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第40話(前編):盗むしかなかった

第40話前編です。


国境で起きた夜襲。


エリックの一言から始まった出来事は、思わぬ方向へ進んでいきます。


盗賊たちは、なぜこんなことをしたのか。


そして――。


エリシアが取った行動とは。


ここから少しずつ、新しい物語が動き始めます。


それでは、第40話前編をお楽しみください。

「……どういうことですか?」


レイナが。


エリックを見る。


エリックは。


丘の下へ視線を向けた。


「一枚目。」


「……?」


「防壁。」


エリシアも。


防壁を見る。


「何かしたのですか?」


「うん。」


エリックは。


あっさり頷く。


「寝る前に。」


「追跡式拘束魔法陣を描いた。」


「……。」


レイナが。


一瞬、言葉を失う。


その時だった。


丘の下から。


「ぐっ……!」


「な、なんだ!?」


「動けねぇ!」


盗賊たちの声が響いた。


一人。


また一人。


身体がその場へ縫い付けられるように。


地面へ膝をつく。


手にしていた武器も。


次々と地面へ落ちていった。


ガラン。


ガラン。


ガラン。


「な……。」


レイナが。


丘の下を見る。


さっきまで必死に登ってきていた盗賊たちが。


全員。


その場で動けなくなっていた。


「……本当に。」


エリシアが。


目を丸くする。


「捕まっています。」


「うん。」


エリックは。


何でもないように答える。


レイナが。


ゆっくりとエリックを見る。


「……いつ仕掛けた?」


「防壁を張ったあと。」


「私が?」


エリシアが。


自分を指差す。


「うん。」


「……私が寝たあとですか?」


「うん。」


「……。」


エリシアは。


しばらく黙った。


「何をしているのかと思ったら……。」


「防壁が綺麗だったから。」


「……。」


「描きやすかった。」


「…………。」


エリシアの口元が。


ほんの少しだけ引きつった。


レイナが。


深く息を吐く。


「お前は……。」


だが。


それ以上は言わなかった。


丘の下では。


盗賊たちが。


必死に拘束を解こうとしている。


「くそっ!」


「動けねぇ!」


「何だこれ!?」


一人のドワーフが。


自分の腕を見る。


その表情には。


驚きと困惑が浮かんでいた。


エリックは。


その様子を見ながら。


小さく呟く。


「……これなら。」


「話せる。」


エリシアが。


静かに頷いた。


「はい。」


そして。


もう一度。


丘の下へ目を向ける。


その視線の先には。


今朝、村で見た子供たちがいた。


「まずは。」


エリシアが。


ゆっくり立ち上がる。


「話を聞きましょう。」


丘の下。


拘束されたドワーフたちと子供たちの前へ。


エリシアたちが。


静かに歩み寄る。


「……。」


ラグノ村のリーダー。


ダガンが。


地面に膝をついたまま。


エリシアたちを睨みつける。


「殺せ。」


吐き捨てるように。


言った。


「……殺しません。」


エリシアは。


ゆっくりと歩み寄る。


「ただ……どうして、こんなことをしたのか教えてほしいのです。」


「ハッ……!」


ダガンが。


鼻を鳴らす。


「教えたら助けてくれるのか? 貴族様の同情なんざ――」


「教えて。」


隣に立ったエリックが。


淡々と言った。


「話が進まない。」


「……あ?」


ダガンが。


エリックを見る。


レイナが。


一歩前へ出る。


「どんな理由があろうと、街道で旅人を襲った罪は消えない。」


「罪……だと?」


ダガンの瞳に。


怒りが宿る。


「じゃあ、俺たちはどうすりゃよかった!」


「……。」


「村じゃ病気が広がってる。大人の半分が倒れた。薬を買う金もない。作物もろくに実らねぇ。それでも領主は年貢を取り立てる。」


ダガンは。


拳を握りしめる。


「食べるものすら無くなったんだ。」


その後ろで。


子供たちが。


不安そうに身を寄せ合っている。


「だから……。」


ダガンは。


歯を食いしばる。


「盗むしかなかった。」


「……鉱熱病か。」


低い声が。


夜の静寂を破った。


ボルグだった。


「アレは、ドワーフの身体すら蝕む病じゃ。薬がなければ危険なことも分かる。」


ダガンが。


驚いたようにボルグを見る。


「だったら……!」


「じゃが。」


ボルグの声が。


鋭くなる。


「子供まで連れて街道で人を襲うことが、許されるわけではない。」


「……。」


ダガンは。


俯いた。


「同族の苦境を見過ごすつもりはない。」


ボルグは。


静かに続ける。


「じゃが、必死になる方向を間違えれば、それは罪になる。」


「……。」


ボルグが。


エリシアを見る。


「エリシア様。この者たちの言葉に、嘘はないように思えます。」


「はい。」


エリシアは。


静かに頷いた。


そして。


ダガンの前へ歩み寄る。


「エリシア様!」


レイナが。


慌てて声を上げる。


「大丈夫です。」


エリシアは。


そのまま地面に膝をついた。


「……!」


ダガンが。


息を呑む。


エリシアは。


真っ直ぐにダガンを見る。


「ダガンさん。」


「……。」


「鉱熱病の患者さんは、村にどれくらいいるのですか?」


ダガンは。


しばらく黙っていた。


やがて。


絞り出すように答える。


「……大人の半分だ。」


一拍。


「それと……子供が二人。」


「高熱で倒れてる。」


「……分かりました。」


エリシアは。


ゆっくりと立ち上がる。


そして。


エリックを見る。


「エリックさん。」


「ん。」


「村へ行きましょう。」


エリックが。


丘の下にある村を見る。


「病気?」


「はい。」


エリシアは。


迷いなく頷く。


「まずは、患者さんを見せてもらいましょう。」


「治せるかは……まだ分かりません。」


それでも。


エリシアの瞳に。


迷いはなかった。


「ですが。」


「何もしないままにはできません。」


エリシアは。


村へ視線を向ける。


「私にできることをします。」


エリックは。


ミーナとルチアを見る。


「……。」


二人の頭を。


軽く叩いた。


「偉いぞ。」


「……。」


「……。」


ミーナとルチアが。


顔を見合わせる。


「ボスが褒めてくれました。」


ミーナが。


「くれましたね。」


ルチアも頷く。


「殺さず良かったです。」


「ですね。」


二人は。


丘の下にいるドワーフたちを見る。


「……今回は。」


ミーナが呟く。


「コイツらを殺すのは、保留です。」


「了解です。」


ルチアが頷いた。


「……。」


レイナが。


「お前ら、何の相談をしているんだ……。」


「「秘密です。」」


「そうと決まれば、急ぐぞ。」


レイナが。


馬の背に飛び乗る。


ボルグも。


隣の馬へ跨がった。


エリシアも。


馬へ乗る。


「……。」


その場に。


エリックだけが残った。


「……乗れない。」


「知ってる。」


レイナが。


手を差し出す。


「後ろに乗れ。」


エリックは。


レイナの手を取り。


そのまま後ろへ跨がった。


「落ちるなよ。」


「ん。」


レイナが。


馬の腹を蹴る。


馬たちが。


一斉に走り出した。


そのまま。


一行はラグノ村へ向かった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


今回は、国境で出会った盗賊たちの事情が明らかになりました。


一見すると、ただの盗賊。


けれど、その裏には村で起きている問題がありました。


そしてエリシアは、見過ごすことができません。


ここからラグノ村へ向かうことになります。


エリックたちの旅が、また少し違った方向へ進んでいきます。


次回も楽しんでいただければ嬉しいです。

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