第38話(後編):ミューレの湖と不作の原因
前編で提示された、ミューレの街を悩ませる不作の謎。
今回は、エリックたちがそれぞれの方法で原因を探ります。
真面目に調査する者。
勘を頼りに動く者。
そして――釣りをする者。
エリックの「漫画家脳」が、今回も思わぬところで役に立つことになります。
それでは、第38話後編です。
湖のほとり。
エリックは。
周囲を見渡した。
「滝あるし。」
エリシアも。
エリックの視線を追う。
湖へ流れ込むように。
少し離れた場所から滝が流れている。
「本当ですね。」
「湖の周囲には、たくさんの花も咲いています。」
エリシアが。
辺りを見渡す。
色とりどりの花が。
湖を囲むように咲いていた。
「これだけ綺麗な場所なら。」
「散歩するだけでも楽しそうですね。」
エリックは。
湖の大きさを見る。
「……。」
「町の方から湖を一周するなら、小一時間ほどでしょうか。」
エリシアが。
そんなことを考えていると。
エリックが。
滝へ視線を向ける。
「これ。」
一拍。
「見開きだろ。」
「……見開き?」
エリシアが。
首を傾げる。
「うん。」
エリックは。
それ以上説明しなかった。
そして。
何事もなかったように。
釣竿を取り出す。
「釣るか。」
「……はい。」
エリシアも。
釣竿を手に取る。
二人は。
湖のほとりへ並んで座った。
ポチャン。
仕掛けが。
静かな湖面へ落ちる。
二人は。
浮きを眺めていた。
「……。」
「……。」
風が。
湖面を撫でる。
浮きは。
動かない。
しばらくして。
エリシアが。
立ち上がった。
「……。」
湖を覗き込む。
何も見えない。
少し歩く。
別の場所から。
また湖を覗く。
「……。」
戻ってくる。
エリックは。
同じ場所に座ったまま。
浮きを見ている。
「……。」
さらに。
しばらく経つ。
エリシアは。
また立ち上がった。
今度は。
湖の反対側まで歩いていく。
水面を見る。
岸辺を見る。
そして。
戻ってくる。
「……。」
エリックは。
まだ動いていない。
やがて。
エリシアが。
隣へ戻ってきた。
「エリックさん。」
「ん?」
エリシアは。
浮きを見る。
そして。
少し困ったように。
「釣れませんね。」
エリックは。
浮きを見たまま。
「だろうな。」
「……。」
エリシアが。
ゆっくりとエリックを見る。
「……だろうな?」
エリックは。
何も答えない。
ただ。
静かな湖面を眺めていた。
一方。
レイナとボルグは。
町の裏手にある山道を進んでいた。
「この辺りじゃ。」
ボルグが。
周囲を見渡す。
「昔、この辺りに洞穴があった。」
「魔物が住み着いていたんですか?」
「うむ。」
ボルグは。
頷いた。
「わしがここへ来たのは。」
「百年ほど前じゃったかのう。」
「百年……。」
レイナが。
少し驚く。
「そんな昔ですか?」
「確か百三年か、四年前じゃ。」
「……。」
レイナは。
しばらく黙った。
「それは……。」
「覚えているんですか?」
「ドワーフを舐めるでない。」
ボルグが。
髭を撫でる。
「昔のことでも、覚えておるわい。」
「なるほど。」
二人は。
さらに山道を進む。
やがて。
ボルグが足を止めた。
「……この辺りじゃ。」
レイナも。
周囲を見渡す。
「洞穴は?」
「……。」
ボルグは。
岩肌を見る。
「ないのう。」
「崩れたのでしょうか?」
「おそらくな。」
レイナが。
周囲を確認する。
土砂。
岩。
伸び放題になった草木。
洞穴があったと思われる場所は。
完全に塞がっていた。
「ここでは調査できませんね。」
「うむ。」
ボルグは。
少し考える。
「ならば。」
「別の場所を探すかのう。」
レイナが。
剣に手を添える。
「行きましょう。」
二人は。
再び山の奥へ進んでいった。
一方。
ガレスとロイドは。
町の向こうに広がる森へ入っていた。
「……。」
ガレスが。
足元を見る。
折れた枝。
獣の足跡。
木々についた爪痕。
一つずつ確認していく。
「どうだ?」
ロイドが。
周囲を見渡す。
「今のところ。」
ガレスは。
首を横に振った。
「大型はいない。」
「小型ばかりだな。」
二人は。
さらに森の奥へ進む。
「畑を荒らすような魔物なら。」
「何かしら痕跡が残るはずだ。」
ガレスが。
地面を確認する。
「食い荒らした跡。」
「巣。」
「糞。」
「何か一つくらいはな。」
ロイドが。
大剣を担ぎ直す。
「それすらない?」
「ない。」
「……。」
二人は。
黙って森を見渡す。
しばらくして。
ロイドが。
小さく息を吐いた。
「おかしいな。」
「何が?」
「不作の原因が魔物じゃないなら。」
「そもそも俺たちは何を探してるんだ?」
ガレスは。
少し考える。
「それを探してるんだろ。」
「……なるほど。」
二人は。
再び森の奥へ歩き出した。
一方。
ミーナとルチアは。
町の近くにある林を歩いていた。
「……。」
ミーナが。
足を止める。
「こっちです。」
ルチアが。
首を傾げる。
「何か感じますか?」
「……なんとなく。」
ミーナは。
林の奥を見る。
「何かありそうな気がします。」
「なるほど。」
ルチアも。
