↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/116

第四十一話(後編):そのはずだった

第41話(後編)です。


タグルムで始まった。


ボルグ、三回目の挑戦。


誰も開けられなかった扉に。


今度こそ。


鍵師としての腕が試されます。


そして。


エリックたちは王都へ。


ガルフィのもとへ向かいます。


果たして。


ボルグは扉を開けられるのか。


そして、王都では何が待っているのか。


それでは、第41話(後編)をお楽しみください。

――ブゥゥン。


魔法陣が。


淡く光る。


次の瞬間。


ふわっ。


冷たい風が。


坑道を流れた。


「……。」


エリシアの髪が揺れる。


レイナが。


風へ手をかざす。


「冷たい。」


休憩していたドワーフが。


恐る恐る近づく。


「おい。」


「こっちにも風が来るぞ。」


「なんだこれ。」


一人。


また一人。


作業を止めたドワーフたちが集まってくる。


暑さで汗だくだった顔が。


少しずつ緩んでいく。


「涼しい……。」


「これなら休憩が楽になる。」


「いや。」


「仕事中でも助かるぞ。」


案内役のドワーフは。


口を開けたまま。


魔法陣を見ていた。


「……。」


「こんな魔法。」


「見たことがありません。」


レイナが。


額を押さえる。


「またか。」


エリシアも。


魔法陣へ近づく。


術式を覗き込む。


「風魔法に。」


「冷却術式を組み合わせて……。」


「その場で組み替えたんですか?」


「うん。」


エリックは。


当たり前のように答える。


「普通だろう。」


「「どこがだ。」」


レイナとエリシアの声が。


見事に重なった。


「……。」


エリックは。


少し首を傾げる。


案内役のドワーフが。


ようやく我に返る。


そして。


エリシアへ深く頭を下げた。


「エリシア様。」


「凄い魔法使いを従えておられるのですね。」


エリシアは。


少し困ったように。


エリックを見る。


「いえ。」


「本人は。」


「新米農家と言っています。」


「……。」


案内役が。


エリックを見る。


冷風を吹き続ける魔法陣を見る。


もう一度。


エリックを見る。


「……農家?」


エリックが。


頷く。


「うん。」


「新米。」


「……。」


案内役の口が。


また開いた。


レイナが。


苦笑する。


「本人は本気だ。」


「はい。」


エリシアも。


頷いた。


「本気なんです。」


周りのドワーフたちは。


冷たい風を浴びながら。


顔を見合わせる。


エリックは。


真面目な顔で頷いた。


「うん。」


「新米。」


案内役は。

あんぐりと口を開けたまま、何も言えなかった。


その頃――。


街のドワーフの店では。


別の勝負が。


静かに始まっていた。


「好きな道具を使っていいよ。」


グレナが。


店の中を指差す。


壁には。


大小様々な工具が並んでいる。


細い針。


小さな金具。


奇妙な形をした道具。


鍵師が使うものなのだろう。


「どれを使っても?」


「もちろん。」


グレナが。


煙管を咥える。


そして。


火をつけた。


「ルールは簡単。」


紫煙が。


ゆっくりと立ち上る。


「魔法は禁止。」


「それだけだよ。」


ボルグが。


頷く。


「知っとる。」


グレナは。


煙管を一度。


口から離す。


「それから。」


「私がこの煙管を吸い終わるまでに。」


「二つとも開けられたら。」


ニヤリと笑う。


「賞金を出すよ。」


「……。」


店内のドワーフたちが。


ざわつく。


「始めるぞ。」


グレナが。


煙管を咥える。


ボルグは。


店内を見回した。


そして。


一つの道具を手に取る。


古びた。


聴診器のような道具。


「……。」


扉の前へ。


ゆっくり歩いていく。


「まずは。」


扉へ。


道具を当てる。


「聞く。」


「……?」


ミーナとルチアが。


顔を見合わせる。


ボルグは。


目を閉じる。


扉の向こう。


鍵穴の奥。


内部の機構。


金属の微かな振動。


「……。」


カチ。


ほんの小さな音。


ボルグの口元が。


わずかに動く。


「なるほどのう。」


グレナが。


煙管を咥えたまま。


目を細める。


「……聞くのかい。」


ボルグは。


扉から離れない。


「鍵にはな。」


「作った者の癖が残る。」


「音にも。」


「手にも。」


「そして。」


もう一度。


道具を扉へ当てる。


「声にも。」


「……。」


店内が。


静まり返る。


ボルグは。


扉の声を。


聞いていた。


ボルグは。


聴診器のような道具を。


ゆっくり外した。


鍵穴には。


まだ一度も。


触れていない。


店内のドワーフたちが。


不思議そうに見守る。


「……。」


ボルグは。


扉に刻まれた文字へ。


視線を移した。


幾重にも刻まれた。


見慣れない古代文字。


指でなぞることもせず。


ただ。


じっと見る。


