の工房、宝飾店。通りにはさまざまな店が並んでいる。
「武器だけじゃないんだ」
「そうじゃ。ここがガルリィアじゃ。鍛冶の街と思われがちじゃが、服、靴、革細工、木工、宝飾、食器や道具を作る職人もおる」
エリックが靴屋を指差した。
「ガルフィも、靴を買ったりするのかな」
「ガルフィは自分で直すほうじゃな」
「買わないの?」
「職人というのは、気に入らんものを簡単には使わん。お前も武器や道具に妙なこだわりがあるじゃろ」
「……必要なこだわり」
「ガルフィも同じことを言っとったぞ」
ボルグは街を見渡した。
「職人たちは自分の仕事に誇りを持っとる。だからこそ、ガルフィのことを知っとる者も多いはずじゃ」
「でも、人も多い。見つけるのは簡単じゃなさそう」
「だから人手を増やしたんじゃ」
やがて。
前方に。
大きな広場が見えてきた。
広場の中央。
そこに。
巨大な石像が立っている。
「……あれ?」
エリックが。
足を止める。
「どうしたんですか?」
ミーナが。
尋ねる。
「像がある。」
「見れば分かる。」
ボルグが。
呆れたように言う。
「英雄の像じゃ。」
エリックが。
像を見上げる。
「……英雄?」
「そうじゃ。」
ボルグが。
頷く。
「昔。」
「この街を魔物の群れから救った英雄じゃ。」
ロイドが。
像を見上げる。
「へぇ……。」
「この人が。」
「勇者御一行の盾役だったのか。」
エリックが。
ロイドを見る。
「知ってるの?」
「ああ。」
ロイドが。
大剣の柄に手を置く。
「有名な話だ。」
ガレスも。
像を見上げる。
「勇者様と。」
「リシェルさんと。」
「どれくらい旅をしたんだろうな。」
「……。」
エリックも。
もう一度。
像を見る。
「リシェルと。」
「一緒だったんだ。」
「そうらしい。」
ガレスが。
答える。
「詳しいことまでは。」
「俺も知らないけどな。」
ボルグは。
黙って。
像を見上げていた。
「……。」
「ボス?」
ミーナが。
声をかける。
「なんでもない。」
ボルグが。
ゆっくりと。
視線を戻す。
「とにかく。」
「ここを。」
「今回の集合場所にする。」
ミーナが。
周囲を見る。
「ここですか?」
「そうじゃ。」
ボルグが。
像を指差す。
「何か分かったら。」
「ここへ戻ってこい。」
「誰かとはぐれてもじゃ。」
「迷った場合も。」
「とにかく。」
「この像の前へ来るんじゃ。」
エリックが。
像を見る。
「……覚えた。」
「本当か?」
「英雄の像。」
「そうじゃ。」
ボルグが。
苦笑する。
「ワシはこの街で生まれ育っとる。」
「迷うことはない。」
「じゃが。」
「お前たちは初めてじゃからな。」
ボルグは。
全員を見渡した。
「ここを。」
「目印にするぞ。」
全員が。
頷いた。
「分かりました。」
「忘れません。」
「では。」
ボルグが。
手を叩く。
「ここから。」
「三組に分かれるぞ。」
「まずは。」
「それぞれの聞き込み先を確認する。」
「何かあれば。」
「必ずここへ戻ってこい。」
「はい。」
一行は。
英雄像の前で。
それぞれの道へ分かれていった。
ボルグとエリックは。
ガルフィの家へ向かった。
「こっちじゃ」
ボルグが。
迷うことなく道を進んでいく。
やがて。
一軒の家の前で足を止めた。
「ここが?」
エリックが。
家を見る。
「そうじゃ」
ボルグが。
扉を叩く。
コンコン。
「ガルフィ。おるか?」
「……」
返事はない。
もう一度。
コンコン。
「留守か」
ボルグは。
周囲を見渡した。
「近所の職人に聞いてみるか」
二人は。
近くの工房へ向かった。
「ガルフィ?」
職人が。
首を傾げる。
「そういや……」
少し考える。
「もう十日くらい見てないな」
「十日?」
ボルグの表情が。
