第三十七話(前編) : 四コマ目が足りない
今回は、少し物騒なお話です。
エリシアを狙う、謎の男たち。
それに気づいてしまったルチアとミーナは、二人だけで動くことに。
……果たして、無事に事件を解決できるのか。
そして。
今回もエリックは、いつも通りのエリックです。
それでは、どうぞ。
その時。
「……何してるんだ?」
背後から声がした。
「「…………。」」
二人が振り返る。
そこには。
エリックが立っていた。
「……エリックさん。」
「ん?」
「少し、お力をお借りしたいのですが。」
「何?」
ルチアが路地裏を見る。
「エリシア様を愚弄する者がいます。」
「……。」
エリックも路地裏を見る。
「さっきの奴ら?」
「はい。」
「エリシア様の暗殺を企てていました。」
「……。」
ミーナが続ける。
「尾行したいのです。」
「尾行?」
「はい。」
「嫌だ。」
即答だった。
「…………。」
「…………。」
二人の足が。
カタカタ。
カタカタ。
再び震え始める。
「……お願いします。」
「嫌だ。」
「エリックさんがいてくだされば、心強いのですが。」
「レイナに頼め。」
「…………。」
二人が振り返る。
少し離れた場所には。
エリシアと話をしているレイナの姿。
「……。」
「……。」
二人は顔を見合わせる。
「レイナさんにお願いしましょうか。」
「はい。」
「…………。」
その時。
ミーナが何かを思いついたように。
エリックを見る。
「……。」
「……?」
「お米の種。」
「ん?」
「少しですが……持っています。」
エリックの目が変わった。
「行く。」
「ありがとうございます!」
その瞬間。
カタカタ。
カタカタ。
――ピタッ。
二人の足が、完全に止まった。
「…………。」
「…………。」
エリックは気づいていない。
「どこ?」
「こちらです。」
「うん。」
二人は何事もなかったように歩き出す。
そして。
ルチアが小声で呟いた。
「……釣れましたね。」
「はい。」
「……お米、強いですね。」
「最強です。」
三人は。
男たちの後を追った。
大通りを抜け。
細い路地へ入る。
さらに。
人通りの少ない裏路地へ。
「……。」
エリックは黙って歩いている。
その隣では。
ルチアとミーナが慎重に周囲を確認していた。
やがて。
先を歩いていた男たちが足を止める。
「……。」
三人も。
物陰で足を止めた。
男たちの前には。
古びた建物があった。
壁にはひびが入り。
窓はところどころ割れている。
長い間、使われていないようにも見える。
「……あそこですね。」
ミーナが小声で呟く。
「はい。」
ルチアも頷く。
男の一人が周囲を確認する。
そして。
古びた扉を開けた。
ギィィ……。
男たちが中へ入っていく。
最後の一人が周囲を確認し。
扉を閉める。
バタン。
「……。」
三人は。
しばらく建物を見つめていた。
「……アジトでしょうか?」
「たぶん。」
ルチアが答える。
ミーナがエリックを見る。
「どうしましょう?」
「どうするって?」
「中へ入ります。」
「……。」
エリックは建物を見る。
「作戦は?」
ミーナが杖を握る。
「私が囮になります。」
「中へ飛び込みます。」
「エリックさんには、防壁魔法をお願いします。」
「うん。」
エリックが頷く。
「それで?」
ルチアが杖を握る。
「私は攻撃魔法で――」
一拍。
「皆殺しにします。」
「殺すのは禁止。」
エリックが即答した。
「……。」
「……。」
二人は顔を見合わせる。
ルチアが建物を睨む。
「……あんな奴らは。」
ミーナも頷く。
「殺すしかないです。」