「……。」


一つ。


二つ。


三つ。


文字の並びを。


追っていく。


やがて。


ボルグの口元が。


ほんの少し。


上がった。


「……なるほど。」


グレナが。


煙管を咥えたまま。


目を細める。


ボルグが。


ニヤリと笑う。


「さては……。」


その言葉に。


店内の空気が。


変わった。


「さては……。」


ボルグが。


ニヤリと笑う。


「同時解放式施錠じゃな。」


「……!」


店内のドワーフたちが。


ざわめく。


「おい!」


「ボルグが何か分かったらしいぞ!」


「すげぇぜ、ボルグさん!」


「三回目でついに見抜いたのか!」


歓声が。


店内に広がる。


だが。


ボルグは。


浮かれなかった。


扉を見つめたまま。


静かに呟く。


「……分かったからと言って。」


「簡単に開けられる物じゃない。」


店内が。


静かになる。


グレナが。


煙管を咥えたまま。


ニヤリと笑った。


「そういうことさ。」


ボルグは。


再び道具を選び始める。


「さて。」


「ここからじゃな。」


ボルグは。


二つの鍵穴を見比べる。


そして。


二本の道具を。


それぞれの鍵穴へ差し込んだ。


「……。」


店内が。


静まり返る。


ボルグが。


両手に力を込める。


カチ。


カチ。


二つの音が。


ほぼ同時に響いた。


だが。


「……。」


片方だけ。


ほんの僅かに遅れた。


ボルグが。


手を止める。


「……やはりなぁ。」


グレナが。


煙管を咥えたまま。


目を細める。


「何がだい?」


ボルグは。


扉を見たまま。


小さく笑った。


「作品には。」


「作者の思いが乗るもんだ。」


そして。


グレナを見る。


「そういえば。」


「昔から好きだったな。」


「お前さん。」


「……。」


グレナの眉が。


ほんの少し動く。


ボルグは。


懐から小さな容器を取り出した。


中身を。


口に含む。


「何してるんだい?」


グレナが。


訝しげに見る。


ボルグは。


答えない。


そのまま。


遅れていた方の鍵穴へ。


顔を近づける。


「ふっ。」


吹き付ける。


シュッ。


液体が。


鍵穴の奥へ入り込む。


カチ。


カチ……。


内部で。


小さな音が鳴った。


ボルグが。


ニヤリと笑う。


「これで。」


「少しは素直になるじゃろう。」


カチ。


もう一度。


小さな音が響く。


ボルグが。


二つの鍵穴へ。


同時に道具を差し込む。


「……。」


ゆっくり。


力を加える。


カチ。


カチ。


今度は。


二つの音が。


ほとんど同時に鳴った。


「おおっ!」


店内から。


声が上がる。


「いけるぞ!」


「今度こそ開くんじゃないか!?」


だが。


ボルグは。


手を止めた。


「……まだじゃ。」


「え?」


「最後の一手がある。」


ボルグは。


扉に耳を当てる。


コン。


指先で。


扉を軽く叩く。


コン。


もう一度。


場所を変える。


コン。


「……。」


ボルグが。


目を細める。


「なるほど。」


グレナが。


煙管を口から外す。


「何が分かったんだい?」


「お前さん。」


ボルグが。


笑う。


「本当に性格が悪いのう。」


「褒め言葉として受け取っておくよ。」


店内から。


笑い声が起こる。


ボルグは。


再び道具を選ぶ。


今度は。


先ほどまで使っていなかった。


細い金具。


そして。


小さな板状の道具。


二つを手に取る。


「……。」


二つの鍵穴へ。


同時に差し込む。


「今度は。」


「遅れんようにせんとな。」


ボルグが。


両手を動かす。


右。


左。


ほんの僅かな差を。


修正する。


カチ。


カチ。


カチ。


内部から。


複数の音が重なる。


グレナの煙管から。


煙が細く立ち上る。


残りは。


あと僅か。


ボルグの額に。


汗が浮かぶ。


それでも。


手は止まらない。


「……。」


カチ。


カチ。


――ガチャン。


二つの鍵穴から。


同時に音が響いた。


「……!」


店内が。


静まり返る。


ボルグが。


ゆっくりと。


扉へ手をかける。


そして。


押す。


ギィィ……。


扉が。


ほんの少し。


動いた。


「おおおおっ!!」


店内から。


歓声が上がる。


グレナが。


煙管を口から外す。


「……開いたね。」


ボルグが。


振り返る。


そして。


ニヤリと笑った。


「三回目じゃ。」


グレナも。


笑う。


「ああ。」


「三回目で。」


「ようやくだ。」


ボルグは。


扉を閉める。


そして。


グレナを見る。


「賞金はいらん。」


「……。」


グレナが。


眉を上げる。


「どうして?」


ボルグは。


道具をしまいながら。


答える。


「ワシは。」


「仕事をしただけじゃからな。」


店内のドワーフたちから。


「おお……。」


という声が漏れる。


グレナは。


少しだけ笑った。