わずかに変わる。
「ああ」
「最後に見たのは、そのくらい前だったと思う」
「他に誰か、ガルフィを見た奴はおらんか?」
ボルグが。
周囲へ声をかける。
「おーい!」
「誰かガルフィを見かけた奴、いないか?」
工房の奥から。
別の職人が顔を出した。
「ガルフィ?」
「俺は見てないぞ」
「俺もだ」
「そういや、最近見てないな」
ボルグが。
腕を組む。
「……十日か」
「工房には行ってみたのか?」
職人が。
二人を見る。
「まだじゃ」
「だったら、工房を見てみれば?」
「家にいなくても、工房にいるかもしれん」
ボルグが。
頷く。
「そうじゃな」
エリックを見る。
「行くぞ」
「ああ」
二人は。
ガルフィの工房へ向かった。
やがて。
工房が見えてくる。
「……」
ボルグが。
玄関の前で足を止めた。
「鍵が……」
かかっていない。
ボルグが。
扉に手をかける。
「……」
少しだけ。
間を置いて。
扉を開けた。
ギィィ……。
「ガルフィ?」
返事はない。
二人が。
中へ入る。
「……」
工房の中は。
妙に静かだった。
作業台の上には。
工具がいくつも並んでいる。
使いかけの素材も。
そのまま置かれていた。
床には。
鉄屑が散らばっている。
丸められた紙クズも。
いくつか転がったままだ。
「……」
ボルグが。
足元を見る。
一つ。
二つ。
鉄屑を拾う。
そして。
工房を見渡す。
「……おかしい」
「何が?」
「ガルフィじゃ」
ボルグが。
低い声で答える。
「こんな状態にするはずがない」
エリックも。
周囲を見る。
作業台。
床。
棚。
いつもなら。
きれいに整理されているはずの場所が。
ところどころ。
乱れている。
「ワシが鍵開けの修行をしとった頃じゃ」
ボルグが。
ぽつりと呟く。
「ガルフィは、口うるさかった」
「一仕事一片付け」
「仕事を一つ終えたら。
必ず片付けろとな」
「何度も何度も怒られた」
ボルグは。
拾った鉄屑を見つめる。
「それだけじゃない」
「……?」
「工具の置き場所まで決まっとった」
「使ったら戻す」
「作業が終わったら片付ける」
「それが、ガルフィじゃ」
ボルグが。
ゆっくりと。
工房の奥を見る。
「なのに……」
「何も片付けずに」
「鍵まで開けたまま」
「……」
エリックが。
黙って工房を見渡す。
「まるで」
「途中で急に、いなくなったみたいだな」
ボルグの顔が。
険しくなる。
「……ああ」
「その可能性が高い」
「ガルフィは、自分からこんな状態を放置する奴じゃない」
「……」
しばらく。
二人とも黙っていた。
エリックが。
自分の杖を見る。
「……だったら」
ボルグが。
エリックを見る。
「なんじゃ?」
「杖、先に直さないと」
「はぁ?」
「ガルフィに何かあったなら」
エリックが。
杖を握る。
「この先、何があるか分からない」
「杖が使えないままじゃ、まずい」
「……」
ボルグは。
少し考える。
そして。
「……それもそうだな」
「ワシの信用できる知り合いに、頼んでみるか」
エリックが。
頷く。
「頼む」
二人は。
工房を後にした。
「……」
ボルグは。
一度だけ工房を振り返る。
そして。
エリックとともに。
街の中へ消えていった。
――一方。
Sランク冒険者。
《白銀の翼》の二人は。
有力な情報を掴んでいた。
とある武器屋。
店主の前で。
ガレスとロイドが。
身を乗り出していた。
「ガルフィさんなら、見かけたぞ」
ガルフィを探して、まずは工房へ。
そこに残されていたのは、少し気になる痕跡でした。
そして最後に、思わぬ情報が――。
次回も、ガルフィの行方を追っていきます。
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