「殺すしかないですね。」
「……。」
エリックは二人を見る。
「お前たち。」
「はい?」
「確か親衛隊って言ってたよな。」
「はい。」
「そうです。」
エリックは少し考える。
「……。」
そして。
「席、変わってやる。」
「「…………!」」
二人の目が輝いた。
「お願いします!」
「お願いします!」
声まで揃った。
「その代わり。」
エリックが二人を見る。
「捕まえる。」
「はい!」
「殺さない。」
「ですね!」
二人は同時に頷いた。
そして。
ミーナが真剣な顔でエリックを見る。
「エリックさん。」
「ん?」
「今日から。」
一拍。
「ボスとお呼びします。」
「私もです。」
「……。」
エリックは二人を見る。
「なんで?」
「エリシア様の隣の席を譲ってくださるので。」
「ボスです。」
「……。」
エリックは呆れた顔をした。
「チョロいな。」
「はい、ボス。」
「はい、ボス。」
「そこは否定しろよ。」
二人は嬉しそうに笑った。
「では、ボス。」
ミーナが古びた建物を見る。
「作戦を開始します。」
「うん。」
エリックは頷いた。
「捕まえるぞ。」
「はい!」
「はい、ボス!」
二人は、そっと顔を寄せる。
そして、小さな声で。
「……禁止ですね。」
「禁止です。」
「良かったです。」
「ですね。」
二人は満足そうに頷いた。
「……。」
「……行きます。」
ミーナが古びた建物を見る。
そして。
一歩。
踏み出した。
次の瞬間――。
ダンッ!!
地面を蹴った。
小さな身体が。
一気に建物へ飛び込んでいく。
「なんだ!?」
男が振り返る。
ミーナの杖が閃いた。
カチッ。
柄の一部が開く。
その中から。
細身の刃が滑り出した。
「――ッ!」
男が剣を振る。
ガキィン!!
ミーナの目の前に。
防壁が展開した。
一枚。
二枚。
三枚。
攻撃を受けるたび。
防壁が次々と展開する。
ミーナは止まらない。
防壁に守られながら。
さらに懐へ潜り込む。
「遅いです。」
ヒュッ!!
刃が閃く。
男が慌てて後ろへ飛び退く。
「な、なんだこいつ……!」
ミーナは。
さらに踏み込んだ。
その背後。
静かに。
ルチアが建物へ入ってくる。
「……。」
杖を構える。
魔力が。
ゆっくりと集まり始めた。
ルチアの杖の先に。
魔力が集まる。
「――。」
次の瞬間。
ドンッ!!
床が弾けた。
「うわっ!?」
男たちが一斉に飛び退く。
「何だ!?」
「魔法だ!」
その隙に。
ミーナが走る。
ダッ!!
一人。
二人。
三人。
敵の間をすり抜ける。
「こいつ……!」
男が剣を振る。
ガキィン!!
防壁が受け止める。
ミーナは止まらない。
身体を沈め。
剣の下を潜り抜ける。
カチッ。
杖の中から刃が滑り出す。
ヒュッ!!
男の手から剣が弾き飛ばされた。
「ぐっ!」
そのまま。
ミーナは次の男へ。
「速い……!」
「捕まえろ!」
男たちが一斉に襲いかかる。
だが。
ミーナの周囲には。
次々と防壁が展開する。
ガキン!
ガキィン!
攻撃を受けるたび。
防壁が砕ける。
しかし。
その直後。
新しい防壁が展開する。
「な、なんだこの防壁……!」
ミーナは。
その隙を逃さない。
「――そこ。」
ヒュッ!
男が倒れる。
「一人。」
「なにっ!?」
「二人。」
「くそっ!」
「三人。」
次々と。
敵が倒れていく。
そして。
建物の奥。
ルチアが杖を振る。
「《風刃》。」
ズバァン!!
風の刃が床を走る。
男たちが慌てて飛び退く。
「うわぁっ!」
「魔法使いだ!」
「近づくな!」
「遅いです。」
ルチアが杖を向ける。
「――《雷槍》。」
バチィッ!!