「相変わらずだね。」


「何がじゃ?」


「そういうところさ。」


ボルグは。


鼻を鳴らす。


「うるさいわい。」


店内に。


笑い声が広がった。


グレナが。


煙管を咥え直す。


「次は。」


「もっと凄い物を作るからね。」


ボルグは。


振り返る。


「ああ。」


「待ってる。」


「……。」


ミーナとルチアが。


顔を見合わせる。


「やりましたね。」


「ついにね。」


「楽しみですね。」


「ですね。」


「何故か感動しましたね。」


「来てよかったです。」


二人は。


小さく頷く。


「任務完了です。」


「了解です。」


少し離れたところから。


ボルグの声が飛んでくる。


「……何の任務じゃ。」


ミーナとルチアが。


同時に。


「「秘密です。」」


「……。」


ボルグは。


二人を見る。


そして。


小さく。


口元を緩めた。


「……そうかい。」


そう呟くと。


何も言わず。


歩き出した。


大使館へ戻る道。


ミーナが。


ふと。


ボルグを見る。


「そういえば。」


「どうして鍵穴に吹きかけたんです?」


ルチアも。


首を傾げる。


「私も気になってました。」


ボルグが。


歩きながら。


答える。


「ヤニがな。」


「ヤニ?」


「うむ。」


「グレナの煙管のヤニじゃ。」


二人が。


顔を見合わせる。


「……。」


ボルグが。


小さく笑う。


「作品の声が聞こえたからな。」


「作品の……声?」


「そうじゃ。」


「扉の音を聞けば。」


「作った奴の癖も見えてくる。」


「グレナの鍵は。」


「昔から少しだけ渋い。」


「だから。」


「ヤニを溶かす薬を使ったんじゃ。」


ミーナが。


感心したように。


「なるほど……。」


ルチアも。


頷く。


「やっぱり凄いですね。」


ボルグは。


少しだけ口元を緩める。


「鍵師なら。」


「そのくらいは分からんとな。」


二人が。


顔を見合わせる。


「……。」


ミーナとルチアが。


顔を見合わせる。


「……やっぱり。」


「ですね。」


ボルグが。


振り返る。


「何がじゃ?」


「何も言ってない。」


「言ってませんよね。」


「……。」


ボルグが。


二人を見る。


「本当にか?」


「はい。」


「何も。」


「……。」


一瞬。


静寂。


そして。


ボルグが。


「グハハハハ!」


豪快に笑った。


「好きにせい!」


ミーナとルチアも。


思わず笑う。


三人は。


そのまま。


大使館へ向かって歩いていった。


その日の夜。


一行は。


大使館の食堂で。


夕食を囲んでいた。


大使館の責任者が。


一行を見渡す。


「皆様。」


「明日の朝には、出発の準備が整います。」


エリシアが。


頷く。


「ありがとうございます。」


責任者が。


続ける。


「王都までは。」


「順調に進めば、二日ほどです。」


「二日……。」


レイナが。


呟く。


ボルグが。


頷いた。


「いよいよじゃな。」


ミーナとルチアが。


顔を見合わせる。


「王都ですね。」


「ですね。」


エリシアが。


微笑む。


「ガルフィさんにも。」


「会えるといいですね。」


その言葉に。


ボルグの表情が。


少しだけ変わる。


「うむ。」


「師匠には。」


「直接、エリックの杖を見てもらわねばならん。」


エリックが。


顔を上げる。


「直る?」


「師匠なら。」


ボルグが。


少し笑う。


「何とかしてくれるじゃろう。」


エリックが。


頷く。


「うん。」


そして。


また食事に戻る。


大使館の責任者が。


少し不思議そうに。


ボルグを見る。


「ガルフィ殿は。」


「それほど腕の立つ職人なのですか?」


ボルグが。


当然のように答える。


「ワシの師匠じゃからな。」


「それだけで十分じゃ。」


ミーナとルチアが。


顔を見合わせる。


「私たちの杖を作った人も。」


「王都なら分かるかもしれませんね。」


「ですね。」


そして。


小声で。


「楽しみですね。」


「ですね。」


二人は。


顔を見合わせる。


王都までは。


あと二日。


そこには。


エリックの杖を作った男。


そして。


ボルグが師と仰ぐ男。


ガルフィがいる。


――そのはずだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


タグルムでの滞在も終わり。


ボルグは三回目の挑戦で、ついに扉を開くことができました。


そして一行は、いよいよ王都へ。


エリックの杖を作った職人。


そして、ボルグの師匠でもあるガルフィ。


果たして、王都で無事に再会できるのでしょうか。


次回から、また物語が大きく動き始めます。


ここまで読んで「続きが気になる!」と思っていただけましたら、

ぜひ★評価やブックマークで応援していただけると嬉しいです。


皆さんの応援が、執筆の励みになります。


次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。