真剣な顔で頷く。
「私も。」
二人は。
顔を見合わせる。
「やっぱり。」
「ここですね。」
意気揚々と。
林の奥へ進んでいく。
しばらく歩く。
「……。」
「……。」
何もない。
さらに進む。
「……。」
「……。」
やはり何もない。
ミーナが。
木の陰を覗く。
ルチアも。
別の方向を見る。
しかし。
魔物も。
異常も。
何も見つからない。
「……。」
ミーナが。
小さく首を傾げる。
「おかしいですね。」
「何がです?」
「何かあると思ったんですが。」
ルチアも。
少し考える。
「……勘ですからね。」
「そうでした。」
二人は。
顔を見合わせる。
そして。
「もう少し探しましょう。」
「はい。」
二人は。
再び林の奥へ進んでいった。
しばらくして。
エリックは。
釣竿を上げた。
「終わり。」
「もうですか?」
「釣れないし。」
「……そうですね。」
エリシアも。
釣竿を片付ける。
二人は。
湖の周りを歩き始めた。
「綺麗ですね。」
エリシアが。
足元を見る。
「湖の周囲には、たくさんの花が咲いています。」
エリックは。
その中の一輪で足を止めた。
青い小さな花。
「これ。」
「はい?」
エリックが。
花に手をかざす。
「鑑定。」
淡い光が。
青い花を包む。
「……。」
エリックの目に。
鑑定結果が浮かぶ。
《青鈴花》
《汚染に強い性質を持つ》
「……。」
エリックは。
鑑定結果を見つめる。
エリシアが。
エリックの顔を覗き込む。
「何か見えました?」
エリックは。
花を見る。
「青鈴花。」
「……青鈴花?」
「うん。」
それだけだった。
エリックは。
花から視線を外す。
湖を見る。
「……。」
もう一度。
青鈴花を見る。
そして。
湖の向こうへ目を向ける。
「……やはりそうか。」
「え?」
エリシアが。
エリックを見る。
しかし。
エリックの視線は。
すでに別の場所へ向いていた。
滝。
「……。」
エリックは。
しばらく滝を見る。
「見開きじゃない。」
「……はい?」
「導線だ。」
エリックは。
立ち上がる。
「滝の方に行こ。」
「滝……ですか?」
「うん。」
エリックは。
そのまま歩き出した。
エリシアは。
「……導線?」
「どういう意味でしょう?」
理解できないまま慌てて後を追った。
湖のほとりを離れ。
二人は滝へ続く道を進んでいく。
近づくにつれて。
水音が大きくなる。
ザァァァァ……。
エリックは滝を見上げる。
「ここ。」
「はい?」
「裏。」
「滝の裏ですか?」
「うん。」
二人は岩場を回り込み。
滝の水しぶきを避けながら、奥へ進んだ。
そして。
滝の裏側へ入る。
「……暗いですね。」
「エリックさん。」
「ん?」
「明かりが必要です。」
「魔法は?」
「使えます。」
エリシアが手を伸ばす。
「光よ。」
淡い光球が浮かび上がった。
洞窟の奥が。
青白く照らされる。
「便利。」
「簡単な魔法ですけど。」
エリシアが。
少し嬉しそうに笑う。
二人は。
光球を先頭に奥へ進んでいく。
そして。
エリシアが足を止めた。
「……。」
岩陰に。
何かが積み重なっている。
白い骨。
茶色く変色した毛。
そして。
巨大な身体。
「……エリックさん。」
「ん?」
「あれ……。」
エリックが。
光の先を見る。
「……ネズミ。」
一匹ではない。
二匹。
三匹。
その奥にも。
何十体もの巨大なネズミの死骸が。
折り重なるように転がっていた。
「……こんなに。」
エリシアが。
口元を押さえる。
エリックは。
しばらく死骸を見ていた。
そして。
「焼く。」
「え?」
「腐るし。」
エリシアが。
少し驚いた顔でエリックを見る。
エリックは。
死骸を見たまま。
「可哀想だろ。」
「……。」
エリシアは。
少しだけ目を丸くした。
「……そうですね。」
エリックは。
手を伸ばす。
炎が。
静かに死骸を包んだ。
洞窟の中に。
小さな炎が広がっていく。
やがて。
ネズミたちの姿は。
炎の向こうへ消えていった。
エリックは。
炎が消えるのを確認する。
そして。
洞窟の奥を見る。
そこには。
滝の水が。
細い流れとなって続いていた。
エリックが。
その水を見る。
そして。
湖の方向へ視線を向ける。
「……。」
エリシアも。
その視線を追う。
「まさか……。」
エリックは。
答えない。
ただ。
もう一度。
青鈴花を思い出す。
「……繋がった。」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回はミューレの不作の原因を探るお話でした。
……とはいえ。
エリック本人は、最初から最後まで「釣りしたい」という気持ちの方が強かったりします。
釣りをして。
釣れなくて。
周りを見て。
気になるものを見つけて。
気づけば、不作の謎に近づいていました。
本人としては、たぶん調査しているつもりはありません。
そして今回のポイントは、
「見開きじゃない。導線だ。」
というエリックの一言。
漫画家としての視点が、思わぬ形で謎を繋いでいきます。
果たして、ミューレの不作の原因とは――。
次回も、エリックたちのスローライフをお楽しみください。