青白い閃光が走る。
男たちの武器だけを弾き飛ばす。
「ぐあっ!」
「武器を捨てましたね。」
ルチアは静かに言う。
「これで捕まえられます。」
建物の外。
エリックは。
静かに杖を構えていた。
「……。」
ミーナが動く。
その動きに合わせ。
防壁が移動する。
「……。」
エリックが少しだけ杖を動かす。
防壁の位置が変わる。
ミーナがさらに踏み込む。
また。
防壁が展開する。
「便利だな。」
エリックは呟いた。
その時。
ドンッ!!
建物の奥から。
今までとは違う。
大きな衝撃音が響いた。
ミーナの身体が。
後ろへ吹き飛ぶ。
「ミーナ!」
ルチアが叫ぶ。
ドォン!!
ミーナが壁に叩きつけられる。
「……っ!」
防壁が。
ギリギリで受け止めていた。
「……誰です?」
ルチアが。
ゆっくりと顔を上げる。
建物の奥から。
一人の男が歩いてくる。
「雑魚ばかりでは。」
低い声。
「話にならんな。」
その男が。
ゆっくりと剣を構える。
「……。」
ルチアの表情が変わる。
ミーナも。
立ち上がる。
「……強いですね。」
「ですね。」
二人が。
初めて同時に警戒した。
そして。
建物の外。
エリックが。
その男を見た。
「……。」
「ボスか。」
エリックは。
静かに杖を握り直した。
男が踏み込む。
ドンッ!!
床が砕けた。
ミーナが横へ飛ぶ。
その瞬間。
ルチアの魔法が飛ぶ。
「《雷槍》!」
バチィッ!!
男が腕で受け流す。
「甘い。」
「――ッ!」
ミーナが背後へ回る。
カチッ。
杖の中から刃が滑り出す。
ヒュッ!!
男が振り返る。
ガキィン!!
刃と剣がぶつかる。
「そこです!」
ルチアが魔法を放つ。
ドォン!!
男が吹き飛ぶ。
だが。
倒れない。
「……。」
男が立ち上がる。
ミーナが構える。
「まだです。」
再び踏み込む。
速い。
右。
左。
背後。
ミーナが次々と位置を変える。
その動きに合わせ。
ルチアが魔法を撃つ。
二人の攻撃が。
見事に噛み合っていた。
だが。
「……。」
男は。
全てを凌いでいた。
「速いだけでは。」
男が剣を振る。
ガキィン!!
ミーナが防壁ごと弾き飛ばされる。
「決め手にならん。」
ミーナが着地する。
「……。」
ルチアが杖を構える。
再び。
二人が動く。
攻撃。
回避。
連携。
そして。
また。
男が耐える。
「……勝てない。」
ミーナが呟いた。
ルチアも。
小さく頷く。
「……はい。」
その時。
建物の外から。
エリックの声がした。
「……なるほど。」
「?」
三人が一瞬だけエリックを見る。
エリックは。
二人の戦いを見ていた。
「お前たち。」
「はい。」
「連携はいい。」
「……。」
「速さもある。」
エリックは。
少し考える。
そして。
「でも。」
一拍。
「四コマ目が足りない。」
「……?」
二人が首を傾げる。
「四……コマ?」
エリックは。
戦場を見る。
一撃。
二撃。
三撃。
そこまでは。
綺麗に繋がっている。
だが。
最後の一撃がない。
「だから勝てない。」
エリックが言う。
「……。」
ミーナが敵を見る。
ルチアも見る。
「……確かに。」
エリックは杖を持ち上げた。
「俺が足してやる。」
「何を?」
「四コマ目。」
今回は、かなりエリックらしい回になった気がします。
命がかかった暗殺事件。
それなのに。
「席、変わってやる。」
で、あっさり「ボス」と呼ばれるエリック。
さらに、最初は尾行を嫌がっていたのに、
「お米の種。」
「行く。」
……。
作者として書いていて、
お米の力って凄いな。
と思いました。
そして最後は、エリックの漫画家脳。
「四コマ目が足りない。」
次回、エリックが何を足すのか。
お楽しみに。




